■WikiLeaks ウィキリークス アサンジの戦争<「ガーディアン」特命取材チーム デヴィッド・リー&ルーク・ハーディング著> 講談社 20110910
アサンジのイメージといえば、情報の公開の英雄でありながら狂信的であり、犯罪すれすれを歩き、とうとう強姦でつかまってしまった……というイメージだ。
だが「強姦」といっても、日本では犯罪にならない程度の行為だったらしい。合意のもとでベッドには入ったが、コンドームをつけることを拒否したこと(本人は非認)、女性が酩酊状態でセックスしたことなどをもって性犯罪とされた。日本ならば、合意してたんだろ?と、むしろ女性のほうが非難されかねないケースだ。「強姦」「性犯罪」という言葉だけが一人歩きして、日本でのアサンジのイメージは必要以上に悪化している。
イラク派遣の米兵がネットワークから政府の公電をみつけてダウンロードし、それをウィキリークスに渡したことがからはじまった。米兵は、ハッカー仲間にすべてをしゃべっていたため密告され逮捕されてしまった。
アサンジの生まれ育ち、ハッカーとしての成長……。手に入れた公電を使ってガーディアンなどと連携して暴露報道を続ける様子が描かれる。当時は協力者であったアサンジの、偏執狂でわがままな一面もしっかり描くところが、ガーディアンらしい。25万件におよぶ膨大なデータをさまざな検索語をもちいて分析し、記事にする経緯も紹介している。たいしたもんだなあと思う。
民間人の虐殺や、法令にもとづかない違法な監禁などを暴かれた側の米国は、ウィキリークスをテロリスト扱いし、カード会社に圧力をかけて利用不可とする……など、なりふりかまわぬ圧力をかける。「テロリスト」のレッテルをはった後は、命を奪うことすらためらわないのではないか、と思わせる。実際、機密情報をもらした米兵は軟禁状態で日に日にやせ細っているという。
米国政府・軍による殺人は合法化され、それを告発した側が「テロリスト」とされる不条理も浮き彫りになっている。
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▽13 イギリスで運営されたが、接続元をスウェーデンに見せかけるように設計された。
▽19 イラク派遣の情報分析官マニング 基地のセキュリティは甘い。「脆弱なサーバ、ロギング、物理セキュリティ、防諜対策……。階級の低い軍人が世界中の最高機密レベルの公電にアクセス。
イラクでは武装ヘリが非武装の民間人を射殺するビデオ、アフガンでは、民間人の死亡と「誤爆」の可能性を示唆する文書。
▽25 マニングは同性愛。1993年にクリントンが打ち出した妥協政策に腹を立てる。入隊志願者には同性愛者であるか否かを質してはならず、同性愛者であっても公言してはならないという制限規定。
▽31 マニング「情報の自由を基盤とする民主主義社会の重視」「情報がなければ、公衆として情報に基づいた決断などくだせない」という信念。→公の目に機密をさらそう。
▽46 アサンジは転校ばかりで、コンピューターが「唯一の友」だった。学生時代にハッキングで逮捕。
▽63 スウェーデンのPRQ 「スウェーデンの法律に触れるもの以外は、好ましくないものでもすべて受けつけます」……スカイプでも暗号化が用いられている。ウィキリークスのメンバーは、スカイプの会話ならば、米国国家安全保障局に傍受されないだろうと信用している。
トーア 送信を隠し、監視者に知られずに内部で意見交換できるソフト。「パケット」を調べても、部外者には送信者も受信者もわからない。
▽77 ウィキリークスとスイスの銀行の衝突。裁判で、ウィキへのアクセス停止の命令がでたが、多くのミラーサイトで書類を公開しつづけた。アメリカの多くの組織が言論の自由を主張し……情報差し止めが不可能になる一方で、悪質な顧客は皮肉にもいっそう注目を集めてしまった。
▽80 「ドキュメントクラウド」は、NYタイムズおよび非営利の調査報道機関「プロパブリカ」の支援を受け、通常の記事執筆に使用された全情報全データを公共データベース化する企画を計画。
▽84 バグダッド上空のアパッチ。取材中のロイターの2人を含む12人を殺害。その様子を撮影したビデオ。
▽90 負傷者を避難させようとしている車にさえ攻撃するヘリの映像。……バグダッド市内の通りを「誰もが標的になる戦場として扱え」という決断を下したのは、米軍の上層部である。パイロットたちがおこなったこの殺人は、彼らがそうするようにずっと訓練を受けてきたものだった。単なる「巻き添えの殺人」ではない。
▽ アメリカ人ハッカー・ラモとの会話。
▽107 ヘリが攻撃を加えたワゴン車から大けがをした子どもたちを救出する3人の米軍兵士の姿がうつっていた。その1人がマコード。退役した彼は、米軍のイラク駐留を厳しく批判する運動を展開している。
▽113 「情報は自由であるべき。一度公開されれば、公共の利益になる。……僕はスパイではない。スパイは世界に見せるために情報を公開したりはしない」……逮捕され、独房で暮らす。午前5時の起床後は一睡も許されない。独房内での腕立て伏せやその他の運動も禁止。拷問に近い状態。
▽119 パスワードをわたす場面。まるでスパイ小説のよう。……ニック・デイビスは、ガーディアンでも指折りの調査報道記者。……時間とコスト節約のために裏取り作業を怠り、資料をそのまま垂れ流す昨今のジャーナリズムを「チャーナリズム」と表現し、新聞業界がいかに堕落したかを批判。
▽128 デイビスは、メディアとウィキリークス、可能ならばNGOのような団体を含めた「同盟」が望ましいと考えた。公電の内容が数カ国で同時に発表されれば、イギリス国内での新聞差し止めも回避できるのではないか。
▽141 ビジュアライゼーション マップのボタンを押すと、爆弾の爆発や殺戮……などの映像が流れる。
▽147 情報提供者の名前や、米軍に協力する人物の情報。命の危険がある、というとアサンジは「だって情報屋なんだよ。殺されたとしても、いずれそうなるとわかっていたはずさ」……アサンジがマスメディアに対していかに甘い考えを持っているかがわかった。
▽151 米軍の海軍大将「彼らはすでに自分たちの手を若い兵士の血や、アフガンの家族の血で染めてしまったのかもしれない」〓。……どうやらアサンジ本人の殺害を叫べば選挙で有利になるとでも思っているらしい。……何ガロンもの民間人の血で己の手を染めているのは彼らではないのか。
……アサンジとの亀裂
▽163 アフガンで特殊部隊が「殺害・勾留」の標的としている重要人物2000人のリストを公表。「JPel=Joint priority Effect List」 殺害の合法性、裁判もなしに人間を長期間投獄する合法性への疑問が生じる。
▽173 イラク戦争 「存在しない」はずの民間人の犠牲者数が判明。イラクへの侵攻以来、少なくとも6万81人の民間人が犠牲に。NGOのイラク・ボディ・カウントによると、03年以降命を落とした民間人は、9万9383人から10万8501人と結論づけた。
▽209 眠っている、あるいは意識のない女性に性行為をすることは、スウェーデンでも英国でも犯罪だ。「眠っている間にコンドームなしでセックスをされたことだ」……「性的虐待」の容疑で2人のスウェーデン人から告訴された。
▽220
▽242 スカイプで海外と会話。重要な数字は声をださず、カメラに向かって公電の数字を紙で示す。「慎重を期するべき内容は、電話やメールではふれない」と申し合わせ。……パブでビールを片手に雑談中に秘密を漏らすようなジャーナリスト連中にとっては、こうした安全対策はなかなか身に付くものではない。
▽253 責務に忠実なジャーナリストは通常、対象者に取材をし、相手にコメントや反論の機会を与える。そこが難問に。公電の対象者に取材をかければ、その公電を保有している事実が明らかになってしまうからだ。相手は「機密文書を不法に所有している」との名目で、すぐさま差し止めを要求することもできる。
▽266
▽270 暴露ニュースの前文
▽274 ガーディアンでは、外交公電のデータベースを読者が自分で検索可能なインタラクティブなページを作成した。世界中の人々が、自国の指導者をアメリカの外交官がどうコメントしているかについて調べた。
▽279 リバーマン上院議員が圧力。アマゾンがサービス停止。スイスの銀行がアサンジの銀行口座を閉鎖。ペイパルも、口座凍結。マスターカードとVISAも。これによって資金集めができなくなった。
▽287 西欧に住んでいる人には公電の内容は衝撃的なものではなかったかもしれないが、ベラルーシやチュニジアなど、圧政が行われている国では事情が異なった。
▽289 パンギムン事務総長らの国連の幹部をスパイするよう指示した公電も。クレジットカード番号、メール、電話、ファクス、ポケベル、マイレージの番号も知りたがった。
▽295 元ロシア諜報部員のリトビネンコが、放射性物質を使ってロンドンで暗殺されたことについて、アメリカ外交官は「プーチンはリトビネンコの殺害計画についておそらく知っていた」と記していた。
▽311 ケン・ローチ、マイケル・ムーア……アサンジを救おうと……
▽326 アメリカの政治介入でVISAやマスターカードに取引停止されたのが痛手。「裁判にあてる充分な資金がない」
▽328 元ウィキにいたダニエル・シュミットが「オープンリークス」。
▽333 チュニジアの米大使が、支配一族の腐敗を非難した公電が公開されると、何万人という抗議者が立ち上がり、ベン=アリを大統領の座から失脚させた。……公開されたチュニジア米大使のコメントが国中で読まれたために、国民のなかに「ワシントンが抱くチュニジアのイメージ」が増幅され、今回の街頭デモに大きな役割を果たした。
▽338 ヒラリー・クリントンは2010年1月には、「ネットの自由を広げていこう」と提唱し、半ば非合法化したデジタルな表現の場に対して「現代のサミズダート」との見解を示し、そうした手段こそが透明性を擁護し、独裁的で腐敗した古い世界秩序に挑戦する存在になりつつある、と語った。……ヒラリーはこのスピーチから1年もたたないうちに、「デジタルを駆使した内部告発者」について、「電子メディアを使って透明性を擁護しようとする者」を厳しく攻撃した。「米国外交への攻撃だけではない。国際コミュニティへの攻撃だ」。
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