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こう直さなければ裁判員裁判は空洞になる<五十嵐二葉>

■こう直さなければ裁判員裁判は空洞になる<五十嵐二葉>現代人文社 20160825
 裁判員制度は、近代国家で唯一市民参加司法をもたない日本に対するアメリカの財界からの要求に応じてできたという。
 アメリカの陪審員のようなものだと思っていたが、実際は市民参加という意味ではるかに不完全な制度で、裁判員制度独特の問題が山積しているということがよくわかった。
 米国の陪審裁判は、有罪無罪の事実認定だけを争う場であり、量刑は、更生可能性など専門的な知識が必要だから、別の裁判体が「量刑裁判」で決める。
 日本の裁判員制度は一定の重い犯罪を「対象犯罪」とし、裁判員が量刑判断も担う。その結果、性犯罪や子どもの虐待致死などは求刑より重い判決が下ることもある一方で、介護疲れ殺人などは軽くなる傾向がある。世界の専門家の間では、行刑は「社会に復帰させるために必要な処遇を、必要な期間行う」ことが原則とされている。裁判官の量刑は、ある場面では「応報刑論」が、ある場面では「教育刑論」や「社会復帰モデル」も作用してきた。ところが裁判員裁判では、応報モデルによる量刑に偏ってしまうという。
 刑事裁判には、「疑わしきは無罪」という「無罪推定の原則」などの守るべき原則がある。米国などの陪審員裁判では、そういう原則を事前に「説示」する。
 ところが裁判員制度では、説示はほとんどない。無罪推定の原則さえも説明されていない。法廷に出てきた情報だけで判断しなけらばならないのに、「図書館で裁判を報道する記事を読んだ」という裁判員もいた。「悪いことをしてしまった少年少女に『少年だから』と少年法を適用させる法律がおかしい」と公言する裁判員もいた。少年法についても説明を受けていないのだ。それどころか、「被告人が少年であることは考慮しなくていい、とも(裁判官に)言われました」と証言する裁判員もいた。

 裁判員制度では、「裁判員の負担軽減」や「わかりやすさ」が重視される。
 現場写真が残酷だからとイラスト化したり、パワーポイントで重要部分を強調した調書をみせる。証拠を加工してしまっている。石巻事件では、審理に5日、評議に3日という短期間で死刑を言い渡した。「少年がどれほど変化してきたかを伝えるのは難しかった」「少年の本当の心情、人間性が伝わらなかった」と弁護士はなげいた。
 期間短縮をはたすために導入された公判前整理手続きでは、検察側と弁護側が「主張」を前もって知らせなければならない。欧米では捜査情報をすべて開示されるが、日本の検察は都合の悪い情報は隠す。圧倒的に情報量が少ない弁護側が事前に手の内を明かすことは、実質的な自白強要になりかねず、防御を危うくしていしまう。米国などの陪審裁判には、審理時間を事前に決めたり、主張・立証を事前に明示して、それに拘束される制度はないという。
 裁判員の守秘義務も、他国にはないきびしさだ。裁判員と裁判官がどのような議論を交わしたかは一切口外してはならないし、判決についての論評も禁止されている。裁判員がどんな説明を受け、どんな議論をして判決を出したのかは、永久に検証できない制度になっている。アメリカの陪審員は判決後の守秘義務はない。あるのは、一般的な名誉毀損やプライバシーの侵害などの市民的な制約だけだという。
 近代の司法手続きは、証人の法廷証言のみを証拠とする「直接主義・口頭主義」でなければならない。しかし日本の刑事裁判では、供述調書の細部に基礎をおく「調書裁判」になってきた。長時間の取り調べによって捜査官が「作文」する供述調書がえん罪の温床になってきた。今回の改革で調書主義が改善されるどころか、むしろ悪化しているという。
 一方で、裁判員制度の積極的な面もある。裁判員に対して「説示」することで、裁判官自身が刑事手続きの原則を自らも認識しなおす可能性があるという。「合理的な疑いを差し挟む余地のない程度の立証が必要」という有罪の基準を裁判官が意識することで、「裁判員によって無罪になった」と弁護士が評価する裁判もわずかながら出てきている。

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▽4 裁判員制度は、市民からの要求なしに官製の企画として立法された。アメリカ財界からの要求。グローバリゼーションによよる企業取引増加のなかで、近代国家で唯一市民参加司法をもたない日本にたいする、直接にはアメリカの財界から日本の財界への要求による立法だったと言われている。
 市民参加の形だけ作り、「市民感覚を司法に生かす」ことすら予定していなかった。
▽7 裁判員の宣誓の前に読み聞かされるだけで、多くの経験者が内容も覚えていないという最高裁「39条説明例」はわずかA4判2ページで、「無罪推定の原則」もない。
▽8 「裁判員の負担にならないように」と裁判官。「(裁判長が弁護人の弁論中に)予定時間の厳守を促す場面があった」
 …審理が真相発見のためでなく、裁判員の「負担軽減」を最優先した最低の日数、審理中の休憩確保などを枠としておこなわれていく。
▽9 裁判員に「わかりやすくするため」の証拠写真のイラスト化、パワーポイントに調書をうつし、強調したいところに色をつけ…これは証拠への加工であり、伝聞法則の一種の逸脱だ。
▽13 英米で裁判官が陪審への説示をすることによって、日々刑事手続きの原則を自らも認識しなおすのと同じ効果が、不十分な市民参加システムである日本でも、多少は裁判官の意識を変えていく可能性はあるはずだ。
▽19 大阪の覚醒剤事件のように、弁護人が「裁判官ではなく裁判員によって無罪になった」と明言している事件…
▽32 積極的な効果のひとつとして「合理的な疑いを差し挟む余地のない程度の立証が必要」という有罪の基準を、本来あるべき方向に向かってようやく意識できるようになったとみることはできる。…従来あいまいにおこなわれてきた事実認定の方法について、明示的に論じる環境がつくられつつある。
▽52 被告側に自白を迫る「予定主張明示」 …争点整理で固めた以外の審理をしないことは、真相解明を排除することにほかならない。…証拠収集力において格段の差がある被告・弁護側が防御の方針と資料を、検察側に事前に知られることは、防御そのものを危うくする(検察による、アリバイなど被告側の立証崩しの例が多数知られている)
…大分・清川村強盗殺人事件 裁判所が間接事実までの予定主張を執拗に求めたが、弁護団は「詳細なことは言えない」で通し、アリバイについても事前に明かさなかった。明らかにしていれば検察側につぶされたとみている。無罪判決。
…陪審裁判では、日本のように、審理時間を事前に決めたり主張・立証を事前に明示して、それに拘束される制度はない。
▽57 世界に例のない「開示制限」制度
 証拠開示 諸外国では戦後、開示制度がどんどん広げられてきたが、日本だけは、開示制度が実質上ない法政をまったく変えなかった。
▽69 裁判員のPTSD 福嶋の殺人事件で殺害現場の写真をみせられPTSDに。
 この事件は被告が有罪を認めている事件、量刑だけを判断する量刑事件。陪審制度では、市民裁判官はかかわらないケース。
 アメリカの陪審裁判では、(1)起訴されると被告・弁護側に、検察側からほぼ完全な証拠開示がなされる。それを見たうえで被告は有罪を認めるか、無罪を争うか決める。(2)無罪答弁をした者は、別の裁判体の正式公判で検察側と争う。(3)有罪となった者はさらに別の裁判体で量刑裁判によって刑を決められる。
…裁判員がトライアル(正式公判)の事実認定だけをするのであったら、福嶋の殺人事件を担当することはなかった。
…「凄惨な証拠類」は、裁判員の「応報的量刑感」をあおる。
▽73 とくに問題なのは、裁判員へのショックを減らすためとして、証拠に手を加えることだ。カラーを白黒にする…写真ではなくCGを使う…となれば証拠の改変。
…「裁判員の迷惑」を避けるために公判日程を可及的に短くし、証拠を加工することまで抵抗なくやってしまう…
▽76 DNA鑑定
足利事件で、DNA鑑定の証明力を否定され、再審に。
 飯塚事件では、鑑定結果を使用できないということで帝京大でミトコンドリア鑑定をしたところ一致する型ではなかったのに、死刑判決が確定し、判決後2年後という異例の早さで死刑が執行された。…ネガには写真では焼き付けていなかった部分があり、そこに久間さんとも被害女児ともちがうDNAの型が写っていた。こうなると明らかに故意による証拠改ざんだ。
▽87 筆者はDNAの採取・保管・鑑定は、捜査機関から独立した第三者機関が行うべきだと言ってきたが…
▽100 ドイツ 事実認定についての見直しを許さない二審制。市民の事実認定を尊重する「民の声は天の声」思想によっている。
…裁判員制度では、上訴制度は裁判官裁判の古い形のままで手をつけず、一審だけの市民参加とする木に竹をついだような現行制度がつくられた。
▽107 検察審査会 他の国にはない変わった制度。検審は、検察が不起訴にした事件のなかから、起訴する=有罪方向に向けて事件をレールに乗せるシステムだ。
 …検察が正式に不起訴とした判断を「市民」が覆して起訴する制度は他の国にはない。
▽111 「起訴猶予」は「嫌疑不十分」とは異なり、起訴するよりも猶予した方が、、更生する可能性が高いとの検察官の判断する不起訴処分。
…実際は証拠が不十分であっても、「証拠が足りないから起訴できない」とは言わず、示談などを条件に「起訴猶予にしておく」と言う。…「認めれば起訴猶予にしてやれるんだが、突っ張ってるなら正式起訴しかないな」などと言って自白調書に同意させることもできる。
…もし「市民による起訴」制度が必要だとしたら、それは日本では検察が起訴しない、あるいはできない事件に限定してだろう。公務員、政治家、大企業による事故や公害事件…などだ。
▽126 裁判員と裁判官が評議でどのような発言。交わした結果この判決になったのかは、守秘義務によって一切わからない
▽132 裁判員制度になって量刑は「性犯罪については重くなった」「家族間の事件で介護疲れなどは軽くなったが、子どもへの虐待致死、他人間の殺人では重罰化した」
…一般市民に形の量定までさせることがいいのか、については全く議論がない。
▽134 有罪/無罪の判断についての説示よりも、有罪だった場合に与える量刑の説示がより難しく、かつ膨大なものにならざるをえない。
 …陪審は原則として量刑を行わないから量刑に関する説示は英米法にもフランス法にもない。
 …市民参加制度を実施するなら、法曹三者の協議によって、手続きの全体にわたる説示集をつくるべきだと制度発足前から提言しているが、せこうご年を経てもまったくその気配はない。
 …裁判員が裁判官から「何のために刑罰を科すのか」などの基本的な説明から当該事件の法定刑や処断刑そして何によって、具体的にどう量刑判断するべきなのかという判断基準を与えられたという経験を聞かない。
▽136 国際的には、行刑を「社会復帰モデル」で行うこと、つまりここの犯罪者について、「社会に復帰させるために必要な処遇を、必要な期間行う」こととする理論で定着している。〓
 …昔は自ら受刑者に身をやつして刑務所生活を体験して裁判に生かす裁判官もいたが、現在は裁判官も刑務所見学すらしなくなっている。
 …ここの裁判官が具体的事件で「このぐらいが妥当」とするさじ加減のなかで、ある場面では「応報刑論」が、ある場面では「教育刑論」や「社会復帰モデル」もなんとなく作用し…
▽137 参加市民の意見を不当に形成しないために、陪審制では公判廷外で裁判官が事件について陪審員に意見を言うことはないし、フランスは裁判官が陪審員に個別に意見を言うことを禁じているが、日本はそうした制約は全くせず、裁判官が個人的に「教えてくれる」のは、むしろよいことだと受け取られている。
▽138 ドイツなどの参審制度では、参審員は裁判官とともに量刑も行う。政党推薦(ドイツ)、審査(イタリア)などの一定の資格を前提とし、多くは執務前に研修を受けて一定の勤務期間内に係属する全事件を担当するいわばセミプロの裁判官であることが前提にある。…少なくとも、何の経験も研修もなく1回限り呼び出される市民とは違うという建前である。
…日本の裁判員制度は、何ら研修を受けないばかりか、陪審制では完備されている最低限度のルールである「説示」という教育も受けないまま、事実認定から量刑までを行うという異例の制度である〓。
▽141 求刑より重い裁判員判決が積み重ねられて「判決は求刑の7掛け」という法律家同士の約束事は消えつつある。…
▽142 2010年11月19日仙台地裁の強姦致傷事件公判廷で、男性裁判員が被告に声を荒げて言った。「むかつくんですよね」…「昨日からずっと同じ答えですよね」「『もうしません』とか『反省してます』とか当たり前の答えしか返ってこない」と…
 …裁判所からは、裁判の公正という言葉は出てこず、出るのは「裁判員のかたの負担」ばかり。自らのささいな「負担」が死刑の全員一致にすら勝るというこの量刑感覚。
▽144 死刑判決
 裁判員の一人は「悪いことをしてしまった少年少女に『少年だから』と少年法を適用させる法律がおかしい」と公言した。裁判長が少年法の目的と手続きについてどんな説示をしたのか、しなかったのか疑問を呼ぶ発言だ。
 「実母による指導、監督は期待できない。少年の更生可能性は著しく低いと評価せざるを得ない」としているのを見て私は絶句した。…「親が悪いから更生できない。だから子を死刑にする」と明言するこの判決は、本人の責任ではない「家庭環境」によって少年に死を宣告するもので、およそ少年法精神の対極にある。
…少なくとも、今おこなわれているままの裁判員法と実務で少年事件を扱わせることは見直さなければならない。
▽148 「市民目線」といわれる変化。量刑の二極化がおこった。そのココロは。実は「更生可能性」などではなく、素朴な「犯罪人」への応報感情だった。
 行刑理論上は応報モデルは遠い昔に克服され、現在は「社旗復帰モデル」で判断されるはずの量刑だが、日本の市民参加法廷がしてきた判決は、実態として「犯行の悪質性」を主とした応報モデルによる量刑だった〓〓。
▽149 石巻事件で、仙台地裁裁判員法廷は審理に5日、評議に3日という短期間で死刑を言い渡した。「法廷で話す機会が限られているなか、少年がどれほど変化してきたかを伝えるのは難しかった」「少年の本当の心情、人間性が伝わらなかった」
…最高裁は制度発足前「7割の事件は3日以内」と予定し、各地裁はその励行に勤めた。
▽150 公判前整理手続き、とくに、開廷前にすべての証拠申請をすませ、公判では原則新しい証拠請求できないなどの公判活動制限はどこの国にもない。…全員一致の陪審制では、評議・評決は先に判決の日時を決めることはせず一致に必要なだけつづける。
…「裁判員の負担」と「証拠調べ」をバランスの問題として考えるという発想を生んでしまったことに、司法関係者が根本的な反省をし、見直しをしなければならない。
▽151 石巻事件で会見した裁判員の一人は「図書館にこもって裁判を報道する記事を読んだ」と明言している。法廷証拠以外の情報を判断の基礎としたことになり、こんなことが許されるとは驚くべき制度だ。
 アメリカでは、大きく報道されるような事件では、陪審員をホテルに缶詰にし、テレビ、ラジオを禁じ、新聞は裁判所で、関係記事を切り抜いたものだけを許される。裁判は証拠ではない情報によってなされてはならないからだ。〓〓
▽154 犯罪人認知件数も、少年の凶悪犯罪も、2014年度の犯罪白書では戦後最少。なのに1997年の「少年A」事件によって、「少年犯罪の凶悪化」が世論を占め、2001年から厳罰化の少年法改正がくりかえされてきた。
▽159 守秘義務 アメリカの陪審員は判決後の守秘義務はない。あるのは、一般的な名誉毀損やプライバシーの侵害などの市民的な制約だけ。
 裁判員法は、アウトプットについては、裁判終了後も(期限なく)罰則つきの禁止規定が多く詳細。
「評議の秘密」は「漏らしてはならない」。判決前であればどの国でもあたりまえだが、判決後も、厳しい罰則つきで、考えられるすべての情報のアウトプットを規制している。
 …自分が認定すべきだと考えたり、裁判所が認定するだろうと考えた事実や量刑を、同じ裁判体の裁判官、裁判員、補充裁判員「以外の者に」話すことも禁止。…その判決の事実認定や量刑の「当否」を述べること、つまり判決についての論評も、禁止。
 …「外に漏らす」ことだけに罰則つきで目を光らせる制度。
▽161 裁判員はどんな説明を受け、その結果した判決なのかは、「守秘義務」によって永久に一切不明という法制。
▽165 
▽167 『証拠がなくてどう見てもこの人がやったと思えなければ無罪にすること』と言われたと語る人もある。これでは「どう見ても無罪」の立証がなければ有罪ということになり「疑わしきは被告人の利益」ではなくなる。
 少年事件で「被告人が少年であることは考慮しなくていい、とも言われました」と言う人もいる。

▽178 日本で刑事裁判が長引くのは、強要された自白調書の任意性を争う時間だった。世界に悪名高い代用監獄を使っての長時間の取り調べをして捜査官が「作文」する供述調書が公判での膨大な証拠になる。その作文の一言一句について、強制の結果だ、被告の任意ではないという争い故の裁判長期化。そうなるのは、裁判の実態が、その調書の細部に基礎をおく「調書裁判」「精密司法」だからだ。
…本来近代司法手続は、原則証人の法廷証言のみを証拠とする「直接主義・口頭主義」審理以外にありえない。しかしこの「司法改革」で、政府は「調書裁判」をはじめとする刑事訴訟法の改革には一切手をつけず…。
▽181 自白の任意性に関する争いは、取り調べ捜査官を法廷に呼んでの押し問答。何年もかかるそんな攻防に、裁判員をつきあわせることはできない「市民参加=迅速化」の錦の御旗が捜査側に与えられた。…最後の取り調べのみの「一部録画」に限ることで、弁護士会の意図とはまったく逆の効果を取り調べ側に保障する。
▽公判前整理手続 検察側の一定の範囲の証拠開示がはじめて制度化されたのだが、引き換えに、開示をうけるためには被告側が「主張」を明らかにしなければならない制度で、ここで申請しない証拠は公判では許されない。被告・弁護側には実質的な自白強制にあたるうえ、無罪や情状立証に必要な審理のカットになる。
▽195 日本の裁判手続きは、先進国として異例な、裁判所・検察官に使いやすい法制になっていた。自白偏重・調書裁判・人質司法と国連や国際人権団体から非難されつづけている日本の刑事手続きの特徴は、裁判所・検察官の使い勝手のよさを追求してきた結果だった。。
 …裁判所は、長引く裁判は、参加する市民に迷惑をかけるという理由で制度導入の条件として「迅速化」を強く主張した。
…「裁判員には負担はかけられない」と、最優先課題として立法、運用されている。
▽197 一線の裁判官たちにとって、裁判員裁判を担当させてもらえることは喜びであり、「上から認められている」証であり、裁判官仲間の間のステイタスであると聞く。
▽207 メディアの目に見える裁判員裁判は金環食。
…判決後会見では、裁判員は、「感想なら話してもよい」とされているが、なぜその判決になったのかは当然聞けないし、「感想」の範囲は不明確で、裁判員は守秘義務違反の危険を恐れて自粛するうえ、立ち会う裁判所職員によって、異なる基準で阻止されることもある。
…金環食で欠けているのは、「裁判員と裁判官が、どのようにして判決にたどりつくか」の実相。
▽208 本来、裁判官は当事者がした質問に対する答えがわかりにくかったときに、意味を明瞭にするための補充質問しかしてはいけない。日本の裁判官がこのルールを守っていなかったのだから、…裁判員にその説明をしていないと思うしかない質問が、多くの公判でおこなわれ、…被告にたいして裁判員が「むかつく」発言をしたときにも、そういう法廷運営をあるべき司法の観点から批判することもしなかった。
…「むかつく」発言。…この長い「質問」を裁判長は傍観していた。「裁判員に量刑をさせる」とは何なのかの共通認識が最高裁・裁判所にもできていないのではないか。
▽219 日本の裁判員法は、法律知識をもつ者をあらいざらいリストアップして裁判員にいれない。(法曹関係だった者はもちろん、その資格をもつもの、弁理士や司法書士、公証人、大学の教員も…)
▽234 一票の格差訴訟 最高裁判決を急いだのは、「各高裁判決の前に大法廷が今回の期日をいれたのは、考え方を参考にして欲しいというメッセージ」。…その結果、16件のうち13件が「違憲状態」、2件が「違憲・有効」、「違憲・無効」としたのは1件のみだった。…「大法廷の意向」に忠実に従った。
▽237「違憲ではない『違憲状態』という日本語までつくってしまった最高裁…」
▽諫早湾開拓
▽253 検察官は、どちらかが転勤しない限り、同じ法廷のなかで同じ顔ぶれ、裁判官にとっていわば「なじみ客」「得意客」として迎えなければならない相手が検察官だ。
▽257 木谷晶元裁判官は、30件を超える無罪判決を書き、ただの1件も破られなかった・…検察官が控訴しようとしてもできないまでに、先回りして控訴理由になるところを全部証拠に基づいてつぶしてある判決。
 無罪判決の理由は本来「犯罪の証明がない」と一言書けばよいはずなのに、現実には、検察官控訴されても、高裁で破棄されない理由を書かなければならない。
▽258 おおくの再審開始は、きわめて優秀な刑事弁護士がついて、誤って出された有罪判決の後始末である困難な弁護活動を何年もかけて専念して続け事実上無罪証拠を法廷に出すことができたときに、そして困難な判決書をあえて書こうと決意した裁判官と出会うことができた。そういう僥倖が重なって、はじいめて再審開始決定が出されている。無罪判決でも、弁護士と裁判官の超人的な能力と努力がそろった事件ではじめて無罪判決となる。
▽260 現在は主要な先進国では、この(国際法曹委員会)決議を具体化する証拠開示法を定めている。検察官手持ちの全証拠開示が原則で、開示の制限は、法廷への正しい情報提供を目的とする時期の制限など限定的だ。
▽261 裁判員制度にともなう証拠開示制度は、それまで裁判官の訴訟指揮に頼るしかなかった日本の弁護士には、それ以前よりもよくなったと歓迎するものもあって、裁判員裁判事件以外にも弁護士が望む事件ではすべて利用させてほしいとの要望を弁護士会が出している。
 しかし実際には、…検察官が出したくないと思う証拠は出されない仕組みが、何重にも重ねられている。

▽263 「市民の判断を司法に生かす」ことが極力抑えられた、世界的に特異な「市民参加」になっている。
▽274 フランスの陪審法廷は完全な直接主義・口頭主義であるし、ドイツも参審員は一切の書面を見せられない。起訴状さえ最高裁によって見せることを禁じられている。
 日本の「調書裁判」は市民参加にとってもっとも危険な制度だが、全く改めず、裁判員制度「定着」とともにむしろ使用が増えている。
 さらに「裁判員にわかりやすくする」口実で、調書をPDF化して法廷で見せながら、検察官が印象づけたいところを強調して読むという伝聞性の強化が何の規制もなくおこなわれている。
 …施行5年、参加意欲は低下している。世界一きびしい守秘義務を負う法制はは、裁判員の心理的負担としてばかり報道されていて、制度を国民から目隠しする効果になっていることを誰も言わない。
▽292 刑を選ぶのは、受刑によって社会復帰させるため(社会復帰モデル)なのか、犯した罪の重さに応じた罰を受けさせるため(応報モデル)なのかの考え方があるなか、一般人に「民意」のまま量刑をさせれば、応報感情だけで量刑することになることは免れない。
▽293 「裁判員に負担をかけさせない」迅速裁判のため、多くの事件で、生育歴など量刑事実に関する証拠請求が制限され、少年事件で調査官記録が証拠調べされない実務が定着しつつあると弁護士らは訴えている。
▽294 マスメディアが依存するのは「裁判員の負担軽減」と「わかりやすさ」とうキーワードだ。…裁判員に長い裁判で負担をかけないためとして、証人を呼ぶよりは供述調書の朗読で開廷時間を節約する。
▽304 改正点
 無罪を主張する者は、裁判員裁判を受ける権利があり、裁判員裁判か裁判官裁判かを選択できる制度に改める。
 有罪答弁をした者は、行刑・刑事政策の十分な研修を受けた裁判官が担当し、自由な証明による、量刑裁判のみを受ける。
 直接主義・口頭主義 
 証拠開示
 公判前整理手続 予定主張明示制度を廃止。手続きは担当裁判体の構成裁判官以外の裁判官がおこなう。
 裁判員判決が無罪判決のときは検察官
 控訴は許さない。量刑不当を理由とする検察官控訴は許さない。
 死刑の判決は全員一致でなければすることができない。
 裁判員の守秘義務は、評議・評決に関して、個人を特定してする発言内容のみに限定する。その他は、名誉毀損など、他の法令に従ってのみ責任を負う。

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