MENU

3・12の思想 矢部史郎

 

■3・12の思想 矢部史郎 以文社 20120706
 震災発生の3・11と区別し、「東京電力放射能公害事件」の起きた「3.12」に焦点をあてる。
 放射性物質は、関東の土壌でも少なくても100ベクレル/キロ検出された。原発労働者が白血病で労災認定を受ける線量に匹敵する年間20ミリシーベルトという積算放射線量を福島の子に押しつけようとしている。放射性物質の回収が問題のはずなのに、原発の安全性の議論にすりかえている。
 放射性物質を含むがれき焼却を「フィルターがあるから大丈夫」というが、放射性物質を高濃度に蓄積したフィルターを誰が交換するのか、という問題を無視している。工場の敷地を隔離して、全面マスクをつけて線量計をもって、作業後に表面汚染検査をして、という作業を一般の清掃工場にやらせるつもりなのか--。
 そう、原発問題をめぐる政府や電力会社の態度はインチキだらけなのだ。
 将来の被害は確実なのに、ウソをつきつづけられるのは、放射能被害の不平等性によるという。
 放射能は、同じ量を浴びても発症する人としない人がいるから人々の集団化を阻んでしまう。実際、米ソの核実験が相次いだ時期に小児がんが急増したが、発症者は圧倒的少数だから責任を追及する力にならなかった。原発周辺でがんが多発しても「因果関係はない」と国や電力会社は主張してきた。
 そうした「不平等性」は、新自由主義の統治と親和性が高いという。
 「大航海時代」の主役は植民地主義国家、「鉄の時代」は帝国主義国家だった。原子力時代を主導し、被爆被害を過小評価するのは、日本政府だけでなく、国際原子力産業や超国家的な国際機関だ。システムの巨大化・中央集権化とともに「不断の管理」が社会全体に広まっていく。
 エネルギーの地域自給の大切さは、社会の管理化を阻止し、民主主義を守るという意味からも重要なのだ。

====================
▽17 放射性物質が拡散してしまった状況の中で、問題は原発の安全性ではない。問題の中心は、拡散した放射性物質をどうやって回収するか。
原発の安全性の議論を蒸し返すというのはごまかしだし、現実逃避。
▽25 関東全域で屋内退避を勧告しヨウ素剤と水を配布すべきときに、政府の関心は電子メールやTwitterで交わされる情報を取り締まることだった。「チェーンメール」問題
▽26 あの日以来、「原子力発電がどのように管理されているか」ではなく、「原子力発電をもつ国家は、社会をどのように管理するか」ということに人々は関心を向けるようになった。原子力をめぐる「管理」の概念は分裂し、反転したのです。
▽38 放射性物質を蓄積して高濃度に濃縮したフィルターを、誰がどうやって交換するんですか。工場の敷地を隔離して、全面マスクをつけて線量計をもって、作業後に表面汚染検査をして、という作業を一般の清掃工場にやらせるつもりなのか。放射性物質を焼却濃縮するなんてことは、原子力発電だってやったことのない作業。フィルターがあるから大丈夫というような暴論を言う人は、現場の人間のことをすっかり忘れているんです。
▽46 福島県産の花火を打ち上げようとした主催者に対し、強い抗議をして、打ち上げないことになった。30代の主婦。・・・花火を調べたらやっぱりセシウムが出てきた。
▽60 シーベルトは、みなしの数値。放射線の威力はアルファかベータかガンマかという種類によって違い、人体の器官によって与えられる打撃も一様ではない。それを無理矢理シーベルトに換算している。
 これに対してベクレルは信用できる単位。食品では1キロ当たりのベクレル、土壌では平方メートルあたりのベクレルで放射性物質の量を表す。
▽69 土壌検査で検出する放射性物質の量は食品検査とは一桁ちがう。関東の土壌であれば少ない土でも100ベクレル/キロ。平均的な場所では200~300はふつうにでる。ポイントになるのは半減期2年のセシウム134を検出すること。
▽77 セシウム134と137は、ベータ線とガンマ線を放出している。ベータとガンマをあわせてダブルの放射線が出ていると考えていい。ところが、国が発表している空間線量の数値は、ガンマ線だけを計測した数値。ベータ線は単純に切り捨てられている。

▽107 大型帆船の「大航海時代」を推進したのは植民地主義国家、「鉄の時代」の主役は帝国主義国家。原子力の時代を主導する国家体制は・・・ネグリ・ハートが問題提起したような「帝国」の超国家的な統治。被爆による健康被害を過小評価したいのは、日本政府の意志であるだけでなく、国際原子力産業の意志であり、超国家的な国際機関の意志。
▽110 「原子力都市」 クリーン、安全。ユートピアであり、ディストピア。
 食品流通の暫定基準値500ベクレル/キロという数字は、全面核戦争で餓死に追い込まれたときにやむをえず食べる基準なのですが、この戦争を超える災厄を、私たちは「冷静」に「平和」として生きなければならない。
 小出裕章氏の「老人が責任をとって食べる」も批判。
▽117 政府や知識人が「パニック」と批判しクールダウンさせようとしている人々こそが健全だし、この困難な状況に冷静に対処している。心配なのは、政府の食品検査を信じようとしている人々です。
 まちがった政策のために、自分の生活とか尊厳とかを犠牲にして、適応を強いられているから非常に危険。社会的に周辺化されている人々が、防衛機制を働かせて過剰適応してしまうことがある。戦時中の婦人会とか「ひめゆり部隊」の前例。国はそうした状態を「冷静に秩序が保たれている」と言うのでしょうが、私に言わせれば秩序の破壊です。自己愛を失った人々は、政治的にはファシスト的な極右勢力を形成することになるでしょう。
▽121 ガタリの「3つのエコロジー」は、チェルノブイリの衝撃を念頭に書かれている。
▽124 原発労働者はストライキを打つことができない。原子力の時代においては「不断の管理」が社会全体に広まっていく(システムが中央集権になり大規模になるだけ、テロをおそれるようになり、管理社会化がすすむ〓)
 株価の下落を抑えるためには、企業は「何事もなかったかのように」活動しつづけなければならず、社員は自らの判断を下す機会を逸しつづけ、労働者としての集団化も積極的に忌避される。・・・このような状況の母型として原発労働がある。
▽127 我が子の健康被害がでたとき、母親たちは自分をせめることになる。水俣のときもそうだった。政府や東電が統計のトリックを使って補償を回避していくなか、住民の多くは身体的にも精神的にも苦しみ・・・
 そもそも放射能による被害は平等的にではなく確率的に個々の身体をみしばみ、さまざまなかたちの弊害を身体にもたらすという、まさに人々の集団化を阻止するような、新自由主義の統治と非常に親和性の高い性格をもっている。こうした面を権力は最大限に隠蔽のために利用しようとするでしょう。〓
 マスメディアも、放射能の問題を取り上げなければならないときに、原発問題の方を報道することが多い。
▽133 積算放射線量を年間20ミリシーベルトlまで押しつける。国際的な原子力体制のために、福島の子に死んでくれと言っているに等しい。
▽135 フランスは最終的には軍隊が原発を管理している。日本のように企業のみが管理しているのはまれ。
▽146 宮廷医と魔術 宮廷医は、魔女たちがもっていたハーブや薬学の知識を排除して、患者に水銀をのませた。・・・いま科学的であろうとする人は、積極的に、魔術のなかにはいっていくはず。。魔術的実践のなかで、さまざまな知見を蓄積していく。それが「3。12」後の科学。
▽148 日本以上に、世界でもっとも自殺率が高い国のベスト3は、ベラルーシ、リトアニア、ロシア。チェルノブイリの被害をもっとも大きく受けた国々。放射能汚染を被った国。日本も放射能汚染が社会に亀裂を走らせ、自殺率を上乗せしてしまうことが容易に予想できる。

 東京では放射能のことを話題にすることすらできない雰囲気が生まれはじめている。「社会(的諸関係)」と「精神(=人間的主観性)」のエコロジーの流れを遮断させるような場所では、まちがいなく鬱病が増える。 たんなる「環境」だけではない、「社会」と「精神」のエコロジーまでを含めた思考及び実践がいま何より必要。

ーーーーーーーーーーーーーーー
フィルターがあるから大丈夫、への違和感。
管理区域は厳重。それ以上の放射能を扱えというのだろうか。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

目次