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ノルウェーの森 上・下 <村上春樹>

講談社文庫 20090616

おもしろい。切ない。哀しい。
村上春樹の作品で最初に読んだのは「羊をめぐる冒険」だった。次はノモンハンを描いた作品、それから「アンダーグランド」。どれもおもしろい。「ノルウェーの森」は彼には珍しく、リアルで現実的な小説だった。
高校時代の友人が自殺し、東京の大学にでる。友人の彼女と東京で再会してきあい、、その彼女がまた心を病んでしまう。主人公の「僕」は、アルバイトをしてウィスキーを飲み、ときに女をナンパするノンポリの学生だ。そんな学生のふわふわ生活のなかにぽっかりと空いた心の穴のようなものを描きだす。
学生運動が盛んな時期だが、そこから距離をおき、政治的な色はほとんどない。世の中からガラスで隔離されたような環境にいる「僕」の孤独。親もでてこない。「仲間」とか「連帯」もない。「会社」もない。一見ふつうの学生だが、その隔絶感は「ふつう」の学生にはありえない。そういう部分が物足りなさなのかもしれないけど、この小説のなかに親子の対立とか社会との確執がでてきたら違和感があるだろう。ガラスに覆われた温室の孤独のような世界が、この時期の村上ワールドなのだろう。
テーマがあるとしたら「死」の受け止め方だろうか。「死」は生の反対語ではなく、日々の生活のなかにまざりあっている。死の痛みに慣れることなどできない。十分に悲しみ、痛むことで、そこからなにかを得るしかない--と。

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