■日本を滅ぼす「世間の良識」<森巣博> 講談社現代新書 20111020
民営化の本質を「利潤の私益化、費用の社会化」と喝破する。国鉄分割民営化はもちろん、今回の福島原発の事故がその典型だ。「公益法人」の特権による膨大な利益は株主に分配される一方で、壊滅的な原発事故の被害処理経費のほとんどは国民の税金で手当されるからだ。なぜそういう本質が見えてこないのだろう?
北朝鮮ミサイル騒動では、ロイターは「ロケット」、新華社は「飛翔体」と呼んだ。日本の報道は当初は飛翔体やロケットと呼んでいたが、「ミサイルと呼ぶ」というお上からのお達しで「ミサイル」で統一された。そんな事情があったとは知らなかったが、おそらくそうなのだろう。「周辺事態法」やら「防犯カメラ」などの言い換えもそうだった。北朝鮮ミサイル騒動のとき、役所は大騒ぎして「危機管理対策会議」を開き、それをそのままさも大ニュースであるかのように報じていた。何かあると一方向に簡単に流されるメディアの騒ぎ方はこわい。でもその流れに棹さすのは個々人がかなりの勇気をふるわなければならない。
流れに乗ってしまうことより怖いのは「忘却」だ。PACは時の政治家が「迎撃できない」と断言したのに、いまだに開発をつづけている。値段も米軍が製造元に払う10倍のカネを三菱重工に支払っている。そんなことも忘れられている。
メディア関係者や評論家にばらまかれた官房機密費も話題にならなくなっている。そういえばサラ金業者から広告を出してもらっているが故に報道を控えたなんて事件もけっこう騒がれたのにすでに忘却の彼方だ。
自動車免許更新のときにあたかも義務であるかのようにカネを払わせる「交通安全協会」の問題も、忘れていた。
いずれは原発事故の恐ろしさも、アメリカのセシウム安全基準値の2000倍、諸外国の原子力発電所の排水の安全基準値の4,5倍の水道水を飲まされていることも忘れてしまうのだろうか。いや、それは忘れたくても忘れられないだろう。5年後か10年後、かなりの健康被害が顕在化するのは明らかなのだから。
これだけ不況と閉塞感が強まっているのに「自殺統計」の数字が3万人からあまり増えない理由もはじめて知った。警察取り扱い死体数は確実に増えていたが、統計の取り方のトリックがあるのだった。
日頃ニュースを見ても何が問題なのかつかめないことが、筆者が平易に下品に書くことではじめて理解できる。
子どもが蹴ったサッカーボールでころんだ人が死んだ場合でさえ親に損害賠償を払わせたのに、原発事故で多くの人を殺すことになる経営陣は逮捕もされない--と書かれると、やっと怒りを感じられる。
メディアの事なかれ主義は、人々の怒りを去勢しているのだ、ということに気づかされる。=================
▽5 新自由主義の肝 「社会資本」として国民の共有財産だった、もとは税金でつくった鉄道や電話回線が「民営化」で一部の人の私有とされる。電力会社は「公益法人」としての特権を与えられ、膨大な利益は株主に分配される。一方その「公益」私企業が壊滅的な原発事故を起こしたら、被害処理の経費のほとんどは、国民の税金で手当される。「利潤の私益化、その利潤を出すために掛かる費用の社会化」の典型例。
アメリカの放射性セシウム安全基準値の2000倍の水道水を飲まされる。水道水暫定安全基準値は、諸外国の原子力発電所の排水〓安全基準値を4、5倍の単位で超えているそうです。
▽16 国鉄分割民営化は、赤字部分だけ国民に押し付けたまま、利益が見込める部分を一部の裕福な者たちに売り払った。「コストの社会化、利益の私益化」
▽21 北朝鮮ミサイル騒動 ロイターは「ロケット」、新華社は「飛翔体」。日本の報道は当初は飛翔体とかロケットとか言っていたのが「ミサイルと呼ぶ」というお上からのお達しで「ミサイル」で統一された。政府ははしゃぎまわって戦時体制をしき、マスコミもはしゃいであおり、国民は調子に乗っておどった。
▽25 PAC3で弾道ミサイルの迎撃が可能か問われた中曽根外務大臣は「難しい」と。数千億円のミサイル防衛予算は何のため?
「当たらないPac3をのせた大型特殊車両部隊は、道をまちがえ、秋田の「こまちスタジアム」の壁と照明灯土台ブロックに挟まり立ち往生。クレーン車で救助されるありさま。
▽27 「当たらない」PAC3を自衛隊が購入する価格は「機密」。米政府がロッキードマーチン社に払う額はだれもが知ることができる。ライセンス生産する三菱重工から自衛隊が購入するとき、PAC 1発の値段は、4800万円のものが4、5億に跳ね上がるらしい(市民団体の試算)
▽31 国債発行額は40兆円というが嘘。実際は158兆円。「借換債」などは含まれていないから。ふつうの常識ではあきらかに「新規」の借金なのに。
▽35 日本銀行の資金循環統計 2010年の国と地方自治体の借金は1002兆円、国民の純貯蓄は1079兆円。もう国民の貯蓄で日本国債を消化するわけにはいかなくなった。金融機関や生保、年金も買う余力は残されていない。
▽51 09年、退職者向け国債キャンペーンをしたが失敗。そこで2010年、「国債を持てる男子は女性にモテる」財務省が婚活男子向け広告(ブルームバーグの記者が配信)。
▽69 評論家にカネをつかませ、政治部記者たちを酒・食・色で接待する。これこそまさに「政治とカネ」。……毒まんじゅうを食らった奴らだけが経営の中枢にいる。
▽76 森喜朗首相のスピーチを書いたNHK記者はその後、局内で順調に昇進。官房機密費マスコミ汚染、大手メディア各社は、「真相究明」をしないばかりか、非公式の社内調査委員会すら設置できなかった。
▽85 イギリスやスイスではアディクトと登録しておけば、「きれいな薬」を自治体から合法的にいただける。薬物禁止はその使用者を救済するためだ。「使用者救済」が禁止の目的であるならば、ノリピー騒動のように、「救済されるべき対象」がさらし者にされることはありえない。
ほとんどの先進国では、非合法薬物の使用じたいは、起訴事案とならない。起訴・重犯となった結果としての収監は、「使用者救済」の理念にまったく反するからだ。
▽135 「交通安全協会」ようやく「任意」と書く安協もでてきた。安協の支出のほとんど(70%)は、職員の給与となるそうだ。「交通安全のため」に使われるのは収入の20%程度、と、元兵庫県交通安全協会会長の松井敏男が証言している。全国市民オンブズマン会議の弁護士が愛知県交通安全協会を「詐欺商法」として告発した。「協会費の集め方に問題がないとはいえない」と名古屋地裁で判決が出ている。
安協は警察の天下り法人。都安協の1200人の職員のうち千人以上が警察出身。
▽138 村木元局長の「虚偽有印公文書作成・同行使」なんて、警察をはじめ多くの役所の裏金づくりの過程ではさんざんおこなわれてきた容疑だ。なのに村木は163日間檻の中でしゃがませられた。検察の望む「自白」をしなかったから長期間保釈されなかった。
▽144 「任意」の職務質問を「強制」する。「兵庫県警新港交番」の動画がYouTubeに。
▽165 変死体を3つに分類する。(1)犯罪死体(2)変死体(犯罪が原因である疑いがある死体)(3)非犯罪死体(犯罪が原因でないことが明らかな死体)
(2)のみを警察は「変死体」と呼ぶ。2008年は、犯罪死体984、変死体1万5038、非犯罪死体14万5816。1998年に9万体だった警察取り扱い死体は急成長?した。にもかかわらず「犯罪死体」と「変死体」の数はそれほど変わらない。「非犯罪死体」のみが2倍弱増加した。自殺者数は3万2000人前後で動かない。「死因不明の場合、そう書くと警察から『それでは困る』という電話がかかってくる。司法解剖をやって死因を特定すればいいようなものだが、予算の関係でそれができない。自殺のみか、他殺が疑われるケースですら、そうなっちゃう。『非犯罪死体』の統計のなかには自殺分や他殺分がかなり含まれているんでしょうな」〓
▽171 IAEAは2008年の段階で、日本のすべての原発に対して改善を要求していた。「近年のいくつかの地震は、一部の原発の設計基準を上回っている」「耐震の安全基準が過去35年間で3回しか改定されていない」と。(島根原発の点検もれと同様のことが福島原発でも。めちゃくちゃな管理体制)
女川原発は17メートルの津波だったが無事。福島第一は14メートルだが壊滅。
ばらまいた大金で言論誘導し、安全保守を無視して利益は上がる。結果として生じた事故の損害賠償は、最終的に国民が負担することになる。
▽176 事故以来、日本の大手メディアは、「大本営発表」と思わせるほどひどかった。1号機が「水素爆発」とBBCが断定してしばらくたって、日本国民は大本営発表でやっとそう知らされた。平気、大丈夫、心配ない、安全ですと主張する政府・東電・保安員および怪しげな専門家たちこそ、本当の意味での「風評被害」を国民に与えた。
▽181 フランスのNGO・CRIIRADは3月14日に、チェルノブイリを上回る大事故に発展する可能性を示唆した。そのとき日本では解説者や専門家は、大丈夫、心配ない、安全です、ただちに健康に影響を与えるものではない、これに反する情報は、いたずらに不安をあおる「風評」である、と。
3月15日福島県内の放射性物質飛散量が、基準値の1000倍に達した、とCRIIRADが配信したとたん、日本の大手メディアはCRIIRADの発表を黙殺するようになった〓。
4月12日、原子力安全委員会は、レベル7の事故だったとやっと認める。しかもその日の夜には「3月15〜17日の時点で、レベル7に相当する量が放出されていた」と政府高官がおっしゃったそうです。日本政府・東電・保安員の保証を信じてきた東北・関東の多くの人たちはその間しっかりと大量に取り返しがつかなく被爆してしまった。
▽185 膨大な税金を投入してつくった「SPEEDI」は、その予測がもっとも必要とされていた事故直後から4月25日まで、2回しか公表されていない。5000枚以上のマップが意図的に隠蔽された。事故から2カ月たってやっと「予測」を公表してくださるようになったそうですが。
▽188 事故から10週間以上も経過してから、東電は「実はあの時」なんてとぼけながら発表したのはなぜか? 5月末にIAEAの事故調査団が入る予定だったからである。
▽191 人間は現実よりも、たとえそれがウソだとわかっていようが、信じたいほうを信じる。大丈夫、心配ない、安全です。ただ、そういう言葉にすがりたい。
竹槍でB29と戦おうとした輝かしい伝統が、ほんの60数年前にあったのです。
チェルノブイリの事故のとき、2000キロ以上は慣れたイギリスの大手メディアは、危機感にあふれた。チェルノブイリから30キロ圏内は1週間後にはすべての住民を退避させた。土壌が1平方メートルあたり18万5000〜55万5000ベクレルの放射性物質で汚染された地域は、第二区分と指定され補償つき移住。福島市中心部の土壌の積算は軽くこれに相当する。首都圏のほとんどの土壌が、遺伝子破損によっておこる病気が顕著に増加するチェルノブイリ第3区分(放射線管理エリア)に該当している。
社会主義の国って、事故処理も強引でおっかないと感じたものだったが、間違っていました。利潤の私益化、費用の社会化を推進して原発事故を誘発し、その事故処理では、大丈夫、心配ない、安全です、ただちに健康に影響を与えるものではない。そう主張しながら国民に放射能をたっぷりと浴びせた自由主義の国のほうが、わたしにははるかにおそろしい。
▽195 今のうちに髪の毛と爪、皮膚の一部を切り取り、厳重に保管しておきなさい。子どもたちには早ければ4年後、遅くとも10年後には、医療地獄が訪れるのだろう。チェルノブイリではそうだった。……賠償裁判となっても、国・東電・保安院は、「因果関係が不明」と言い張るに決まっている。……2011年中に「被爆者手帳」を取得できる法制度を構築しておくべきだろう。
▽196 3号機の放射能漏れや水素爆発の予兆となるデータを爆発前日につかんでいながら、通報しなかった問題で、1号機についても水素爆発の前日に予兆をつかんでいたのに国に報告していなかった……「放射能漏れにつながる全データを通報しなければならないとは法令上定められていない」と、東電原子力・立地本部の松本純一・本部長代理。
▽200 4月末までに「チェルノブイリ原発事故の1割程度」の放射性物質が漏洩した、と国・東電・保安院は認めた。その後も毎日数百億ベクレルの単位で放射性物質を漏出しつづけている。チェルノブイリ原発はセシウム137換算で、ヒロシマ原爆役800発分の放射性物質がまき散らされた。……8月末になって政府が提出した資料によれば、ヒロシマ原爆168・5発分だったそうだ。〓
▽202 校庭で少年がけったサッカーボールが道路に転がり出て、バイクに乗った男性が転倒して骨折し、しばらくして亡くなった「事件」では、少年の両親に対して、遺族に1500万円の賠償金を支払いを命じた。交通事故でも「自動車運転過失致死傷罪」で過失があった側は逮捕・収監される。ところが……スリーマイル原発事故の際には「日本の原子力技術はすぐれているから大丈夫」。「絶対に安全」とまるで無根拠なウソをついて、日本国民を「洗脳」してきた。福島第一原発事故の影響が主因となって、経済的要因を含めれば、将来的にはすくなく見積もっても数十万人が殺される。数百万、数千万人の遺伝子がすでに損壊された。……そういう重大「事故」を起こしたことに責任をもつ連中が、まだ誰も塀の内側でしゃがんでない。
▽208 原発1基で5000億円、6000億円の建設費が必要で、それらがすべて「資産」とされ、利潤を計算する際のベースになる(総括原価方式)。金をつかえばつかうほど、電力会社の利益は上がる。「資産」を増やし「報酬率」を掛けて、それに見合うよう、電気料金を引き上げればよろしい(小出裕章「原発のウソ」)
▽水道水の暫定安全基準値・放射性セシウム1リットル当たり200ベクレルって。アメリカの2000倍、緩いといわれるWHOの20倍の安全基準〓。
なんで国の指針だと、他国の原子力発電の排水基準の数倍(!)の水道水が安全となるのか。〓
▽214 NYタイムズは、2011年8月9日の紙面で、メルトダウンを裏付けるデータをまったく公表しなかった点や、こどもたちの被ばくを防ぐ対策の遅れ、税金100億円を投入してつくりあげたSPEEDIのデータを事故直後に公表しなかったことを、厳しく批判した。公表しなかったのは、「避難コスト」がかさむことを恐れたからだった、と指摘した。
敗戦時、関東軍だけが満州からさっさと逃げ帰ってきたのと、ひどく似ている構図じゃないですか。
▽217 児玉教授
▽218 チェルノブイリでは、事故処理作業にあたった5万5000人の軍人・作業員たちが被爆を主因として死亡した、と推定される。ウクライナの市民団体によれば、死者総数は150万人だそうです。
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