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梅棹忠夫語る<聞き手=小山修三>

■梅棹忠夫語る<聞き手=小山修三>日経プレミアシリーズ 20101114
 自分で見たもの以外は信用しない。ひょうひょうとした語り口。

 ▽24 ドイツ系アメリカ人が「日本はヨーロッパと同じです」と言い、びっくりした。インドが東洋なら日本は東洋じゃない。日本が東洋ならインドはちがう。
 カルカッタの猥雑さ、中国人は道端に並んでうんちしている。牧畜民は簡素で清潔。
 中国は日本とはぜんぜんちがう。「なんというウソの社会だ」ということや。ウソというと聞こえが悪いけど、要するに「表面の繕い」。中国は信用できん。でもある意味で日本の深い心の奥にさわってる。人間の心の奥に、おそろしい巨大な悪がある。中国にはそれがある。それでも中国は道徳的世界やから、表面を繕ってでっちあげたりする。
 ヒンドゥーは中国ともちがって、剥き出し。臓物をひらいてみせられるような。
 ▽43 文章のなかに文章が入っている複文はいかん。単文の連続で書かんと。
 ▽62 フィールド…ワーカーはスケッチをやらないかんわ。
 ▽65 「写真の秘けつは一歩踏み込め、だ」
 ▽76 日本の図書館学がいかんのです。形式主義で、ハードカバーしか本と認めない。……インテリ道という武士道みたいなもんがあった。それへの反抗が若いときからある。

 ▽83 日本のインテリは、分類好き。わたしから言わせれば分類は意味がない。「分類するな、整列せよ」。機械的に配列や。大事なのは検索。中尾佐助の「分類の発想」は分類への批判。
 ▽88 きびいしいところでは給料以外の金はもらっちゃいけないとしばりを強めている。大学に教えにいっても交通費だけになる。日本政府は「知的生産」認めてなかった。知的とかそういうデザイン的なものを、全部タダやと思っている。
 ▽90 情報と産業を分けて考えたらあかん。「情報産業」。農業の時代、工業の時代、その次に来るのが情報産業の時代。
 ▽104 だれかが書いていたけど「梅棹の言っていることは、単なる思いつきにすぎない」って。わたしに言わせたら「思いつきこそ独創や。思いつきがないものは、要するに本の引用、ひとのまねということやないか」ということ。……梅棹の発想の、誰の論文に基づいているのかって……それでわたしが「悔しかったら思いついてみい」って言ってやるわけ。わたしには引用がない。学問とは、ひとの本を読んで引用することだと思っている人が多い。
 ▽117 原点は、山やな。山を歩くワンダリングが原点やな。和辻哲郎は、アデンで、船から砂漠を見てあまりのすごさに腰を抜かしている。……和辻という人は、ほんまに大スカタン。どうしてあんなまちがいが起こったのか。……わたしの人生を決定しているのは、モチーフは遊びや、プレイや。
 ▽126 権威を笠に着る態度を嫌い、終戦後、大学に復帰した際、「教授の絶対的権威」をぶち壊さなければならないと考え、院生の立場で教授選に立候補したことも。
 ▽129 自分にとっての第一番は観察記録。多くの人はそこをまちがえている。他人の本で、大事だと思うところをカードにして使っている。そんなんはナンセンス。すでに書いてあることじゃないか。なぜ自分のオリジナルの観察を大事にしないのか。学問といえば、ひとが書いたものを読むことだと思っている。
 ▽142 文学部はひどいもんやった。京大でもまず博士号なんか出さない。文科系の京大教授は学位をもっていない。国立大学教授で学位がないなんて、なんたることや。
 ▽165 民博は展示物に触っていいとか、写真撮っていいとか。ほかではやっちゃいかんことを、どんどんやった。
 ▽171 縄文土器は世界一古い。世界の四大文明というけど、なぜそこに縄文を入れないのか。三内丸山は完全な都市文明です。それをホルド(30人ぐらいの親族を中心とした集団)がしょぼしょぼとあった縄文文化だという。どうして考古学者はああバカなんや。何でも昔のものは古いしょぼくれたものやと思っている。あれだけ櫛やアクセサリーが出ているのに、ボサボサ頭やったんかって。遺物第一主義というのは、いかにバカげているか。人間の全体像を見ていない。
 ▽175 文化史というのは価値観や、文明史というのは現象論です。まず現象論を確立しなければ。自然史と人間史・人間文明史の統合というのが基本的な考え方。文明というのは人間が作りだした環境、人工的環境のすべて。
 ▽181 あのとき館長の梅棹さんが56歳。そこに助手クラスの若ザルがくっついていた。「何でもやれ」と言う。やらないほうが怒られる。「何もせんのか」って。
 ▽190 挫折。困難は克服されるためにあるんや。腕力で乗り越えた。
  194 たたき出されても、次は何をやろうかなと考える。しばらくは外国に行けないから、じゃ国内の調査をやろう。国内で一番遠いところへ行ってみようとか。そのときにできることをいつも考えてるでしょう。だから、挫折はこたえてない。自分を相対化して見ていられる。
 ▽209 どうして、登山にしごきがなりたつのか。しごきから一番遠い世界やと思うんやけど……三高山岳部は、新入生からいきなり、先輩にいっさい敬語を使ってはいけない、「さん」もいかん。全部呼び捨てです。(ボヘのよう〓)
 ▽213 人には逃げてはならない状況がある。……「フィールドに飛びだせ、共同研究会をつくれ、メンバーは学者に限るな、国際シンポジウムをひらいて外国の学者と討論せよ、フィールドの成果を展示に反映せよ」〓と言われて、ぼくも夢中で走りまわっていました。金は基本的に自分で調達すべしという条件はきびしかったけど……
 ▽214 「宮本武蔵になるな」 技を磨くのには反対しない。しかし、剣の道は人殺しの技、そんなことに熱中して、他を顧みないというのは、人間としていささか淋しいのやないか。わたしが、山に登り、世界の民族をたずねたのは、未知なるものへのあこがれ〓、だけやった。

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