■はる書房 20221206
熊野には不思議な光景がいくつもあった。火山もないのにたくさんの温泉がわき、奇岩があちこちにあり、それぞれ聖地になっている。なぜ? 科学的に調べるほど神秘的に思えてしまう不思議。科学と神秘は矛盾するわけではないんだな、と思わせられた。
かつて熊野には巨大な火山があった。
那智大滝の岩壁はマグマからできた火成岩体で、海側の堆積岩体が浸食されることで形成された。ゴトビキ岩のある神倉山や新宮の御船島、古座川の河内島、串本の橋杭岩などの「聖地」も火成岩だ。
熊野古道の大雲取越は、堆積岩体が陸になった後にマグマがふきだして火成岩体が乗っている場所だ。森に無数にころがる巨大な「玉石」は、火成岩体に発達した柱状節理が、節理(割れ目)に沿って風化し、外側から皮をむくように角のとれて(タマネギ状風化)形成されたものという。十津川村の玉置山は巨大な玉石が御神体になっている。
熊野川をカヌーで下ると、本宮から日足までは川幅が広いのに、さらに下ると、急崖せまる峡谷になる。上流は浸食されやすい堆積岩体なのに対して、下流部分が硬い火成岩体だからだ。下流の峡谷部分で水がせき止められるから、日足周辺は水害にあいやすいという。
火山がないのに数百の温泉があるのはなぜか。
「熊野カルデラの火成岩体が熱源と考えられたことがあったが、熊野の火山活動は古すぎて地下の岩体は冷えている……。紀伊半島沖の南海トラフで、海洋プレートが沈みこむことによって、水が地下深いところまで運ばれ……含水鉱物が沈みこみ、温度・圧力が上昇すると、脱水分解して水が放出される。その一部が上昇し…… 地表と地下の深いところとは、海洋プレートを仲立ちにして水が循環している」と説明する。
だが最近読んだ別の本(http://www.reizaru.sakura.ne.jp/wp2/?p=2270)には、こうした水の循環の規模はきわめて小さく、「熊野カルデラの火成岩体が熱源」と考えるほうが妥当だと書いてあった。
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▽13 那智大滝の岩壁は火成岩体(マグマからできた岩体)なのに対して、飛瀧神社は熊野層群(海底に地層をつくった堆積岩体)にあり、地質境界が両者の間にある。火成岩鯛は、浸食には比較的強い。熊野層群はもろくて浸食されやすい。
……ゴトビキ岩のある神倉山から大雲取山への山々、熊野川対岸から御浜町と熊野市境の風伝峠までつながる山々がマグマからできた火成岩。
新宮の御船島、古座川の河内島 マグマからできた岩体を母体とする。
▽19 花の窟 流紋岩質火砕岩は、風化によって滑らかな一枚岩状の岩盤や虫喰い状の風化洞窟を形成しやすい。獅子岩や鬼ヶ城も。
▽21 熊野カルデラ火山 巨大な火山
▽24 大峯奥駈道登り口ちかくにある「備崎磐座群」〓大斎原を南から望む絶好の場所。海底で地層をつくった堆積岩である厚い砂岩が母体。
大雲取越の「円座石」、伊勢路の「志古の磐座」新宮市の相須神丸の「高倉神社跡」も。
那智山と神倉山などの霊場が火成岩体であるのにたいして、本宮や新宮市熊野川町には堆積岩体を母体とする霊場がある。
▽26 紀伊半島の大部分は陸化した付加体
▽31 社殿のない聖地
熊野市の札立峠越沿いにある丹倉神社。流紋岩の巨岩の聖地。本宮の津荷谷にある「黒尊仏」は流紋岩の岩脈。
▽33 大雲取の円座石は、砂岩のなかにできたノジュール。
本宮の「ちち様」も、音無川付加体の厚い砂岩のなかにできたノジュール。
▽34 玉石 ほとんどが流紋岩、流紋岩質火砕岩、砂岩。
大きな玉石はタマネギ状風化で形成されたものが多く、小さな玉石はポットホール(甌穴)のなかで摩耗されたもののほか、海浜や歌唱で丸く摩耗されたものなど。
▽35 十津川村の玉置山。ひとかかえほどの玉石が玉石社にまつられている。玉置山の名の由来とされる
▽新宮市の高野坂。海に突き出た岩体をこえる参詣道。先端は御影石の石切場。
▽45 大雲取越の恐竜の卵のような巨岩。 タマネギ状風化でできた。マグマからできた火成岩体には、柱状節理が発達。この節理(割れ目)に沿って風化が進むと、外側から皮をむくような風化に移り変わり、角の取れた丸い巨岩が形成されやすい。
……海底に積もった堆積岩体の上に陸化して後に活動したマグマからできた火成岩体が乗っているところをとおる峠道が大雲取越。
▽48 串本町の橋杭岩、古座川の一枚岩、高池の虫喰岩、那智勝浦町の虫喰岩。
▽50 円座石
▽53 潮岬や樫野崎の灯台の元官舎は、石積み。宇津木石で、五輪塔や宝篋印塔などの石造物に使用された流紋岩質火成岩。
▽61 川の参詣道 熊野川が、硬い火成岩体をつっきって流れるので、峡谷となる。
▽64 日足から上流側では、川幅は広くなる。……火成岩体は急崖せまる峡谷なのにたいし、堆積岩体のところはゆるやかに。
▽77 紀伊半島南東部は雨が多い。
▽80 和歌山県初の水力発電による電気点灯は新宮。
▽82 用水路 火成岩体と熊野層群の境界のやや下あたりをとおしている。このような位置には、生活古道も。
▽99 火山がないのに温泉 熊野カルデラの火成岩体が熱源と考えられたことがあったが、熊野の火山活動は古すぎて、地下の岩体は冷えていることがわかってきた。紀伊半島沖の南海トラフで、海洋プレートが沈みこむことによって、水が地下深いところまで運ばれ……含水鉱物が沈みこみ、温度・圧力が上昇すると、脱水分解して水が放出される。その一部が上昇してきている。このような上昇する熱流体の通路となっているのが、地下深くまでつながった弧状岩脈であると考えられます。
地表と地下の深いところとは、海洋プレートを仲立ちにして水が循環している。
▽102 熊野には415を超える温泉(2008年現在)。最も多いのは那智勝浦の175、次が白浜町の98、田辺市の65。
ほとんどの温泉水は、その地域にふる雨水を起源にしている。湧き出す温泉水の量は、周囲に降る雨量にともなって変化している。……100年ぐらい前に降った雨水がもとになって地下深くから上昇してきた熱流体をとりこんで、温泉水になった。
▽108 熊野には銅・硫化鉄鉱山がもっとも多く43、金銀アンチモン鉱山が4,コバルト鉱山が4……
那智勝浦町の市野々の尻剣谷には9窯が上下2列にならんだ焼窯の跡がある。鉱石を焼いて硫黄分をとりのぞいた跡。鉱石を製錬するために、多量の木材が消費された。
▽110 本州最南端の前方後円墳。那智勝浦町の大田川河口近く。下里古墳。
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