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虹の彼方に 池澤夏樹

■虹の彼方に 池澤夏樹 講談社文庫 20120629
 鶴見俊輔の対談で、「外の目」「旅人の目」の視点からつづった本だとと書いてあって興味をもった。
 中央の官僚は、日本全体を分割して統治しようと発想する。だが「民」にとってはすべては自分が住む「ここ」からはじまる--市町村合併も、「私の住むここ」の必要性から出てきたならばよいが、統治の発想から生まれたところに根本的な問題があった。「ここ」からの発想を意識することで、問題点がクリアに見えてくる。
 風力発電も、「ここ」の必要性にもとづいて建設されればプラスだが、外からの経済論理で押しつけられると公害となる。
 有事法制も、「国」からの発想ではなく、沖縄の「ここ」から見なければならない。有事を理由に率先して軍に協力した結果、半数以上の学徒が死んだ。以来半世紀、よいことは何一つなかった。
 イラクでは戦争前、弾圧はあったのかもしれないが、食べ物は充分でそれなりの生活を送っているのを見た。「ぼくはミサイルを発射する側ではなく、それが到達する側を見てしまった。イラクの人々の顔を見てしまった」。世界とか正義とかテロリストといった抽象的概念を考える前に、筆者はイラクの人の住む「ここ」を見てしまった。
 大学の独立法人化によって、事務局(官僚)が研究成果を予測して予算を配分するようになる。成果を予想するのは「上」であり、研究・教育をする「ここ」の発想からは遊離している。
 具体的な「ここ」を定める視点の鋭さが気持ちよかった。
 ただそんな彼も、鈴木宗男氏を「悪の総合商社」と評価したことは誤りだったと反省し、「悪の総合商社は鈴木氏ではなく外務省だった」と記す。
 人はまちがいやすいものだから、7年後に振り返って自分の見方が当たっていたか検証するという。
 その時々の時事問題について自分の考えを日記に記し、それを読み返すことは大切なのだ。日記は書いているけど、読み返してないよなあ。

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▽18 沖縄・粟国島 強い風を利用して海水の水分を蒸発させて食塩をつくる。最後の段階で日光ないし火力を使う。ミネラル含有分で世界一。
集中から分散へ。
▽36 風力の公害。大型化して数が増えればトラブルも増。対策がとられる。そうやって技術は伸びていく。発電の主力にはならないだろうが、・・・・たくさんの住民の生命と健康に関わるような事故を起こすことはないだろう。

▽52 苦海浄土「魚は天のくれらすもんでござす。天のくれらすもんを、ただで、わが要ると思うしことって、その日を暮らす。これより上の栄華のどこにゆけばあろうかい」
われわれはこういう幸福を失って、索漠たる荒野を前にしている。
▽58 1998年の沖縄知事選の稲嶺の選挙資金として官房機密費1億円以上が投入された。
▽63中央の官僚は、日本全体を分割して統治しようとする。民にとってはすべては自分が住む「ここ」からはじまる。この村この町の外に県があり、日本があり、世界が広がる。
合併 コザと美里村が合併して沖縄市に。大森と蒲田で大田区。更級と埴科で更埴(03年に千曲に改められた)
▽69 不法滞在のイラン人を「人口あたりの犯罪率が異常に高い集団」と言った警視庁は、同じような集団がもう一つあることを忘れていると指摘された。・・・国会議員も(経済犯罪だが)犯罪率は高い。
▽112 沖縄の男子学徒の死亡率は50パーセント女子は51.9パーセント。沖縄の場合、有事だからというので率先して軍に協力して以来50数年、よいことは何一つなかった。これが教訓。・・・ぼくの住む字は人口500人ほどだが、166名が沖縄戦でなくなっている。この死者たちを措いて、またも軍に協力しろなどとよくも言えたものだ。
▽132 イラク 食べ物は充分。・・・モスルではアメリカ人の観光団とすれちがった。・・・ぼくはミサイルを発射する側ではなく、それが到達する側を見てしまった。イラクの人々の顔を見てしまった。
▽135 ブッシュ氏の1日は、ひざまずいて祈ることから始まる。ホワイトハウスの会議はすべて祈りで開始される。・・・全知全能の神が自分だけをひいきにしてくれるという思い上がりが他者を敵に仕立てる。
日本人の軍歌も。「天に代わりて不義を討つ」。問題はいかなる神が他ならぬあなたを天の代理人に任命したかである。
・・・ホワイトハウスにモニカがいた不道徳な時代が懐かしい。
▽155 ダイオキシン騒動 ダイオキシン類対策特別措置法は無用の悪法。
脅威をもって迫ると人はどんな極端な対策も受け入れる。壊疽ならば手足も切る。だからこそ、何が脅威かを判断する目を養うことが大事になる。北朝鮮の核もSARAもテロも。
▽166 大学の独立法人化 ニュートンが重力を発見したとき、誰がその経済的な効果を予想しえたか。・・・研究成果を予測して予算を配分するのは事務局的なる一派である。日本ぜんたいが畏縮してゆくのが目に見えるようだ。
▽220 何かとうるさい日本の音声 ・・・「日本は右へ曲がります。ご注意ください。ご注意ください」。ここにも内輪差がある。今、前輪が通ろうとしているところよりずっと右よりをやがて重い太い後輪が通るのだ。
▽256 バグダッドからのブログ リバーベンド25歳の女性。
「やつらが作ろうとしている基地を見たら、すでにできあがっている建築物を見たら、かなりの間いるつもりだってわかるだろうよ」
日本人として彼らに教えてあげよう。そのとおり、やつらは出ていかない。10年どころか60年でも居座るよ。
▽271 搭乗券の半券。個人情報が簡単にひきだせる。パスポート番号、生年月日、国籍がわかった。・・・アメリカへ飛ぶ便の乗客については、事前に個人情報を提供することをアメリカ政府が要求する。ヨーロッパはこの要求に屈して、34項目からなる個人情報を提供することにした。どのレンタカーを使ったか、ホテルは禁煙か、特定の宗教の信徒のための料理を注文したかまで知っている。
▽283 7年後に振り返って自分の見方が当たっていたか検証する。
はずれたのは鈴木宗男氏の評価。・・・ぼくならびに世間の鈴木宗男評価を変えさせたのは佐藤優氏。「悪の総合商社」は鈴木氏ではなく外務省。
▽佐藤優による解説
▽292 池澤氏が沖縄が日本にとって外部になっているという現実を冷静に見ているからだ。沖縄出身者をのぞき、ジャーナリストや作家は「沖縄人」という言葉を避ける傾向がある。
池澤氏は鈴木宗男氏によるアイヌに対する和人の同化政策を是認したと受け止められかねない単一民族発言を弾劾した。・・・この事件以後、鈴木氏が民族・エスにシティー問題に強く関心をもつようになり、・・・アイヌ民族の先住民族としての権利確立を北方領土問題と並ぶライフワークにしたのである。

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