■天国と地獄地球8万キロ自転車の旅 <森逸広> 20110304
中米で知りあった森さんが本を出していたとは知らなかった。3年間にわたる世界1週の旅の記録だ。
中国にわたり、チベットからネパールに抜ける旅路は、僕もほぼ同じ時期にバスとヒッチハイクでたどっている。5000メートルの峠を越える息苦しさ、宇宙を見るかのような真っ青な空。ヤクのロウソクのにおい。薄暗いポタラ宮。そして、シガツェから国境のザンムーまでは荒涼とした岩だらけの高原で、エベレストの雪峯を見たときの感動。バスでは1泊か2泊だったが、自転車では8日もかかったという。まさに別天地で、しんどいけれども日々わくわくしていて、「新婚旅行はこんなところを旅したい」としばらくのあいだ思っていたものだ。
チベットに比べると、ネパール側は物価は安いし食事もうまくて天国のよう。だが、はじめの数日が終わると「こんなところに沈没していてよいのか」と疑問がわく。
ここまでは 自分の旅と重ね合わせて読んだ。
ヨルダンのイスラエル国境では、パレスチナ人の民家に泊まり、イスラエルに向かって「バカヤロー」とパレスチナ人といっしょに石を投げ、スウェーデンでは「物がなくて買えなかったいままでよりも、あっても買えないいまのほうがなだんか切ない」と思う。世界の状況を身体で感じる大切さを思う。
西ドイツでは、女学生が共同生活しているアパートに泊めてもらったのにアタックできず、「自分の殻をぶちやぶらなければ」と思う。すごい自転車野郎ってイメージだったけど、考えることはけっこう似ていたのだ。
キャンプの描写もいい。たき火でステーキを焼いて食べる……。宿に泊まっていてはわからない魅力がある。そういえば僕は、海外では野宿はほとんどしたことがなかった。もう一度、キャンプで旅したいなあと思う。
ニカラグアやホンジュラスでは僕も登場していることに驚く。
アメリカの日本山妙法寺の寺ですごしたあと、ヨーロッパにもどり、そこからアフリカをめざす。西アフリカの過酷なサイクリングの描写には驚かされる。それでも、「交通事故以外で命まで失うなんてことはまずない。だから国内を走るのも海外を走るのも危険は大差ない」と筆者は実感する。その実感に共感と羨望を覚える。
=============================
▽51 インドからパキスタンへ。
ヨルダン パレスチナ人の民家に泊まる。イスラエルに向かって「バカヤロー」と石を投げたら、パレスチナ人もいっしょに投げてくれた。
▽66 ソフィアのホテルの部屋でダニにやられる。
▽75 スウェーデン 物がなくて買えなかったいままでよりも、あっても買えないいまのほうがなだんか切ない。
▽79 西ドイツ 女学生が共同生活しているアパートに泊めてもらう。いい子だったのに、アタックできず、「自分の殻をぶちやぶらなければ」と。同じやな。
▽86 フランス
▽110 アルゼンチン 未舗装のデコボコ道が2000キロもつづく無人地帯。ガウチョは、旅人にベッドまで貸してくれて、肉のかたまりとパンとシチューをだしてくれる。旅人をもてなすのがあたりまえの習慣になっている。
▽113 チリ サンチアゴのペンション「五月雨」。日本人好みのセニョリータ。カフェショーという看板の店でストリップ。ワンドリンクつきで1ドルちょっと……はまり込んで抜け出せなくなったダメ旅行者が多い。
ビクトル・ハラ、ビオレッタ・パラ。ペニャ(音楽酒場)では朝方までワインを飲みながら歌い踊り明かす。
▽116 ボリビア キャンプは楽しい。肉を買って、火をおこし、その火で焼いたステーキはやわらかく、口のなかでじゅわーっと。
▽149 ニカラグア。くさった旅行者かと思ったら活動的な人ばかりで驚いた、という。僕は彼を見て、すごいなあ、と思った。世界中を自転車で旅するなんて……。ホンジュラスではニカラグア難民のキャンプへ。そうだ、いっしょに行ったんだ! とはじめて思い出した。オレも登場していることに新鮮なおどろき。
▽157 グアテマラ 禅。パナハッチェルはただの観光地でガックリ。幹線道路を離れると、アップダウンだらけのボリビアに匹敵するほどの砂利道に泣かされる。村々には電気も水道もなく物質文明におかされていない……
▽163 交通事故以外で命まで失うなんてことはまずない。だから国内を走るのも海外を走るのも危険は大差ない。だけどメキシコシティは……交通量は増えるし……危なくて仕方ない。
▽180 アメリカ 日本山妙法寺の寺 三つ編みから丸坊主に。
▽196 フランスからスイスへ。野宿中心に自炊の練習。……いままでスーパーでパンとジャム、添加物の入ったつまらないものですませていたことが悔やまれてならない。野宿だと好きなところで寝れるのでガツガツ走らなくてよい。
▽210 モーリタニアからマリ。電気があるのはヌアクショットだけ。砂しかないところに掘っ立て小屋があって人が住んでいた。緑のない死の世界に人が暮らしている。
▽223 リベリア ポリスのボスの名刺を見せると態度はコロッと変わる。威張りくさっているくせに、偉い人にはメチャクチャ弱い。
国境の役人やポリスにプレゼントを要求される。川を渡る小舟もその管理下にあって、所持金すべて巻き上げられた。泳いで渡るわけにいかず、まったく悔しい。
▽226 コートジボアール 国境を越えただけで雰囲気は一変。笑顔だけで心が通じる。チップも要求されない。
最後、九州の阿蘇へ。百姓になる。
コメント