■悲しみに寄り添う 死別と悲哀の心理学<ケルスティン・ラマー著、浅見洋、吉田新訳>新教出版社 201401
▽4 福島の状況……今日の西洋の悲哀研究の立場から考えると、喪失を克服するのを困難にする多くの危険因子が見いだされます。「悲惨な死亡状況」「悲哀反応の抑圧と先延ばし」「生死の確認ができないこと」「悲しみを妨げる状況」「併発して起こるさまざまな危険」などです。
▽7 最新の悲哀研究の成果。……悲哀の「段階(ステージ)モデル」の長所と同時に短所に言及し、本書では課題(タスク)モデルを提案する。〓
▽17 悲しみの定義 「悲しみとは、重大な意味を持つ喪失に対するごく正常な反応である」(フロイトの定義の一般化) 悲哀は、深刻な喪失を受け止め、変化を遂げるためのごく当たり前で健全な、そして精神衛生上、必要不可欠なプロセス。
(〓病的なものではなく、ごく正常なもの、必要なもの、という肯定的なとらえかた)
▽20 かつて死別や死は日常的なものでした。今日、日常生活上の体験や意識から遠のいています。悲しみを乗り越えることもなじみのないものになっています。
私たちの先祖は、私たちよりはっきりと「死」から「生」を捉えていました。死は部分的にですが、とても肯定的なもの、死は苦しみからの救い…などととらえられてきました。しかし、医学の進歩によってそうした評価は完全に逆転してしまいました。死は日常生活においては出会うことのない恐ろしいものとして経験されています。
……現代社会は死や悲哀の出来事を病院化したのです。「死の準備をすること」を難しくし、最後の別れを告げることも難しくしています。
……教会での葬儀の数は減り、大都市部では、儀式も親族の参加もない無名の埋葬が増えています(ドイツでも)
……死別の際、人々が共に行う共同作業はますます不慣れなものになっています。遺された人たちが社会的にほとんど支えられていないことをも意味しています。(能登のオトウはその正反対) 悲しみを1人で乗り越えるようにという要求が高まるに従って、1人で向き合う必要も増しているのです。
……死別と死、悲哀が社会的に病院化し、私事化し、個人化した状況に私たちは置かれています。それゆえ、死と関わることへの不安と忌まわしさが増しているとしても驚くべきことではありません。〓
▽28 教会の悲哀に寄り添う3つのスキル
……死、復活、審判、永遠の命といった概念には幅広い解釈の可能性があります。この広い解釈の可能性を豊かさとチャンスとして受けとっています。(多様な解釈ができるから聖典になりうる)
……死を前にしている人、苦しむ人たちから、神学の実践することを学ぶのです。
……病院や老人ホームへ自ら出向くことが大切です。
▽32 エリザベス・キューブラー・ロス タブーを破って死や悲しみについて公に論じ始めた。……否認・怒り・取引・抑鬱・需要といった段階モデル。
▽42 リンデマンにつづく研究者は、期間の問題により多くの時間をさきました。多くの場合、強烈な悲哀の期間は死別後3~6カ月です。相対としての悲哀は1年か2年で終わりを告げるとされています。
……段階モデルで想定されたようなきっちり整った悲哀プロセスはもはや現実に即していないことが明らかに。これまでの研究結果は悲哀の多彩さ、多様性、幅の広さを示しているのです。
……最近の研究によれば、悲哀プロセスは考えられていたよりもかなり長い期間であることがわかってきました。5年以上の長さであることも珍しくはありません。
(悲しみを型におしこめるおかしさ=西洋科学の狭さにつながる?)
▽49 悲しみそのものが一種の病気である、という考え方よりも、「悲しみは正常なものである」という認識の方がはるかに優っている。「正常な悲しみ」と「病的な悲しみ」の境界は流動的。「病的な悲しみ」という概念は避けるべきで、そのかわり、危険因子が多く見られる場合には「深刻な」悲しみという言葉を使うべき。
……悲しみは人を病気にする。これは正しい。……ふつうの人と比べると、死別後1年では平均して6日から12日も長く病気になっています。死別後最初の半年の間では、通常より平均して約3倍も死の危険性が高まります。……アメリカでの調査研究では、妻を1週間以内に亡くした男性の場合、死の危険性の割合が特に高くなる。女性では通常10倍ですが、男性の場合は66倍にもなります。
▽なぜ、なにを悲しむのか(さまざまな学説から)
▽59 フロイト 身近な人の喪失を「リビドーを満たす対象を失うこと」……遺族が亡き人から完全に引き離され、自我が「再び自由に解き放たれ」れば、悲哀は克服されたとものと見なされます。他の人と新しい愛の関係を築くことができる。
▽62……フロイト理論への批判と修正 私たちは「愛する」人間に対してだけ悲哀の思いを抱くのではない。むしろ、人生において何らかの形で意味をもち、影響を与えた人物に悲しみを抱きます。否定的な思いや相反する思いを抱いた場合でも、そこには意味があり……新しい関係に向かうには……フロイトから述べるような故人から完全に離れることではなく、むしろ、何らかの意味を与えつつ、故人を再配置することに目を向けるべきです。遺された人の人生にとって、亡き人がどのように変わることなき意味を持っているかを明らかにする。このような意味を内面化することができれば、故人が現実に存在していなくても、生きている間に共に歩んだ道のりを思い出して力を得、歩み続けることができるでしょう。(意味をとらえなおす〓)
▽67 メラニー・クライン 悲哀のできごとは、人間的な成長へと導く成熟の危機んもなる……たとえば、人や物を理解する力が高まり、他の人々に対して寛容になり、また賢明さも増すのである。
▽78 ボウルビィ理論 他の心理学で否定的に評価されていた、探索行動や攻撃行動といった悲哀反応について肯定的な意味を説明した。……死を現実のものとし理解するために、一定の時間と場所を必要とする学習プロセス。……悲しみを抱える人に寄り添うためには、臨終の場から付き添う必要があります。悲しみに寄り添うのは早ければ早いほどよい。
▽ 行動心理学
▽89 現代社会における規範、伝統、習慣の喪失は、思い通りに生きることが出来るというメリットとともに、どのように生きればよいのかを示す方針がないというデメリットももっているということを、悲哀の出来事の場合にも……(能登は型が残る社会〓)
▽社会生物学
▽シュトローベ夫妻と認知的ストレス理論
▽105 シュトローベ夫妻によれば、パートナーの死を通して故人によって担われていた最も必要とする4つの支えが欠けてしまいます。(1)「実生活上の支え」、(2)「正しさを保証する支え」、(3)「感情的な支え」、(4)「社会的アイデンティティ」。 (1)妻を亡くした夫は、家事が負担に……、逆に介護が必要だった人が亡くなった場合は、遺された人の負担は免除され、軽減される。
(4)「子ども」から「孤児」に。「妻」から「未亡人」に。最後に残った両親の1人の喪失は、子どもとしてのアイデンティティを失った。自分が次に亡くなる存在になる。▽115 悲しむ人への援助
「段階モデル」のかわりとして「課題モデル」を提案。
▽118 段階モデル 悲哀プロセスの特徴を強調し、悲哀の現象をごく正常なものとして、あくまで一時的な特徴として紹介しました。
しかし、大きなデメリットがある。悲哀の多様性をたった一つの単純なイメージにしぼってしまう。図式化、規範化しすぎている。
「この時にあなたは「正しく」悲しんでいませんでした」と言うように、悲哀の行動が規格化され、悲哀を抱える人に窮屈な思いを抱かせてしまいます。
段階モデルは、援助をする人が診断者の役割を果たすように促してしまいます。……早く次の「高い」段階に向かうように支援しようとし、かたわらに立つ代わりに(上に立つとまでは言わないまでも)向かい側に立ってしまう。
「ショック段階」を脱するまで遺族の家を訪問するのを控え、待つようにと教えられてしまう。……しかし実証研究からは、死の告知を受けた後の最初の数分、または数時間の間に考えられ得るありとあらゆる悲哀反応が観察できるのです。「ショック段階」は神話にすぎません。……悲しみを抱える人に寄り添うのはその時期が早ければ早いほど望ましい。
▽127 シビルスキーのモデル 「過去」(固執としての悲しみ)と「未来」(逃避の体験としての悲しみ)、「内面」(「自己」をめぐる悲しみ)と「外面」(「あなた」をめぐる悲しみ) 悲しみは、統合を目指す課題のまわりを螺旋状にまわっている。
……あちらこちらへ、前へ後ろへとふらつくことが悲哀プロセスに含まれていることをこのモデルは示す。外見上は後退し、反復しているようにみえながら、実は同時に新しく展開し、前に進むことができると明示している。
▽129 課題モデル 死の事実をはっきりみとめることが最初の課題。死体を目にして……体全体を通して理解すること。体と体との接触を通じて経験し、行動を行うこと。故人への最後の愛の奉仕をなすその時、その場でこそ死を理解することができるのです。
遺体と向き合うのを励ますのは意味があることだと思います。……亡き人の姿についての遺された人たちが抱く幻想と恐怖は、現実よりも悲惨だからです。現実の状態と照らし合わせておかないと、このような想像と恐怖は後になってから一段と高まり……。
……ごく簡単に、美辞麗句を交えず、事実を淡々と遺族に伝えることが、死を理解する助けとなります。
▽133 第二の課題は悲しみの表出を援助すること。(それが難しいかも)
「ふつう、人はどのように悲しむか」という自分の想像からできるだけ自由になることが大切です。
▽140 故人から離れる最初の道、故人なしで歩く最初の道はとてもつらい。そのための援助は儀式を通して与えることができます。たとえばロウソクを灯し、それを消す。喪服を着て、再びをそれを脱ぐ……伝統的な儀式を用いることもできますし、新しい儀式を見つけることもできます。(〓儀式の意味 マヤとプロテスタント 儀式の否定が文化をなくす)
故人のいない最初の週末、最初のクリスマス、最初の誕生日。故人を亡くした後にはじめて行うあらゆる事柄が、遺された人にとってハードルとなり、または発展の道標ともなります。そんなとき、自分を支えてくれる人がいると気持ちはやわらぎ……
▽144
▽146 悲しみを抱える人と対話する際のガイドライン
・「亡くなった」と言葉にして言う。
・悲哀反応を求めるのではなく、援助する。
・苦痛をやわらげることは妨害することである。
・あなたの言葉ではなく、私の言葉で(「あなたの気持ちは私にはよくわかっています」などと口にしてはいけない)
・「あなたの悲しみ」は「私の悲しみ」ではない。(「わかっている」と言うのではなく、相手がどのような状態かを問いかける)
・よく聞き、話をさせる
・援助を申し出るのではなく、援助を届ける。「必要でしたら電話を」ではなく、自分から電話をかける。お願いさせるのではなく、そこに自分がいること。
・一度は数のうちに入らない。(援助を拒否されても、何度もそれを行うべき)
・最初の時が一番つらい(祝日、記念日、誕生日、命日に1人にしてはいけない)
・置き去りにされた人に信頼を与える(不確かさや失望を生みだしてはいけない。しっかり約束して会うことが大切)
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