■時代を視る眼 本田靖春作品集 20140121
(1993年出版)
▽83 1988年、市ヶ谷の「反戦自衛官」たちの中心的存在であった第4中隊の佐藤備三二陸曹は、北方への転任の内示を不満として…多くの陸曹が佐藤氏の支持にまわった(反戦自衛官がいた時代)。20数名集まった。
藤尾 片岡
警察から釈放された後、自衛隊のほうに強制的に連れ去られていったわけです。面会者には会わせない、電話は盗聴する、反戦なんていう奴は人間じゃないといった意味の罵詈雑言をどんどんいってくる。
▽101 私が職場で主として指導を受けたのは、戦中派と呼ばれる大正世代であった。この人たちに、ほぼ共通していえることがある。下に向かって、何事であれ強制しない。声を荒くしたり叱責したりもしない。かといって無責任なのではなく、いまはやりの言葉でいうと、やさしいのである。自身の体験がすさまじければすさまじいほど、自ら進んでそれを語ることはしなかったが、深夜の赤提灯などでこちらからたずねると、ぽつりぽつりと話してくれる人はいた。
▽105 平和憲法は、極少数派を除いた全国民的な合意の下に制定された。
▽107 実感に基づいた全国民的な合意であった。…保守層も含めた圧倒的多数の「基本法」として誕生を見たのである。
▽150 60年安保 いま振り返ってみると、あの場面が幻であったような気さえしてくる。国会周辺を埋め尽くしたデモ隊の熱気は、いったい何であったのか。
▽156 護憲派の改憲案 自衛隊の存在を明文化して合憲とする。…自衛権は、個人にも国家にも、固有の権利として認められている。したがって、自衛隊を持つこと自体は平和憲法の精神に反しない。…私が想定しているのは、あくまで地上戦である。したがって、大がかりな航空自衛隊や海上自衛隊は必要ない。
…そうすることで浮いた予算を、そっくり国際貢献に回す。別組織を創設。その規模は万単位であるのが望ましい。…<前項の目的を達するため、専守防衛の戦力以外は、これを保持しない。その戦力の海外派遣は、これを認めない>
▽162 政界が二大政党へと向かって動くとしたら、…憲法問題はかならず大きな争点となる。そのとき、片方が「護憲」だけを唱えていたのでは、勝ち目があるかどうか、はっきりいってわからない。自分の暮らしさえよければ他のことはどうでもいい、といったような人間が増えている昨今、楽観的にはなれないのである。…ここで示した案は、これから先、護憲派の後退が続くであろうというさびしい見通しに立っての陣容の立て直し策とでもいおうか。(1993)
▽179 「金〓き老事件」
▽184 事件は、多くの場合、社会的病巣から吹き出されたウミのようなものであり、犯人は社会的弱者である。キンキロウ事件はまさにそのケースであった。であるなら、日本社会が抱える差別と抑圧の構造に目を向けなければならない。職場でそのように主張したのだが、反発を招くか無視されるかのどちらかであった。
これから先、この新聞は悪くこそなっても、よくなることはない。そう見極めをつけていた私は、そのときすでに退社の決意を固め、あとは時機を選ぶだけの状態にあったのである。
3年後に会社をやめた。やめるに当たって、はっきりしたテーマを2つ持っていた。その一つがキンキロウ事件であった。
▽202 慰安婦問題で上坂冬子に反論 上坂氏の父上は戦時中に長野県の特高課長をしておられた。…病に倒れ、みすぼらしい官舎へ転居しなければならなかった。…落魄の思いも上坂氏は綴っているが、早い話、彼女はお上の強制命令に従わねば生きていけなかった側にではなく、強制命令で国民を脅しつけていた「お上」の側の人間だったのである。
▽214 エリツィンは、各級の地方首長を大統領である自身が任命すると宣言した。…自身を「皇帝」に、地方首長を「総督」にたとえた。…これはたいへん危険な思想である。なのに、演説のその部分は翌日の新聞にどこにも載っていなかった。
…演説を生中継したことによって、このリーダーにも独裁者になりかねない恐れがあることを、ブラウン管を通じて知った。
▽222 原油まみれの海鵜 イラク側が原油積み出し基地から意図的に原油を流出させていると米国防総省は発表した。
これは後に、カフジのアラビア石油のプラントがイラク軍の攻撃を受け、破壊されたタンクから流出した、と「訂正」されるのだが、海鵜のあわれの姿は、世界中に「フセイン憎し」の感情を巻き起こした。
これに疑問を抱いた「ザ・スクープ」の取材チームは、真相究明に乗り出す。その過程で、シーアイランドへ原油を送るパイプの陸地側のバルブは、すべて1月13日に閉められていた事実を突き止めた。また、アラビア石油のプラントにも原油流出の事実はなかったことを確認する。
では原油の出所はどこであったのか。
…海鵜の映像にシャープ記者は「流出の責任はどちらにあるかわからない」とのコメントをつけたにもかかわらず、その映像をロンドンで受信したイギリスのテレビネットのWTNがNYに向けて配信したときには、その部分がカットされていた。そして、アメリカ側の情報操作に、それが利用された。
▽239 新聞社育ちのあたしにはアルコール依存症ならぬ情報依存症といったビョーキがある。朝起きて、その日がたまたま新聞休刊日に当たっていたりするととたんに不機嫌になる。
▽250 読売の経営状態悪化。その大きな原因は、正力松太郎氏の「妾ぐるい」にあった。よみうりランド構想。その宣伝役に駆り出されたのが、社会部の中の最精鋭部隊というべき遊軍であった。
よその世界から見ればハナ持ちならないかも知れないが、、新聞記者は誇りに生きている。その誇りを失ったとき、新聞記者ほど始末の悪いものはない。
「正力コーナー」を拒否するために、みなで立ち上がろうともしない。そこまではまだ許せるとしても、許せないのは、自分のやる気のなさを「正力コーナー」に転嫁して、本来の仕事もサボる連中えある。気がつくとそういう手合いが、多数を占めていた。
務台専務のクーデター(雲隠れ) 専務の諫めるのもきかず、経営がおかしくなるまで、よみうりランドに新聞からの上がりをつぎ込んでいたのである。
務台の行動は、引責辞職という形をとりながら、実際には一人で仕掛けたクーデターであった。この一件を境にして、絶対とされてきた正力社主の社内権力にかげりがさしはじめ、組合の要請で職場に復帰した務台専務は支配力を強めていくのである。
▽262 ゴルフ場問題 千葉の場合は、県の総面積の2パーセント強がゴルフ場になっているそうである。…全国の面積は、造成中、計画中のものを合わせると22万3300ヘクタールで、東京都全域の広さに匹敵するという数字。
▽272 証券会社が銀行、保険会社などとならんで、高級を社員に払っていることに、日本社会のいびつさを見る思いがしてきた。他人のカネをハンドリングしてサヤを稼ぐこれらの業界の人たちが、他人もうらやむ高給取りであってよいものか。
…バブル カネは企業とその周囲にうごめく怪しげな人種を肥らせはしたが、庶民からマイホームの夢を奪い取ってしまったではないか
▽275 私は車も持たない。家も持たない。
▽283 働きづめに働いて、まともに家一軒持つことができない。こうした理不尽な扱いに、なぜサラリーマンは憤らないのか。どうして「家をよこせ」と政治家に迫らないのか。その要求もせずに、自動車メーカーの宣伝に踊らされて車に逃げ込む愚民の気持ちなど、わかりたくもない。
▽286 バブルがはじけるのはこれから。企業が買い込んだ土地は、…早晩、手放すところが続出するであろう。そのときまで待つのである。
日本社会党に、蘇生の策を進呈しよう。土地・マンション不買運動を組織して、その先頭に立つことである。暮らしの基本は住まいを措いてない。その住まいを確保するには、土地を企業から国民の手に取り戻さなければならない。それが政治というものである(居住福祉)
▽290 私は、いまだに「戦後」にこだわっている。この46年とは、いったい何であったのか。そのことをしきりに考えている(92年1月号)
▽316 売血 輸血用保存血液の97.5㌫を民間の血液銀行が取り扱う売血が占めていた。献血はわずか0.5%。
▽317 新聞で売血全廃キャンペーン 厚生省薬務局の担当課長にその案をもちこむと、実現の可能性はまったくない、と一笑に付された。
…献血が広がりはじめると、献血が病院で突き返されるという事態が枚挙にいとまのないほど起こった。その背後には民間の血液銀行の黒いかげがあった。輸血用保存血液の薬価の一定の割合がリベートとして医師個人または医局ないしは病院に支払われていた。私が調べたかぎりにおいて、例外は皆無だった。
…そこで、厚生省に談じ込んで、全国の国公立病院長にあて次官通達を出してもらった。「献血を最優先に使用せよ」と。
私は紙面で、この通達に違反した病院はその名前を公表する、と宣告した。これによって国公立病院の障壁は打ち破られたが…
丸4年にわたったキャンペーンを通じて、私の前に立ちはだかった難敵の最たるものは、カネを平気でもらうことに慣れきった医師たちであったといっても過言ではない。
▽334
▽352 二浪を目指す倅に、私は職人への道をすすめた。形をとって表れる手作りの仕事の魅力を説いた。職人に学歴はいらない。
▽362 競馬ブーム かつて競馬は白眼視されていた。あのころの日本人は全体として、いまよりはるかに真面目だったという気がする。…支持政党はちがっても、人びとは政治に自分たちの未来を託していたという点では変わりがなかった。だからこそ、鋭い対立も生じれば激しい衝突も起きる。
…昭和30年代初頭の日本で、競馬は社会に受け入れられていなかった。その賭博性が嫌われたからである。
▽372 空前の競馬ブームの背景は? まず政治不信…もう一つは労働意欲の喪失である。金融・証券界の不正事件で明るみに出た企業の投機的体質は、額に汗してこつこつ働くことの報われなさを、国民に実感させた。…そうでmなくても3Kが厭われる時流のなかで人々は労働意欲を失っている。
…いまの世の中は、真面目な人たちが社会の片隅に追い込まれてしまっている。失われた白い眼が懐かしい。(競馬への白眼視)
▽381 相撲 小錦 私が意見を求められたとしても、彼の横綱昇進に反対したであろう。相撲ファンは弱い横綱なら必要としないからである。
近いところでは、大乃国というどうにもならない横綱がいた。…彼の前には双羽黒という箸にも棒にもかからない横綱がいたので、世間の風当たりはさほど厳しくはなかったが、見ているほうが情けないくらいであった。同時期に千代の富士の存在がなかったら、相撲ばなれが広範に起きていたに違いない。
(ずばりという。相撲ファン)
▽402 中上健次 中上さんは、酒とかセックスとか風呂とか、血管をふくらませることは全部好きだ、と常日頃いっていた。…
1990年暮れ、…中上さんは、私が精神的に落ち込んでいるのを聞き知っていたようで、別れ際に強い調子でこういった。「本田さん、戦えよ。ぐずぐず考えてないで、戦わなきゃだめだよ。おれ、今日は、それをいいに来たんだ」
戦友よ、おれ戦うからな。血管をふくらませて、残された次官を生きるからな。ありがとう、中上健次さん。(92年10月号)
▽431 いい若い者が結婚もしないうちから、「将来、育児休暇をとりたい」と吐かすのは、初潮もみないうちに、OLになってからの生理休暇を計算に入れて、レジャーを夢見るようなものではあるまいか。
いくら男がだめになったからといって、差し迫ってもいないのに育児休暇を申し出るほど廉恥心を失っているものは、きわめて少数だろう。私はいささか男のことを知っているので断言するが、そうした手合いはろくなものではない。
▽436 ことほどさように、女性の内面に関してはわからないことだらけである。しかし、女性の時代は確実にやってくる。私の場合、年も年だし、これからは実習抜きの座学一本槍だが、せいぜい勉強するとしよう。
▽447 現皇太子のお后選びが難航した最大の理由が、かつての美智子妃に対するいじめにあったことは疑いもない。皇太子の「一生、全力で守る」という雅子さんへの言葉は、その事実を認めたことを物語っている。
…皇太子が雅子さんとの交際を一時中断した理由の一つとして「チッソ」の名前を挙げたのは、従来の皇室からすると考えられないことであり、…
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