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女性兵士 <加藤健二郎>

■女性兵士 <加藤健二郎> 講談社文庫 20110105

 1日に3%の死傷者が戦意喪失ラインだとか、なるほど。軍事の「常識」が、戦争の現場では意外なところで役立つのだ。
 日本の自衛隊基地にいる米軍組織を取材し、イボンヌという女性情報将校につきあたる。彼女をさがす過程がスパイ小説のよう。スナックに行ったり寿司屋にいったり、ちょっとした機転で取材していく。
 ジャングルで虫に刺されて出血し、膿んで歩けなくなる。痛くてたっていることもできなくなる……そういう細かな描写に、たしかにそうだ、そんなことがあった!、と共感する。自分の経験のない現場でも、なんだか自分が経験したかのように心がうごかされる。
 ギャルというふざけた視点から戦争をみるからこそ、大状況の説明ばかりにならず、そういう細かな部分が生きてくるのだと思った。
 
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 ▽38  一般的に1日の死傷者数が部隊の3%に達し継続すると、戦意喪失に向かう危険がある。
 ▽47 「化学兵器についての知識がないと、身体に及ぼす症状に驚いて恐怖心が蔓延し、戦意喪失によって部隊が敗走する」という記述を読んでいたことを思い出し、「戦意喪失した兵隊の心境を体験できるなんて貴重だ」と思うことにした。これが、まあ、思いつく精いっぱいの前向きな思考だった。
(苦しみにとらわれるのでなく、苦しみを自分から引きはがして観察する)
 ▽63 青森県内の自衛隊のなかに、米軍秘密部隊らしきチームが勤務している、という情報で取材。……「出なさい、すぐに出て」と高圧的に命令し、門の撮影も禁じる。「こんなに自国民を敵視している自衛隊施設は初めてだった」……米軍陣が住む民家へ。大家さん宅へ。
 ▽69 ……浅利三佐は、丁重だった。数カ月後に海自を退職し、むつ市の市議になっている。
 ▽73 北海道の松前でも米軍人さがし。家の位置を新聞販売店にきく。1軒1軒訪問。
 寿司屋や旅館。スナックへ。「自衛隊からしゃべるなという釘を刺す電話はありましたか?」。松前じゅうの店に箝口令を敷くために電話をかけまくっていた。
 ▽180 クロアチアのミスに選ばれたこともある女性兵士ドブラフカ。脱走兵について「特攻隊までやって国を守ろうとした日本人の目から見てクロアチアの脱走兵をどう思う? ここにいるのは戦う勇気のない男たち。そう思いませんか」と質問してくる。「どんな戦争でも、あるていど人間が生き残ることが必要だよ。……日本は優秀な人材をたくさん失いすぎた。真剣になりすぎた日本より、脱走兵がこんなにたくさん生きていけるクロアチアのほうが賢い」と返した。
 当時のクロアチアでは、戦争による独立に反対する政治意見もそれなりの勢力で存在していた。反対意見を容認していた。
 ▽182 ドブラフスカは、「そういう見方もあるか」と気づいたような態度だった。持論による反論の前に、まずは相手の論をじっくり考えて理解しようとしてみる。クロアチアでは、ドブラフカ以外にもこういう姿勢の人によく会った。議論で大きい声を出す人を「野蛮人」と蔑む見方もある。

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