MENU

街場の憂国会議<内田樹>

■街場の憂国会議<内田樹> 晶文社20160423
 
 武道家にとって「驚かされること」は禁忌。「驚かされない」ためのもっとも有効な方法は「こまめに驚く」こと。「風の音にもおどろく」。ああその通りだと思った。日ごろのニュースにこまめに驚いておくことで、大きな問題が起きたとき、正常性バイアスに陥らずに行動できるのだ。

□内田樹
 為政者の大半は経済成長を前提としている。彼らは、成長が止まったときのために制度をどう整備するかについて何も語らない。戦争中「もし負けたら」という思考を「敗北主義」と排除した陸大出の参謀たちとよく似ている。
 筆者は、現代の無責任体制の原因のひとつを株式会社化に見出す。自分の出資分以上の責任が問われない有限責任のシステムは、歴史的にはごく最近つくられた。有限責任とは、自ら負うべきリスクを他者に押しつけるものだ。会社が環境を破壊しても、被害者は株主から出資額以上の弁償をとることはできない。破産したら納税者に負担を押しつける。こういった「コスト外部化システム」が成り立ったのは、第三世界や地球環境や天然資源など、コストを押しつける「外部」が存在したからだという。
 大阪の橋下市長が「役人はろくに仕事をしない」という一般論を語っているかぎりはよいが、「民間ではありえない」「役人が仕事をしないのは株式会社のように運営されていないから」となるとおかしくなる。その証拠に11人の民間人校長のうち6人は不祥事を起こした。査定者の気に入るように動く組織では、そこで働く人間はすべて査定者「以下」の能力しか発揮しなくなる。「キャロット&スティック」の陥るピットフォールなのだという。
 特定秘密保護法に多くの国民が賛意を表明してしまったのは、サラリーマンたちが働く会社に表現の自由も集会・結社の自由もなく、憲法21条が空文化していたからだという指摘も説得的だった。

□小田嶋隆
 安倍晋三のしゃべりかたが、わずか5年で急速に早口になったのは、躁状態に似た気分の変動のなかにいる可能性がある。
 朴ウネ大統領の外交を、安倍シンパは「告げ口外交」という子どもっぽい言葉で蔑む。「告げ口」とは、何かに隷属している人間が使う言葉だ。朴氏の「告げ口」を告発することは、告発者の側が「アメリカ」や「国際社会」に「叱られる」事態を恐れていることを証明しているという。

□想田和弘
 自民党の改憲草案を分析したうえで、安倍政権の特徴はたんなるナショナリズムではなく「国民主権から企業主権へ」だという。
 現行憲法に国民の義務は、教育と勤労、納税の3つしかないのに対し、国旗・国家の尊重義務、領土・資源の保全に協力する義務、家族相互扶助の義務、…緊急事態において国その他の指示に従う義務、憲法尊重義務…と、やたらと国民の「義務」が追加されている。
 現憲法の「公共の福祉に反しない限り」を「公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない」に変えようとしている。この案は、「中華人民共和国公民は、その自由及び権利を行使するに当たって、国家、社会及び集団の利益並びに他の公民の適法な自由及び権利を損なってはならない」という中国の憲法とよく似た構造だ。
 戦争や東日本大震災のような「緊急事態」には、内閣総理大臣が「憲法を超越して何でもできる」というのは、ワイマール憲法下のナチスの台頭を思わせる。
 騒ぎの陰で、生活保護法も「三親等以内の家族による扶養義務の事実上の要件化」まで盛り込もうとしている。おじ・おばの扶養まで義務化しようとしている。知らないうちにとんでもないことが決められてしまう。

□中島岳志
 橋下批判を書いたらNTT出版から「特定の政治家・政党に対する批判を出版することは難しい」と削除を求められた。想田監督の映画上映会を、「公平中立な立場をとるべき指定管理者が開催する事業としてふさわしいかどうか」と区から確認されただけで、千代田図書館の指定管理者がキャンセルしてきた。
 「忖度」の連鎖によって、タブーがふくらんでいく。かつての「放送禁止歌」も禁止した主体はなく、自主規制を繰り返すことでタブーが空気のように醸成されていた。権力の発動は、直接的介入によるのではなく、勝手な忖度によって最大化するという。
 「文藝春秋」の池島信平は、言論をおさえつける勢力が外部だけならばもっと反発できたが、内部からの陰惨な圧力に対しては正しく闘えなかった、と戦前を振り返った。「暗い時代が来た時、敵は外にあると同時に、もっと強く内部にあると覚悟してもらいたい」という言葉はとてもよくわかる。致命的な弾は後ろから飛んでくるものなのだ。

□中野晃一
 新自由主義の流れの解説がわかりやすい。
 新自由主義という形で、金融資本を中心とした企業利益の最優先化を果たし、富裕層の利益を追い求める際には、その事実を覆い隠すためにナショナリズムをあおり、国家権力を強大化することになるという。
 サッチャーの政策は、フォークランド紛争でナショナリズムをあおって世論の支持を確保し、労働組合など国内外の「敵」を排除するなかではじめて可能になった。保守党の票田であるイングランド東南部の金融資本やサービス業の利害を優先した。その結果、イングランド北部やスコットランド、ウェールズなどの製造業は衰退し、貧困問題は悪化の一途をたどった。保守党は、スコットランドやウェールズで大きく支持を失う結果になった。
 日本の新右派転換は中曽根政権期の民営化政策からはじまるが、1994年に小選挙区制が導入されてから本格化したという指摘は新鮮だった。小泉政権では製造業の派遣労働などが解禁され、1990年に2割だった非正規労働者の比率が4割近くまで上昇した。
 生活保護予算の0.4%程度で推移している不正受給などをあげつらい、生活保護バッシングのキャンペーンを張った。保護費の切り下げを実施し、扶養義務の強化などを盛り込んだ生活保護法の改悪をした。

□平川克美
 人口10万人当たりの自殺率は、日本は12位で、経済的に破綻しているポルトガルやギリシャより高い。日本より高いのは、中国・ロシア・韓国などだ。OECDが2005年に発表した格差ランキングでは、先進国ではアメリカに次いで2位で、ギリシアやポルトガルよりもひどかった。2011年度の発表によれば、先進国中の最低賃金相対比較では、日本は最下位で、その次がアメリカ、韓国の順だった。いつのまにか世界の先進国でもっとも格差が激しい国になっている。そんなデータがあるとは知らなかった。

 「暮しの手帖」は生活思想を背景に生まれたが、 近代化・消費化によって、生活思想を支えていた家族や地縁共同体が崩壊してしまった。生活思想は、差異を強調する宗教やイデオロギーと異なり、世界の生活者を結びつける力があった。だからこそ鶴見俊輔は「生活」を重視したのだろう。現在蔓延するナショナリズムや排他的思想の背景にあるのは、生活者の思想の衰退があるのではないか、と論じる。
 豪雪、農業、中小企業、お金といったリアルな生活実感が田中角栄の思想の関心事だとすれば、安倍の関心は「美しい日本」という観念のなかの幻想の国家にすぎない。
 共感できる論だが、生活の思想が残っていたはずの戦前・戦中のナショナリズムはどう分析すればよいのだろうか。

□孫崎享
  五輪招致で福島原発について安倍が「まったく問題はない。…汚染水の影響は、福島第一原発の港湾内の0・3平方キロメートルの敷地内で完全にブロックされている」と述べたとき、ほとんどの国民はうそだと知っていたはずだ。。TPPについて2013年に「すでにお約束している守るべきはしっかりと守るべく努力していきたい」と語ったときは、「守るべき」というものがきわめて曖昧で、米などの関税は多分守られないだろうことは解っていた。国民は「騙される選択」をした、という。
 なぜそんな選択をするのか。格差社会が浸透するなか、「自分は権力側にいる」との安心感を求め、体制側から排除されることを恐れる心情からきているのではないか、という。
 TPPのなかで、ISD条項が重大だと指摘する。
 NAFTAでは、米国の会社がメキシコにつくった廃棄物処理施設で癌患者が多発した際、自治体が施設を不許可処分にしたたため企業が提訴し、1700万ドルの賠償判決が出た。カナダ政府が有害毒性のあるガソリン添加物MMT輸出を禁止すると、米国企業は、確実な証拠もなく規制しようとしていると主張して、カナダ政府は1300万ドルを払って和解した。カナダ政府が米国の製薬会社に対して臨床実験数が不十分であるとして薬の特許を与えなかった際は、カナダの裁判所は会社の訴えを却下したが、ISD条項でカナダ政府を訴えて賠償額1億ドルを会社は獲得した。
 ISD条項は、国権の最高機関である国会がつくった法律を裁く。最高裁の判決も「投資家の利益が損なわれたか」という視点のみで裁く。国家の主権も投資家の利益のもとに掘り崩されてしまうのだ。

□鷲田清和
 池内了さんが指摘する原発の「四つの押しつけ」は、原発を過疎地に押しつけ、被曝労働を下請け労働者に押しつけ、核廃棄物を未来世代に押しつけ、汚染水を世界の人々や生き物たちに押しつけていることだという。
 だれも責任をとらないで、他者に押しつけるという「責任放棄の構造」が日本社会を覆っているという。
 さらに我々は、サービスやシステムにぶら下がるばかりで、自分たちで力を合わせてそれを担う力量を急速に失った。システムが機能停止したとき、課題そのものを引き取ることもできずに、クレームをつけるだけの受動的な存在になってしまった。公共的機関への「おまかせ」の構造だ。
 「押しつけ」と「おまかせ」という責任を担おうとしない人たちの合わせ鏡が日本社会を覆っていると指摘する。
 こんな時代には、リーダーシップ以上に、よきフォロワーシップが大切だという。地域社会では、利益集団においてリーダーが備えるべき全体を気遣うという態度を、フォロワーが備えていなければならない。右肩下がりの時代は、最後尾でみなの安否を確認しつつ進む登山グループの「しんがり」のような存在がもっとも重要なのだという。

=================
▽6 武道家にとって「驚かされること」は禁忌。「驚かされない」ためのもっとも有効な方法は「こまめに驚く」こと。「風の音にもおどろく」

□内田樹 株式会社化する国民国家
▽22 成長論者たちは、成長が止まったときのために社会制度をどう整備するかについて何も語らない。「そのような敗北主義が日本をダメにするのだ」という言葉づかいも陸大出の参謀たちとよく似ている。だから成長が止まった日には、その先達たちと同じように風を食らって姿をかき消すだろう。
▽23 特定秘密保護法に、多くの国民が賛意を表明した。急速に関心が薄れた。世のサラリーマンたちの多くがもともと憲法21条を「空文」だと思っていたことに関係がある。社内には表現の自由も集会・結社の自由もない。…
▽30 株式会社は、自分の出資分以上の責任が問われることはない。このようなルールはそれまで社会には存在しなかった。
…「有限責任とは、自らが負うべきリスクを他の誰かに押しつけるもの」
…会社がどれほど環境を破壊しても、被害者たちは株主たちから出資額以上の弁償をとることはできない。…破産したとき、負担はそのまま納税者に。「コスト外部化システム」が存在したのは、コストを押しつける「外部」が存在したから。第三世界や地球環境、資源…。
▽35 2012年の衆院選で日本維新の会は、選挙公約に「最低賃金の撤廃」を掲げた。(のちに撤回)
▽48 2012年の統計で経済成長率が世界一の国は、リビア。2位はシエラレオネ。3位はアフガニスタン。4位がモンゴル。5位が二ジュール。…高成長の国の多くは内戦、クーデタ、独裁の国。リビアなどで荒稼ぎしているのは、グローバル企業の株主たち。
▽52 1721年から1828年までのあいだ、日本の人口は2610万から2720万人に増えただけで、国内の需要のほぼすべてを自給自足していた。ゼロ成長社会。それでも江戸の人口は世界一だった。

□小田嶋隆
▽63 安倍晋三のしゃべりかたが、わずか5年で急速に早口に。…躁状態に似た気分の変動のなかにいる可能性…
▽75 朴ウネ大統領の外交姿勢を、安倍シンパは「告げ口外交」と蔑む。「告げ口」という子どもっぽい言葉を、政府関係者まで使ってしまっている。…「告げ口」とは、何かに隷属している人間が使う言葉。朴氏の「告げ口」を告発することは、それをしている人々が「アメリカ」「国際社会」に「叱られる」事態を恐れている旨を証明している。
「気分」が支配する国。
▽79 安倍政権の特徴は、側近とされる人々の口から、次々と首相の「本音」が代弁されること。

□想田和弘
改憲草案を分析。
▽89 第9条の2を新設し、集団的自衛権を超えたあらゆる戦争参加への道を開いている。「米国の戦争に、いつでも、どこでも、いかなるときでも参戦できる国」をめざしている。
▽94 やたらと国民の「義務」が追加されている。国旗・国家の尊重義務、領土・資源の保全に協力する義務、家族相互扶助の義務、…緊急事態において国その他の指示に従う義務、憲法尊重義務。
現行憲法には、教育と勤労、納税の3つしかないのに。
▽96 現憲法の「公共の福祉に反しない限り」は、「個人の人権を制限できるのは、別の個人の人権と衝突する場合のみ」。改憲草案では「公益及び公の秩序」。この概念は、表現の自由の21条を骨抜きにするためにも使われる。「公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない」
…中国の憲法は自民党改憲草案と似たような構造。「中華人民共和国公民は、その自由及び権利を行使するに当たって、国家、社会及び集団の利益並びに他の公民の適法な自由及び権利を損なってはならない」という言葉で、言論・出版・集会・結社…の自由を無効化している。
▽101 緊急事態宣言…その宣言が効力を有する期間、衆議院は解散されないものとし、両議員の議員の任期及び選挙期日の特例を設けることができる。
戦争や東日本大震災のような「緊急事態」の際には、内閣総理大臣が「憲法を超越して何でもできる」ということ。
▽105 麻生太郎の「ある日気づいたら、ワイマール憲法が変わって、ナチス憲法に変わっていたんですよ。誰も気づかないで変わった。あの手口を学んだらどうかね。わーわー騒がないで。」
それをしているのが安倍政権。法制局長官をすげかえ、…NHKにお気に入りを送り込み…
▽109 「特定秘密保護法」公約でもふれず、所信表明でもふれない。「ナチスの手口」を実行している。
…生活保護法改定法案 扶養調査の権限拡大による「三親等以内の家族による扶養義務の事実上の要件化」
「日本の社会保障の根底を揺るがす、戦後最大の制度改悪」
▽116 TPP 農林水産業の4割が壊滅するという政府試算。安倍はナショナリズムを政治的に利用しているだけ。「国民主権から企業主権へ」
□高橋源一郎
▽138 同じ国民を「売国奴」と罵る人は、「国民国家」という人工のシステムを壊そうと企んでいるのである。
安倍のおともだちの言葉を徹底的に使って皮肉っている。

□中島岳志
▽153 橋下批判を書いたらNTT出版から「特定の政治家・政党に対する批判を出版することは難しい」と削除を求められた。…民主党政権に対する批判本は出しているのに。
…想田監督の上映会を、区から「公平中立な立場をとるべき指定管理者が開催する事業としてふさわしいかどうかの確認」をされただけで、千代田図書館の指定管理会社がキャンセルしてきた。…「忖度」の連鎖。「放送禁止歌」も禁止した主体はなかった。自主規制を繰り返すことで、放送禁止というタブーが空気のように醸成される。
▽165「文藝春秋」の池島信平。昨日まで戦争に熱狂していた人々が、一転して平和主義者の顔をして天皇を罵倒する。これまでの空気が別の空気に変わっただけで、空気の支配は変わらない。
…(言論をおさえつけるような)この勢力が外部だけであったならば、われわれはもっと強くこれに対して反発できたであろう。しかし内部からくる、なんともいえない陰惨なくらい影に対しては、どうにもできず、やりきれなさのみが残って、これと正しく闘うということができなくなってしまった…暗い時代が来た時、敵は外にあると同時に、もっと強く内部にあるとかくごしてもらいたい。(〓弾は後ろから)
▽170 空気に水を差すことは勇気がいる。東京五輪に違和感を表明すると、即座にバッシングの対象になる。
…安倍首相の口からは、バッシングと共に「感動」というタームが頻出する。百田の「永遠の0」を「感動作」と絶賛し…
▽173 権力の発動は、直接的な介入によって行われるのではなく、勝手な忖度によって最大化する。

□中野晃一
▽185 新自由主義的な経済政策と権威主義的な国家のあり方の組み合わせが特徴。金融資本を中心とした企業利益の最優先化と、それを可能にするために国家権力の強大化と私物化が同時進行的になされた…
▽186 サッチャーは、一貫して保守党の票田であるイングランド東南部の金融資本やサービス業の利害を優先する政策をとった。その結果、イングランド北部やスコットランド、ウェールズなどの製造業は衰退をつづけ、貧困問題は悪化の一途をたどった。
…新自由主義政策は、フォークランド紛争でナショナリズムをあおって大衆的な支持を調達し、政府内で絶大な権力を集中させ、労働組合など国内外の「敵」を排除していくなかではじめて可能になった。
…サッチャー保守党は、スコットランドやウェールズで大きく支持を失い…
▽189 日本における新右派転換は、中曽根政権期の民営化政策などによってはじめられたが、その本格化は1980年代末からの選挙制度改革が94年に小選挙区制導入として結実してからのことだ。
…小泉政権では、製造業における派遣労働の解禁がなされるなどして、企業利益の最優先化が…1990年に2割だった非正規労働者の比率は、いまや4割に迫るところまで上昇。
…新自由主義は、一般に人気のある政治潮流ではないため、必ずナショナリズムなどほかの政治潮流と連合を組む必要がある。…社会契約をご破算にして富裕層の階級利益を追い求める際に、その事実を覆い隠すためにナショナリズムをあおり、国家権力を集中・強大化することを可能にするものなのだ。
▽196 保守政治エリートたちは、生活保護予算のわずか0.4%程度で推移しつづけている不正受給や違法でさえない受給ケースをことさらにあげつらい、生活保護バッシングのキャンペーンを張った。
…生活保護費の切り下げを実施し、扶養義務の強化などを盛り込んだ生活保護法の改悪を行った。国民なき、空疎で便宜的な「ナショナリズム」

□平川克美
▽213 安倍「法制局長官の方が総理大臣より偉いのか」とつぶやいた。
▽224 人口10万人当たりの自殺率ランキング。日本は21.7人で12位。経済的に破綻しているといわれるポルトガルやギリシャより高い数字。…中国・ロシア・韓国は日本よりもさらに自殺者が多い…
…OECDが2005年に発表した世界の格差ランキングでは、日本は先進国の中ではアメリカに次いで2位で、ギリシアやポルトガルよりもひどい格差社会。…OECDの2011年度の発表によれば、先進国中の最低賃金相対比較では、日本は最下位。次がアメリカ、そして韓国。いつのまにか世界の先進国でもっとも格差が激しい国になっている
▽234 ピーター・バラカンさんも「都知事選が終わるまで原発に触れないよう、二つの放送局で言われました」
▽238 安倍政権の支持率の最大の理由は、過大に装飾された経済政策であり…アベノミクスというものへの幻想が、支持率を支えている。
▽241 近代化、消費化のプロセスのなかで、生活者の思想が失われていった。…肥大化する観念に対置する暮らしの思想。「暮しの手帖」などもこういった生活思想を背景に生まれた。…生活思想を支えていた家族、地縁共同体が変質し、崩壊するなかで、生活思想というものも語られなくなってきた。…生活思想は、宗教やイデオロギーといった観念的なものとちがって、世界の生活者を結びつけることになるが、宗教やイデオロギーは差異を強調する。
…〓日本に蔓延する自我肥大、ナショナリズム、排他的思想の背景にあるのは、そこに生活者の思想が存在せず、観念が肥大化して生活から乖離した結果ではないか
…豪雪、農業、中小企業、お金といったリアルな生活実感が田中角栄の思想の関心事だとすれば、安倍の関心は美しい日本です。観念の中で作り上げられた安倍氏の幻想の国家があるだけ。

□孫崎享
▽250 五輪招致「まったく問題はない。…汚染水の影響は、福島第一原発の港湾内の0・3平方キロメートルの敷地内で完全にブロックされている」と述べたとき、ほとんどの国民は嘘であることを知っていたはずだ。。TPPについて2013年「すでにお約束している守るべきはしっかりと守るべく努力していきたい」…「守るべき」というものがきわめて曖昧であり、米など主要5品目の関税引き下げは多分守られないであろうことは解っていた。…国民は「騙される選択」をしたのだ。…格差社会が浸透しつつある中で、「自分は権力側にいる」との安心感を求め、体制側から排除されることを恐れる心情からきているのではないか。
▽254 2005年、石橋克彦・神戸大教授は、衆院予算委員会公聴会で「迫り来る大地震活動期は未曾有の国内である」と…「地震の場合は…いろいろなところが振動でやられるわけですから、それらが複合して、多重防護システムが働かなくなるとか、…過酷事故という炉心溶融とかにつながりかねない…」
▽258 TPP  ISD条項は国家の主権を揺るがす重大問題。NAFTAでは、…米国の会社が廃棄物処理施設をメキシコにつくって、癌患者が多発した。自治体が施設を不許可処分にしたところ、企業が提訴し、1700万ドルの賠償判決が出た。
…カナダ政府が有害毒性のあるガソリン添加物MMT輸出を禁止すると、米国エチル社は、確実な証拠もなく規制しようとしていると主張して、カナダ政府は1300万ドルを払って和解。…カナダ政府は米国の製薬会社に対して…薬の臨床実験数が不十分であるとして特許を与えず、会社はカナダの裁判所に持ちこんだが、最高裁は却下。今度はISD条項でカナダ政府を訴えて賠償額1億ドル。
憲法は国会が最高機関としているが、ISD条項はこの法律を裁く。最高裁の判決も「投資家の利益が損なわれたか」という視点のみで裁く。日本の法律・裁判を退ける。
▽269 NYタイムズ 秘密保護法をごり押しで通過。秘密を漏らした公務員は10年まで東国されうる。報道関係者が「不当」な方法で入手したり、秘密指定されていると知らない情報を得ようとしたりすることでさえ5年まで投獄されうる。この法案が通る前に、石破茂が、自身のブログで11月29日、秘密保護法案に反対して合法的にデモを行う人たちをテロリストになぞらえた。
…秘密保護法必要、と言ったのは、日本自体から出る必要ではなく、米国の要請。
…秘密の対象の分野は「外交」「防衛」に加えて「テロ」が加わった。「テロ」の範囲はきわめて不明確である。

□鷲田清和
▽290 戦後日本は3度にわたって大都市圏に大量の人口移動を起こした。第1期は1960年代から70年代にかけての高度成長期、第2期は、80年から93年にかけてのバブル経済の時期、第3期は2000年以降。…地方はたんなる人口減少というより、若年層の流出に見舞われた。
▽293 右肩上がりの時代に育った人たちは、明日はきっともっとよくなるという時代感覚に酔いしれ、この好況が朝鮮戦争やベトナム戦争といった他国の「悲劇」に負うところが多いことは意識にのぼらなかった。
…この人たちは次の世代が経済を回すための需要を「経済成長」の名で先食いしようとしている。自然を修復不能なまでに壊したまま次世代に手渡そうとしている。原発再稼働にさしたる抵抗もなく動き出しているのも、これと無関係ではない。
▽297 自殺者の数は、景気動向と強い相関をしめす。戦後第3期ともいうべきこの13年間の自殺率が、柳田国男がその急増を憂えた80年前のそれとほぼ同率。
…貧もふくめ、一人ひとりが、孤立したままリスクにむきだしで曝されているのが現代である。…正規社員から非正規への切り替えは就労環境を不安定なものにする。
…池内了さん。原発事故の「四つの押しつけ」。原発を過疎地に押しつけ、被曝労働を下請け労働者に押しつけ、核廃棄物を未来世代に押しつけ、汚染水を世界の人々や生き物たちに押しつけている。…だれも責任をとらないで、他者に「押しつけ」るという責任放棄の構造。
…「おまかせ」の構造。提供されるサービス・システムにぶら下がるばかりで、自分たちで力を合わせてそれを担う力量を急速に失っていった。システムが機能停止したときに、課題そのものを引き取ることもできずに、クレームをつけるだけの、受動的で無力な存在になってしまった。公共的機関への「おまかせ」の構造。
「押しつけ」と「おまかせ」の、責任を担おうとしない人たちの合わせ鏡が日本社会を覆っている。この合わせ鏡の外にどう出るか。それこそ震災が突きつけたもっとも重い課題だとおもわれる。
▽307 NPOやボランティアなどの社会活動が、政治へのカイロを比較的多くもつ政令指定都市としてたとえば仙台市がある…
…リーダーシップにまして重要なのは、よきフォロワーシップ。地域社会では、利益集団においてリーダーが供えておくべき全体を気遣うという態度を、フォロワーのほうが備えていなければならない。「しんがりの思想」。右肩下がりの時代、最後尾でみなの安否を確認しつつ進む登山グループの「しんがり」のような存在がもっとも重要になってくる。
亡くなる直前の梅棹忠夫が「請われれば一差し舞える人物になれ」

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

目次