■「いいね!」が社会を破壊する<楡周平>新潮社 20150403
筆者は、フィルム業界のガリバー・コダック社に勤めていた。超優良企業がつぶれる経緯の描写が興味深い。
コダックはフィルムをつくり、現像し、プリントするという各段階でもうけたから、利益率がすさまじく高かった。デジタル化にもコダックは真っ先に対応しようとした。さまざまな企業を買収して経営の多角化をはかった。だが株主は目の前の配当を求めるから、すぐに利益にならない分野への投資をしぶる。営業も、旧来のフィルムを売ったほうが成績があがる。デジタルに真っ先に取り組みながら転換には失敗した。
かつて大成功した巨大企業ゆえに方向転換を果たせなかった。マンモスが滅亡したかのような最後だった。そういう意味では、日本の家電大手も危ない。もちろん新聞社や出版社も。
ウオールマートなどの巨大なSCができると中小の商店は壊滅する。今度はアマゾン(1995年創業)などの通販が、SCを破壊しようとしている。圧倒的な品揃えと便利さ。実店舗がないから従業員は少ない。だから安い。そのかわり、雇用は生まれない。
便利さを求めるほど、雇用は減っていく。書店は消え、CDショップもまちから消えた。
生き残るのはプラットフォームを握った一部の巨大企業だ。それからたぶん、農業は生き残るだろう。さらに、コンテンツをつくりだす作家や記者、新聞社も一定規模は生き残るはずだ……。
そう考えるのは甘いらしい。コンテンツをつくっても無料で流通してしまう。カネにならない。その証拠に新聞の部数は右肩下がりだ。コンテンツをもつ企業や個人が食っていけなくなる結果、質の悪い情報が蔓延することになる。
3Dプリンターの登場は、製造業を壊滅させる可能性を秘めているという。CAD化されたデータを再現するだけだから、金型はいらない。工場もいらない。熟練の技もいらない。職人もいらなくなってしまう。
ソーシャルネットワーキングサービスはたしかに便利だ。だがそれは個人情報をさらすことになる。グーグルやフェースブックは大量の個人情報を収集し、顔のデータベースもつくりあげている。それらのデータは国家権力に利用されてもおかしくない。
携帯端末の普及によって、仕事中に映画館や喫茶店などでさぼれなくなった。海外出張のときの解放感もなくなった。
技術の進歩は人間の幸せにつながらないのではないか……という事実を、これでもかこれでもかと突きつける。
==================
▽27 1995年にカシオがQV10を発売したのを皮切りにデジタルカメラが次々に登場するが、99年まではフィルム関連の市場は減らなかった。ところが2000年から銀塩市場は急激に減少する。11年間で14分の1に。最初の5年間は影響がなかったのに、なぜ急激に落ちたのか。
2000年にカメラ付き携帯電話が出現し02〜03年はブログ人口が急速にふくらんだ年にあたる。ユーザーの写真の使い方、楽しみ方が革命的に変化した。
▽38 ネット書店の出現は、地方のSCの中規模店、独立系の中小書店を直撃した。
▽55 電子書籍 出版社が電子書籍の値下げに踏み切れば、間違いなくユーザーには魅力となる。
自費出版は、出版社にとってはおいしいビジネスだ。できあがった本はほとんど依頼者が引き取ってくれる。原稿料・印税を支払うどころか、逆にお金をいただける。
アマゾンの「自己出版システム」「キンドル・ダイレクト・パブリッシング」。表紙の図版データとテキストファイルだけを用意すれば、商品として流通させてくれる。しかも売れれば利益を手にすることもできる。〓
…利用者は電子書籍を単に読むツールとしてだけでなく、自分の作品を発表する場として楽しみ始めている。
▽100 大量失業者が生まれる一方で、新しい雇用が生まれない地域に進出した大型店はどうなるか。過疎/高齢化が進み…規模を縮小するか撤退するしかなくなる。
▽111 フルフィルメント・バイ・アマゾン 出品者の商品を自社の物流センターに保管し、注文処理から出荷、カスタマーサービスまでアマゾンが代行する。売価の8〜20%の販売手数料以外に、占有するスペースに応じた在庫保管手数料、配送代行手数料も徴収する。
アマゾンは仕入れコストゼロで事実上の在庫を得られる植えに、かかる税金もゼロ。買い取りじゃないから売れ残りも自分で処分する必要がない。…新しい流通網を作り上げ、そのプラットフォームをにぎってはじめて可能になるスキーム。
▽123 アマゾンは1995年に創業以来、黒字計上までに10年以上。その間、サーバー、物流拠点、コールセンターの整備に多額の資金を費やしてきた。
▽131 蔵書を処分したとき、立派な本棚が売れず、「ただならば引き取ってもよい」と言われた。「今の学生は本を置きませんから」という。
▽137 「24時間携帯端末に触れない」という実験を学生対象に実施したところ、70%が「無理だった」という理由で実験を途中で断念した。「もうほとんどパニック状態」「むずむずしてしょうがなかった。まるで麻薬中毒者のように」
▽143 LINE 利用者の電話番号、メールアドレス、アドレス帳を取得し、利用する…
▽146 ネットビジネスの成否を分けるのは、どれほど多くの個人情報を得られるプラットフォームを構築できるか、にかかっている。
▽151 フェイスブック「顔データベース」。「タグ・サジェスチョン」。写真に写っている人がだれか、タグをつけるよう勧めるもの。顔の自動認識機能も実装されている。欧州で物議を醸した機能。
…フェイスが、写真データと顔認識機能を一般に公開してしまったら、電車で会った人の写真をとって、フェイスブックに接続すると、名前や経歴、交友関係まで即座にわかってしまうことになりかねない。
▽160 グーグルサーチを使えば、どんな言葉を検索し、何に興味をもっているか。グーグルカレンダーを使えば、過去の行動履歴も今日の予定も。アンドロイド端末を使用していると、いつだれと会話したか…すべてグーグルに把握され、データとして保存される。
▽163 Evernote
▽165 これだけ多岐にわたる個人情報が、確実に第三者に把握されている現実を疑問視し、声を上げる人があまり見られない。マイナンバーや住基ネットは懸念を示す人がたくさんいるのに。
▽194 定年延長。本来若者にまわるはずの雇用を奪うことに。生涯賃金を変えないようにするため、賃金カーブの上昇をおさえるから、現役世代の賃金が減る。
▽203 就職活動は3年生の12月からはじまり、内定が出るのは翌年の4月から7月。学生一人あたりの平均エントリー数は89.1社。
こんな状況になったのも、就職活動にネットが用いられるようになってから。
こんなシステムになったから、学生はやたらとエントリしまくる。企業側はそのすべてに対応しきれず、「学歴フィルター」で学生を出身校でしぼりこみ、さらにSPIでしぼりこむ。これじゃ人材の多様性も期待できない。
コメント