■241015
フランクル関連の本は5,6冊よんでいるから、内容に新鮮味はないが、簡潔にフランクルの思想をまとめていてわかりやすかった。
みずから活動することによって得られる「創造価値」が失われても、だれかと深く愛し合えたという思い出があれば「生きていてよかった」と思える。それが「体験価値」だ。その体験価値がないとしても、 「祈り」などの「態度価値」を実現する精神的自由だけは、どんな劣悪な環境でも、奪い取られることはない。
こうしたフランクルの思想は、ナチスの収容所での体験によって形成されたと思われがちだが、実は収容所以前にできていた。収容所は思想の強度をためされる場だった。
「……人生の意味は無条件のもので、いかなる状況においてもそれは失われることはない、と言ってきた。たとえ苦しみが取りのぞかれない時でも、その苦しみから何らかの意味をつかみ取ることができるはずだ、と……。今度はお前自身がそれを生きる番だ」
収容所でみずからそう言い聞かせていたという。
苛酷な状況を生きながらえた人は未来への希望を見失わず、祈りや感謝を忘れず、人間を超えた崇高な何かとのつながりを大切にする人たちだった。人に生きる力を与えたのは「精神性の高さ、豊かさ」だった。
人間のなすべきことは「生きる意味はあるのか」と「人生を問う」ことではなく、さまざまな状況に直面しながら、その都度、「人生から問われていること」(=使命)に全力で答えていくことだ。われわれが人生の意味を問うのではなくて、問われた者として体験している、というコペルニクス的転回が必要だと考えた。
フランクルによると、幸福は求めようとすると「永遠の欲求不満の状態」に陥ってしまう。自分の幸福を求める「自己中心の生き方」から、「人生からの呼びかけ」に応える「意味と使命中心の生き方」へと転換を求めた。
また、通常の心理学やカウンセリングは、悩みや苦しみをとりのぞこうとするが、フランクルは、「苦悩」に積極的な意味をみる。ただその苦悩は、「誰かのため」「何かのため」でなければならない。収容所においてフランクルは、人々に生きる力を与え、絶望のなかに小さな希望を見出すための支えになることが自分の使命だと任じた。だから、彼の苦悩は意味を持ち、自分自身の生きる支えにもなった。
収容所で彼は、人間の生命の存在の無限の意味は、苦悩と死をも含むのだと仲間たちに語った。
状態の重大さを直視しながらも諦めないことをもとめ、われわれの戦いの見こみのないことは、戦いの意味や尊厳を少しも傷つけるものでないことを意識するよう仲間たちに懇願した。
「あなたがどれほど人生に絶望しても、人生のほうがあなたに絶望することはない」
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▽28 ひげをそり、姿勢を良くして歩けば、若くて元気で労働が可能であるようにみなされたのです。……ひげをそってくれる者を見つけたら自分の最後のパンと引き換えにしてでも剃ってもらえ、と教えてくれたのです。
▽31 収容所では、自分の心を守るためにも「無感動」「無感覚」「無関心」に。これを「心の装甲」と呼んでいます
▽34 「クリスマスには休暇が出る」という思いこみが被収容者たちを期待させ、それがみごとに裏切られたときに多くの死者が出たのです。
……苛酷な状況のなかを生きながらえた人とは……未来に希望を描き、それを見失うことがなかった人です。ほかならぬフランクルがそうでした。
▽37 祈ることを忘れず、感謝することを忘れないような精神の持ち主は、生き延びることができた確率が高かったのです……人間を越えた崇高な何か、とのつながりを大切にする人のほうが、そうでない人よりも、寿命が長い。
▽38 「精神性の高さ、豊かさ」をもつ人は、どんな状況にあっても、それに支配され押しつぶされてしまうことがなく、内面的自由さと豊かさという「もうひとつの世界」への通路がひらかれていたからである。
▽56 私たち人間のなすべきことは、生きる意味はあるのかと「人生を問う」ことではなくて、人生のさまざまな状況に直面しながら、その都度、「人生から問われていること」に全力で答えていくこと、ただそれだけだと言うのです。
▽58 フランクルの心理学では「あなたの内側に何かを探し求めないでください」「あなたの心の内側をのぞきこまないでください」と言います。
そして、次のように問うていくように促すのです。
「この人生から、あなたは何をすることを求められているのでしょうか」「この人生で、あなたに与えられている意味、使命は何でしょうか」
▽60 人生の状況から発せられてくる問いかけに精一杯応え、自分の人生に与えられた固有の使命をまっとうしていく、という人間本来の在り方へと立ち戻ることで、人ははじめて慢性的な不満状態から解放されていくと、フランクルは言うのです。
▽70 人間という存在の本質は、自分ではない誰か、自分ではない何かとのつながりによって生きる力を得ているところにあります。
……待っている仕事、あるいは待っている愛する人間、に対して持っている責任を意識した人間は、彼の生命を放棄することが決してできないのである。
……フランクルは、幸福は求めることができないものであり、求めようとすればするほど、逃げていくものだという幸福の逆説性を見て取りました。
【創造価値、体験価値、態度価値】
▽82 とりあえずいま与えられている仕事に全力で取り組んでいるうちに、後で振り返ると、それが「天職」であったことがわかったりするものです。
▽88 もはやこの地上に何も残っていなくても、人間はー瞬間であれーー愛する人間の像に心底深く身を捧げることによって浄福になりうるのだということが私に判ったのである。
……だれかと深く愛し合えたという「思い出」が、人間を最終的に救う力を持つのです。……ただ、そのことを思いだすだけで、心が豊かに満たされ、生きていてよかったと思えるような記憶。それが体験価値です。
▽91 「人々の祈り」などは、典型的な態度価値……苦難を静かに引き受け、じっと両の手を組んでいる。
……苦しい毎日のなかでも、仲間の間をめぐり、励ましの声をかけ、時にはもっと飢えている人に自分のパンを与える被収容者がいました。態度価値の実現だけは、どのように劣悪な環境にあっても可能です。態度価値を実現する精神的自由だけは、どのような劣悪な環境でも、人から奪い取ることは不可能なのです。
▽102 ……フランクルの心理学では、「悩み」「苦しみ」のもつ積極的意義に着目します。「苦悩すること」は、人間の一つの「能力」である、と考えたのです。
▽109 人間にとってもっともつらい苦しみは、「自分がなぜ悩み苦しんでいるのか、その理由がわからないことだ」
▽113 フランクルは、ただ悩むことに意味があると言っているのではありません。「誰かのため」「何かのため」の苦悩が本来的な苦悩であると言っているのです。……収容所において、フランクルのなかには、人々に生きる力を与えたい、絶望の中に小さな希望を見出すための支えになりたい、それが自分の使命なのだという思いがありました。だから、彼の苦悩は意味を持ち、自分自身の生きる支えにもなったのです。
▽117 人間の生命の存在の無限の意味は、苦悩と死をも含むものであることについて語った。……われわれの状態の重大さを直視し、かつそれにもかかわらず諦めないことを望み、われわれの戦いの見こみのないことは戦いの意味や尊厳を少しも傷つけるものでないことを意識するように懇願した。
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