■雁の寺<水上勉> 新潮文庫
舞台は、水上勉自身と思われる小僧がつとめる京都の禅寺だ。好色な住職のもとに、芸子出身の美しい女性がすまうようになる。寺には、水上本人がモデルと思われる若狭出身の根暗な小僧がいる。
チビで姿形も奇異な小僧の不幸な生い立ちに同情した女はある夜、自らを抱かせてしまう。
しばらくして、住職は行方不明になる。「旅に出た」とされた。
好色な坊主と芸子出身の女、それに陰気な小僧がおりなす淡々とした小説かと思いきや、ミステリーの様相を帯びてくる。京都の寺を舞台にした独特の暗さにすごみを感じる。
■越前竹人形 20141112
竹細工の名人だった父をなくした主人公のもとに、美しい女が父の墓参りに訪れる。あわら温泉の娼妓だった。母に似ているというその女性を主人公は妻とする。だが「母」と思っているから抱こうとしない。
主人公の竹人形は評判を呼び、山奥の家に京都の問屋の番頭が訪ねてくる。その番頭は、女が島原にいたころの客で、女を犯してしまう。
半年後、妊娠に気づく。これで女は自殺してしまうのか、と思いきや、京都で赤ん坊は流れて事なきを得る。自分の居場所は主人公とともに住まう山の部落なのだと悟る。
鶴の恩返しのよう。透明な美しい描写が、結末の破綻を予感させていた。でももしかしたら幸福な終わりかたをするのだろうか。
そう思いながら読み進んだのだが……
京都の西陣近辺の描写、島原や中書島の遊郭の様子など、しっかり描きこまれている。どれだけ作者は通っていたのだろう。
水上という作者の業の深さを感じさせられた。
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