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時間は存在しない<カルロ・ロヴェッリ、富永星訳>

■NHK出版

 時間や空間の大きさは絶対的であるというニュートン力学は、アインシュタインの相対性理論によってくつがえされた、ということは知っていた。では時間とはなにか? 生と死とはなんなのか? 「死後の世界」をどう解き明かすのか?
 この本の結論は「絶対的な時間は存在しない」だ。だったらなぜ過去と現在と未来があるのか……物理学をつきつめると、宗教の世界になっていく。というより、そういう現実を表現しようとしたのが宗教だったのかもしれない。

 時間の流れが高所では速く低地では遅いのは、物体が周囲の時間を減速させるからであり、ブラックホールは質量があまりに巨大だからその縁で時間が止まる。
 宇宙には無数の「時間」があり、ミクロな状況を観察すると、過去と未来のちがいは消え、「原因」と「結果」の区別もなくなる。
 私たちの「現在」は、宇宙全体には広がらない。宇宙全体に共通の「今」があるというのは幻想にすぎない。

 その昔、人類は太陽で時間を決めていたから、地域によって異なる「時間」があった。「時間は変化を計測した数でしかない」というアリストテレス的な時間だった。それにたいしてニュートンは「数学的で絶対的な真の時間」が存在するとかんがえた。「絶対的な時間」はニュートンが考案した。
 長らくニュートンの時間・空間の概念が正しいとされてきたが、アインシュタインは、アリストテレスの時間とニュートンの時間を統合した。
 さらに量子論は、あらゆる現象に「最小の規模」が存在するとし、最小規模は「プランク・スケール」、最小の時間は「プランク時間」で、それより短いところでは、長さの概念が意味をなさないとする。
 時間は連続的に継続するのではなく、時間には最小幅が存在し、ぴょんぴょんと一つの価から別の価に飛ぶものであり。最少幅に満たないところでは、時間の概念は存在しない。空間も同様だ。
 さらに量子論によると、現在と過去と未来の区別さえも揺れ動いて不確かだという。
 さらにさらに、この世界は「物」ではなく「出来事」の集まりらしい。事物は「存在」するのではなく「起きる」。
 光子、重力量子……といった粒状のものが空間を埋め尽くしているのではなく、これら「空間量子」が空間を形づくり、その相互作用が「出来事」の発生なのだという。量子は「もの」ではなく、相互作用においてのみ姿をあらわす。存在するのは、出来事と関係だけ、なんだそうだ。
 般若心経の世界だ。

 ではどうやって「時間」が発生するのか。
 自然はエントロピーが小さい状態(秩序)から大きい状態(無秩序)にすすむ。
 宇宙全体は無秩序状態でも、私たちのかかわる宇宙の一角はエントロピーが低かった。エントロピーは次第に増大し、ひとつの流れをつくりだす。その流れが「時」をうみだし、この世界を動かす。
 過去と未来の差を生み出すものは、かつてエントロピーが低かったという事実以外にはない……

 量子論的な宇宙は「時間がたつにつれて膨脹する」というビッグバンの理論をも否定しているのだ。
=====

▽ 時間の流れは高い所では速く、低地では遅い。物体は周囲の時間を減速させる。物が落ちるのは時間の減速のせい。
▽23 アインシュタインの一般相対性理論 局地的な時間のなかでものごとがどう展開するか、さらには局地的な時間同士が互いに対してどう展開するかを記述する。この世界は、互いに影響を及ぼし合う出来事のネットワーク。
 相対性理論の方程式には、単一ではなく無数の「時間」がある。
(速度によっても時間が遅れる。動きつづける人間は時間がゆっくり流れる)
▽33 力学的世界も、相対性理論も量子力学の方程式も、どれひとつとして過去と未来を区別することはできない。
 この世界の基本方程式に時間の矢が登場するのは、熱が絡んでいるときに限られる。
 したがって時間と熱には深いつながりがある。
▽39 ミクロなレベルでの正確な状態をすべて考慮に入れることができたら、時間の流れの特徴とされる性質は消える。ミクロな状況を観察すると、過去と未来のちがいは消えてしまう。……事物の基本的な原理では「原因」と「結果」の区別がつかない。
▽49 わたしたちの「現在」は、宇宙全体には広がらない。「現在」は、自分たちを囲む泡のようなものなのだ。
宇宙全体にわたってきちんと定義された「今」という概念が存在するというのは幻想。
▽57 ブラックホールの質量があまりに大きいので、その縁で時間が止まってしまう。
▽64 昔、太陽で時間を決めていたころ、村ごとに独自の「時間」があった。(大阪と東京の時間はちがっていた。)
 時計が登場するまでは、時間の規則正しい尺度は、昼と夜の交代だけだった。
▽69 アリストテレス「時間は変化を計測した数でしかない」ニュートン「何も変化しなくても経過する時間(事物とはまったく無関係な時間)が確かにある」
ニュートンの時間tは、「数学的で絶対的な真の」時間。
事物やその動きから独立した一様な時間が存在するという見方は、ニュートンが考えたことだった。(それまではちがった)
▽72 空間も、アリストテレスは、ある事物の場所とは、「それを囲んでいる物のこと」と定義。とニュートンは正反対に空間そのものは「絶対的で数学的で真のもの」と考えた。
▽76 アインシュタイン アリストテレスの時間とニュートンの時間の統合。
 1915年に重力場の方程式を書いたアインシュタイン。1年もたたないうちに、それが時間と空間の性質に関する物語の締めくくりの言葉にならないことに気がついた。量子力学が存在するからだ。重力場も、それ以外のすべての物理的存在と同じように、量子的な性質をもっているはずなのだ。
▽85 量子とは基本的な粒のこと。あらゆる現象に「最小の規模」が存在する。重力場における最小規模は「プランク・スケール」、最小の時間は「プランク時間」。最小限の長さがプランク長で、それより短いところでは、長さの概念が意味をなさなくなる。
 時間は連続的に継続するのではなく、ぴょんぴょんと一つの価から別の価に飛ぶものとして捕らえるべき。時間には最小幅が存在し、その価に満たないところでは、時間の概念は存在しない。「時」すら存在しない。
……光は光の粒「光子」
▽90 量子力学のふたつめの発見は、不確かさ。……現在と過去と未来の区別までが、揺れ動いて不確かになる。
……「揺らぎ」」があるからといって、起きることがまったく定まらないわけではなく、ある瞬間に限って、予測不能な形で定まる。その量がほかの何かと相互作用することによって、不確かさが解消される。
▽93 時間は、場所と速度に応じて異なるリズムで経過する。時間は方向づけられていない。過去と未来のちがいは、この世界の基本方程式のなかには存在しない。それは、わたしたちが事物の詳細をはしょったときに偶然生じる性質でしかない。……「今」もなく連続でもない。
▽97 この世界が出来事のネットワークであるという事実に揺らぎはない。事物は「存在しない」、事物は「起きる」のだ。
……この世界は物ではなく、出来事の集まりなのである。出来事のネットワーク。(動的平衡も?〓)
▽103 この世界を、どのような状態であるかではなく、なにが起きるかという観点で記述する。ニュートンの力学やマクスウェルの方程式、量子力学などが私たちに教えてくれるのは、物の状態ではなく出来事の起き方なのだ。
……もしも「時間」が出来事の発生自体を意味するのなら、あらゆるものが「時間」である。時間のなかにあるものだけが存在するのだ。
▽123 光子、重力量子……粒状に振る舞う基本的なものが空間を埋め尽くしているのではなく、これら「空間量子」が空間を形作っている。これらの相互作用のネットワークがこの世界の空間を生みだしている。……相互作用こそがこの世界の出来事の発生であり、時間の最小限の基本形態なのだ。
……量子は相互作用という振る舞いを通じて、その相互作用においてのみ、さらには相互作用の相手との関係に限って、姿を現す。
……この世界は互いに関連し合う視点の集まりのようなもので「外側からみた世界」について語ることは無意味なのだ。なぜならこの世界には「外側」がないのだから。
……存在するのは、出来事と関係だけ。これが、基本的な物理学における時間のない世界なのである。
▽136 「熱時間」……膨大な変数のうちで、通常「時間」と呼んでいる変数にもっともよく似た振る舞いをするのが、熱時間。
▽144 私たちの目には、この世界がはじまったころのエントロピーはきわめて低かったように見える。しかし……わたしたちが物理系として相互作用してきた変数の部分集合に関してのみ、エントロピーが低く見えているのかもしれない。
▽145 宇宙のある部分集合が特別だとすると、その部分集合に関しては、過去の宇宙のエントロピーは低く、熱力学の第2法則(エントロピー増大の法則)が保たれる。そしてそこには記憶が存在し、痕跡が残り……生命や思考や進化が生じ得る。……そのあたりでは、時間の流れに特有の現象が起きうる。
……時間の流れはこの宇宙の特徴ではないのだろう。天空の回転と同じように、この宇宙の片隅にいるわたしたちの目に映る特殊な眺めなのだ。
▽153 視点に起因する現象でしかないと思われるエントロピーの増大が、どのようにして時間という広範な現象を生じさせるのか……
わたしたちがたまたま暮らしている小さな系で、片方のエントロピーが低くなっている。この系にとってはエントロピーは増大する。わたしたちはこの増大を時の流れとして経験する。つまり特別なのは初期の宇宙の状態ではなく、わたしたちが属している小さな系Sなのだ。
▽157 エネルギーではなく低いエントロピーがこの世界を動かす
……低いエントロピーがなければ、エネルギーは薄まって一様な熱となり、この世界は熱平衡状態になって眠りにつく。もはや過去と未来の区別はなく、なにも起こらなくなる。
 地球のすぐそばには、低いエントロピーの豊かな源がある。その名は太陽。……地球に入ってくるエネルギーの量は、出ていくエネルギーの量とほぼ等しい。
 太陽の低いエントロピーのもとをたどると、ついには宇宙の最初のエントロピーがきわめて低い状態に行き着く。このようなエントロピーの増大が、この宇宙の偉大な物語を推し進めているのである。
▽160 植物は、光合成を通じて太陽からのエントロピーの低い光子を貯め込む。動物は捕食によって低いエントロピーを得る。(エネルギーが手に入りさえすればよいなら、灼熱のサハラに向かうだろう)
▽ エネルギーではなくエントロピーが、石を地面にとどめ、この世界を回転させている。
……宇宙全体がごくゆっくりと崩れて行く山のようなもので、その構造は徐々に崩壊しているのだ。
 ごく小さな出来事からきわめて複雑な出来事まで、すべての出来事を生じさせているのは、どこまでも増大するエントロピーの踊り。宇宙のはじまりの低いエントロピーを糧とする踊り。
▽162 過去と未来の差を生み出すものは、かつてエントロピーが低かったという事実以外にはない……
▽174
▽185 時間は、本質的に記憶と予測でできた脳の持ち主である私たちヒトの、この世界との相互作用の形であり、私たちのアイデンティティーの源なのだ。
▽190 宇宙全体に共通な「今」は存在しない。すべての出来事が過去、現在、未来と順序づけられているのではなく、「部分的」に順序づけられているに過ぎない。わたしたちの近くには「今」があるが、遠くの銀河に「今」は存在しない。「今」は局所的なもの。
世界の出来事を統べる基本方程式に、過去と未来のちがいは存在しない。過去と未来がちがうと感じられる理由はただひとつ、過去の世界が、わたしたちのぼやけた目には「特殊」にうつる状態だったからだ。
時間は質量に近いほうが、そして速く動いたほうが遅くなる。
世界の基本原理には空間も時間もなく、ある物理量からほかの物理量へと変わっていく過程が在るだけだ。
わたしたちのこの世界は物ではなく、出来事からなる世界なのだ。
わたしたちから見れば、エントロピーの増大が過去と未来の差を生み出し、宇宙の展開を先導し、それによって過去の痕跡、残滓、記憶の存在が決まる。人類はこのエントロピー増大の歴史のひとつの結果であって、これらの痕跡がもたらす記憶のおかげでひとつにまとまっている。
▽195 プラトンが時の外側にある理想の世界を思い描き、ヘーゲルが時間性を超越して精神が全き己を知る瞬間について論じたのは、時間がもたらす不安から逃れるものだったのだろう。この不安から逃れるために、時間の外側にある「永遠」という未知の世界、神々、あるいは不死の魂が住まうであろう世界の存在を思い描いてきた。(般若心経〓)
▽210 ニュートンは、何の現象も起きない真空中でも時間が流れるという「絶対時間」の考えを提唱したが、アインシュタインは、時間や空間それじたいが物理現象を担う実体だという事実をあきらかにした。その実体は重力場と名づけられ、電気や磁気の担い手である電磁場と同じように方程式によって変動する。
……量子論とは、粒子の速度や場の強度などの物理量が揺らぎを持ち、ひとつの価に確定できないとする理論である。
 ループ量子重力理論は、「時間や空間が根源的ではない」」という新しい見方にもとづいて、世界の記述を試みる
▽212 量子論的な宇宙は「時間がたつにつれて膨脹する」という形ではなく、宇宙の大きさと物質の状態の相互関係としてあらわされた。
▽212 ロヴェッリによれば、この世界の根源にあるのは、時間・空間に先だつネットワークであり、そこに時間の流れは存在しない。

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