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私の遺言<佐藤愛子>

■私の遺言 <佐藤愛子>新潮文庫 20130709

 筆者の兄は佐藤ハチロー、父は佐藤紅緑。
 北海道に山荘を建てて以来、奇怪な現象におそわれつづける。霊能者に相談し、原因をさぐると、さまざまな因縁がからみ、佐藤家の先祖の問題や、虐殺されたアイヌの怨念などが原因だという。
 30年に及ぶ霊との格闘のなかで、自分の生き方を振り返る。
 敗戦後の混乱の中で夫を麻薬中毒で亡くし、次々に襲う不幸を独力で乗り切った。だから初詣も子供のお宮参りもしなかった。
 霊と正面から向き合うことで、自分が生かされていたことに気づく。
 そして、「与えられた苦しみを不条理と反発してもしようがない。どんな不条理でも受け入れるしかない。それを受け入れて苦しむことが必要なのだ。それがこの世をいきる意味であるらしい」「病床で苦しみ、死について考え、生への執念を捨てて死を受け入れる準備期間があった方がいい。いくらかでも自分を浄化して死んだ方が、あの世へ行ってからが楽だ」と記す。
 苦しみを忘れたり、ピンピンコロリを望んだりするのではなく、苦しみを苦しみとして受け入れ、その苦しみを肯定的に受け止められたらいいだろうなあと思う。アンドウは、最後は苦しみに悲鳴をあげたらしいが、苦しみを受け入れる、という形に近い生き方と死に方をした。
 そんな生き方をするためには、霊とか神といった自分を超える他者の存在が必要なのかもしれない。
 霊能力やら霊界やらの記述はいささかうさんくさいが、読後感は悪くない。
 アイヌの受難についての記述は、これまであまり知らなかったから興味深かった。

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・37 「コロッと逝きたい」と願う人が多いが、病床で苦しみ、死について考え、生への執念を捨てて死を受け入れる準備期間があった方がいい。いくらかでも自分を浄化して死んだ方が、あの世へ行ってからがらくだ、私はそう考えるようになった。
(苦しみを苦しみとして受け入れられるとしたらいいだろうなあと思う)
・81 ウタリ協会の野村義一に協力を頼む。
・164 20歳までの幸せと帳尻を合わせるように、困苦が次々にやってきた。自力でそれを乗り越えてきたと自負していた。……私を守っている存在がある。守護霊 二度の結婚の破綻、倒産、借金苦など、波瀾に見舞われて、しかし人一倍元気に生きてこられたのは、私を守り、力を貸す存在があるためにちがいない。
・183 「アイヌ勘定」ごまかして交換。人を疑うことを知らないアイヌにつけこんで懐を肥やした日本人は少なくなかった。文字がなかったから、酒屋もいんちきでつけておいた。知らぬうちにかさんだ酒代の代わりに住んでいる土地をとられてしまう。(グアテマラとの共通点)
 明治になり、アイヌは日本人の名をつけられて戸籍簿にのせられた。当時の戸籍簿のなかには「ふんどし」とか「はなくそ」という名前がある。アイヌ民族には、子供の命を神に奪われないようにと、わざと汚い名をつける風習があったという。戸籍簿をつくる役人は面白がってわざとそのまま日本語にして記したのかもしれない。
・敗戦後の混乱の中で、私の夫は麻薬に溺れて死んだ。おそってくる波瀾を、だれにも神にも頼まず自分一人の力だけをたのんで切り抜けようとしてきた。初詣もせず、子供のお宮参りもしなかった。
 ……子供の頃、神さまは「いつも見ていらっしゃる」と思い、その眼差しを怖れ、つつしみかしこんでいた私の、それが40代の姿だった。
・220 邪霊は「祓う」ものではなく「浄化」させなければならない。祓っただけでは、再び戻ってくる。力で押さえつけてるだけでは教導できず、救いにならないことは霊も人間も同じなのである。
・240 相曽誠治〓 霊能力者で日拝をとく。かつてはどこかの村の村長だった。〓
・246 霊能力者としての美輪明宏
・247 私のするべきことは、神を非難することではなく、アイヌ民族のために祈ることなのだった。
 与えられた苦しみ、やって来た困苦を不条理と反発してもしようがない。どんな不条理でも受け入れるしかない。それを受け入れて苦しむことが必要なのだ。それがこの世をいきる意味であるらしい……。
・285 昔、子供たちが清らかで高い波動を持っていたのは、社会全体の価値観が統一されていた上での教育の力だったのだろう。
 神への畏敬が幼い胸にしっかり植えつけられ、それが良心というものに成長した。成人するにつれて、その畏敬は摩滅していく。けれども一度「良心」をはぐくんだ者の心の底には、「美徳の故里」が痕跡をとどめている。今の若者には「故里」の土壌がない。(宗教、土地や自然、祭りとのつながり)
・「血脈」兄は佐藤ハチロー 父は佐藤紅緑

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