■サンパウロからアマゾンへ<本田靖春> 20140107
昭和51年の本
▽ひょうひょうとした文体。
▽58 強精秘薬マラタツウ、これは勝手につけた名前。本当は、 …催淫剤
▽65 アマゾンの木材は水に浮かず、沈んでしまう。原木を伐りだしてもイカダに組んで流すわけにいかない。
▽76 インディオの女戦士。裸体で襲いかかるそのさまが、ギリシャ神話の女戦士アマゾナスをほうふつさせた。そこから、その大河をアマゾナスと名づけたという。
アマゾナスの部族は、生まれた子供が男だったら殺す。女ばかりに。せいぜい数人の捕虜の男に、女どもが数千人も襲いかかる。男を長持ちさせるため、見つけたのがこの秘薬だった。マラプアーマ〓。アマゾン特産のボロボロノキ科の灌木。催淫剤として用いられている。
▽88 マンジョカ(キャッサバ=マニオカの根から採取したデンプン)=南太平洋のタピオカ
▽116 ブラジルに植民した高拓生は、満州ぎらいだった。「満州浪人といわれた連中は、軍隊を背景に権力のお先棒をかついで…暴力団まがいの仁義を切るとか、そんな手合いだったでしょう。われわれは個人の力、自分の力を信じた。…兵隊の後についていくのは肌に合わない。リベラールなんですよ」
…「時代遅れだった。その高拓生より、もっと耳朶遅れが軍国主義だったということになるのでしょうね」
▽134 高拓生というとき、日系コロニアが共通して描くイメージは、孤高の人。口数が少ない。お世辞は言えない。交際下手。「よくいえば一匹狼。わるくいえば、時代遅れの人たち。プライドが高いから協業ということができない。それで時代に取り残されたのです」
▽197 ジュートの成功 岡山出身の尾山氏。い草の産地。「インドが競争相手になるかもしれない人間に、まともな種子を渡すわけがないではないか。しかし、間違って、いい種子が一つか二つ、まぎれこんでいるかもしれない」と尾山氏。…採取農業しかなかったこの土地に、農業らしい農業をはじめてもたらしたのは日本人であって、ジュートは、アマゾン中流における何よりの産業となった。
▽204 カンジェロという食肉ドジョウ。婦人の秘所に潜り込んで、内部を食い荒らすという性癖を持っている。生理期間中の女性は、絶対に水浴しない。
▽231 進出してきた一流企業の社長がいばりくさる。「コロニアはばかだ」それとけんか。殴り合い。その経験を話したら、サンパウロ新聞に大々的のってしまった。
進出企業とコロニアの関係
▽284 血の気が多いくらいのものである。自分の方からけんかを売ることはない。だが、攻撃されたら、生命の危険を感じないかぎり、必ず反撃に出る。そのあとで、きまって自己嫌悪にとりつかれるのだが。
…背負う看板もない。格別の力があるわけでもない。私は私として、腹を立てたということである。
▽291 日系人は教育投資を惜しまない。「学士様ならお嫁にやろか」の、かつての日本と同じ状態。
▽298 超インフレ時代の描写 ニカラグア
▽316 高級料亭「青柳」 一晩で千ドルという宴会も。年に一度豪遊する老人に、女性の一人が傾いた。ついていったら、ただのみすぼらしい百姓家だった。1年間の収入のすべてを「青柳」で散じていた。
▽346 戦後の日系コロニア 狂信的な勝組(日本が勝ったと思い込んだ人々)集団の臣道連盟による連続テロ。敗戦を認める「認識派」の指導者たちを血祭りにあげた。…ゆがめられた愛国的行為によって、戦後のある時代に、二世が一世から背を向ける原因をなした。「あれほど崇高な日本精神を説いた一世たちは、こんなにも頑迷、救いがたい人であったのか」
…テロは46年から翌年にかけて41件を数えた。死亡者16人…。日本の勝利を信じ込ませようと、マッカーサーが天皇の手に恭しく接吻している35ミリ映画もつくった。ミズリー艦上の「アメリカ軍の降伏の場面」の写真はおびただしい数が複写され…
勝ったと信じて、土地をほうりだして出て行く人が続出。財産処分を「世話人」に白紙委任した。その世話人が詐欺師。
無価値になった旧日本円をブラジルに持ち込んで、日系人に売りつける詐欺も。ユダヤ人組織が仕組んだという通説。
これらの事件はコロニアが情報から隔絶された立場に置かれたところに起因している。
「バストスの直来入植者は1929から33年にかけて入っている。日本の国粋思想の影響を受けて渡伯したものが多かったことを意味する。…経済的にめぐまれなかった人たちが、ナシオナリザソン政策にあい、ますます日本主義的感情を強めた。戦争直前から戦時中の日本語教育の禁止などによって、反動的に植民者たちが日本精神を高揚し、それが後日、臣道連盟活躍の地盤となったことも、彼ら直来移民たちの思想的影響が強かったことによると見ていいだろう」。
▽386 小野田少尉と話し込んだ。彼の発言のすべてを紹介したら、間違いなく、大波紋を投じることになるだろう。さしさわりがないものだけを紹介すると …「私に命令を出したのは天皇です。なぜ、戦争が終わったときに、連絡にこないのか。救助とか…ではない。連絡にくればいい。…それが証拠に、命令書が来たら、私は4日で出たじゃありませんか」「宮城参拝したとき、『カメラが十重二十重に囲んでいて松しか見えなかった』と答えたの、あなたおぼえていますか? 私としては、そうしかいえない。物をいうと、必ず国家権力がギッと抑えにくる。三十六計逃げるしかありません」
▽412 アルゼンチンは、相次ぐ政争と経済破綻で、南米大陸ナンバーワンの座をブラジルに奪われた観がある。
▽442 古い「高一時代」が安く売っている。でも売れない。日系人がブラジル人になりはじめたため。
▽445 加害者不明の被害者集団、それが日系人社会。それは、明らかに日本の縮図であって、そこを支配してきたのは、よくもわるくも日本的な意識であった。俗に島国根性と呼ばれているものである(〓純粋系で日本が残る)
▽465 アマゾンに近代農業を定着させ、ピメンタという産物を育てたのは日系人。その中心がトメヤスー。
コロニアは異口同音にいう。「日本でごく普通の人間なら、ブラジルでまじめにやりさえすれば、必ず成功する」
「新しい日本人」は、可能性を秘めたブラジルで、これから生まれるのではないか。
▽472 ブラジル移住のすすめ。…日本の高校 図書室では本を読むのではなく、受験のための参考書を開いている。「高校在学中の読書量の平均が3冊。…s」
▽484 私自身が16年間のサラリーマン生活を通じて得た結論をいうと、日本人はひどく不自由な民族であって、それは、大半を占めるサラリーマンが年功序列型賃金と終身雇用制度にしばられ、個の尊厳を放棄しているからである。
▽498 今日より明日が、明日より明後日がより素晴らしい日になるのだと素直に信じられる人々は、ほんとうにしあわせだと思う(フロンティア)
「私は私として」
雑学
トリビアとしてのおもしろさ。をまじえて話を進める。ストレートではなく「むだ」が多い。そのおもしろさ
高拓生ゆかりの地を訪ねる。
日本以上の「日本」を描く。
コメント