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一歩の距離 小説予科練<城山三郎>

■一歩の距離 小説予科練<城山三郎> 201007

4人の少年。3人。軍神になると誓った秀才が一歩を踏み出す。人間魚雷の基地へ去っていく。もう1人「かーっとなって」踏み出す。塩月は「飛行機にも乗らずに死ねるものか。あくまで空で死ぬんだ」と決心して志願しなかった。
敗戦の数カ月前、もう一度特攻の募集があったとき、迷わず手を挙げる。
飛行機の訓練を受けていた上尾は、神風を志願する。が、本土決戦用に温存された。2人が死んで2人が生き残った。

▽30 予備学生を「消耗品」(スペア)と呼ぶ。予備学生とは「精神が入っとらん」連中の代名詞だった。学歴も階級も下、その劣等感が裏返しになって、何とか予備学生をつまらぬ存在に眺めようとしていた。練習生たちの気持はにわかに下士官たちのそれに近接した。東二曹の仕打ちが当然に思えてくる。もっと撲られても良かった。おれたちこそ、海軍精神を叩き込まれた存在なのだ。
▽特攻を志願する者に一歩踏み出させた。ザッとなるなか主人公は踏み出せない。一歩出るのもでないのも、あまりに大きな決意だった。谷を渡った者と渡らない者との間で、課業がまるで別の意義を帯びてくる。
一歩を踏み出さなかった塩月は、冷たく重く感じる。
▽撲りたくなるような気弱な小手川は一歩を踏み出した。「撲りたくなるような男」ではなくなっていた。屈辱は塩月の側にあった。
▽英は、陛下のために純粋に生きる道は予科練しかないと思い込んでいる。無名戦士と死ぬことが感動的な死だと感じていた。死は急がなくてはならぬ。
▽上尾は飛行機に乗り続ける。
▽大多数の学生は、員数だけのスペアという気がした。動作は機敏ではないが、機敏でないところに意志がこもっているようにも見えた。鈍いことに意味があるとも感じられる。
▽家族と密会の日時を切手の裏に記した小手川は殴り殺される。「上着を渡された時、おれ、釦の数を一つ二つと数えたんだ。ほんとに七つあった。歌と同じ。桜に錨の釦が。嬉しかったなあ」
▽特攻を志願した上尾。タバコの誉が配給になる。航空増加食という名の飴玉が配られる。パイナップルの缶詰が現れる。入湯上陸も許される。
一方、塩月たちは、松の根を掘り、陣地づくりをして……。英は、潜水艦に積まれて出撃し、06兵器によって敵艦隊に突入した。

□マンゴーの林の中で
駆逐艦から特攻のモーターボート「震洋」隊の隊長にさせられた谷山大尉。部下の秋山中尉は学生あがり。大久手はたたき上げの特務少尉。台湾に配備される。部下たちは死を前に好き放題しようとする。秋山はそれを大目に見て兄貴分のような役割となる。大久手らは徹底的にしごこうとする。
出撃準備の命令が出る。町の恋人たちに別れを告げてまんじりともしない夜をすごす。だが、延期となる。町の人間はきのうまでと同じでなにもかわらない。彼らにとってはまったくちがう光景になってしまった

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