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イニシェリン島の精霊(映画)

 舞台はアイルランドののどかな離島。
 人がよいけどさえない主人公はある日、音楽家の親友に「おまえみたいに退屈なやつとは金輪際つきあいたくない」と絶交される。
 パブで毎日顔をあわせるが、いっさい会話を拒まれる。無理に話しかけると、「今後おれに話しかけてきたら、おれの指を1本ずつ切ってお前の家にとどけてやる」と脅される。
 のどかなムラに狂気がじわじわとにじみでてくる。
 島には「精霊」あるいは死神のような老婆がいて、不気味な予言をくりかえす。
 対岸からは時折砲撃の音がきこえてくる。ここまで見てようやく1923年のアイルランド内戦が背景にあることがわかった。
 島で戦闘があるわけではないが、のどかであるはずの島にも暴力と死のにおいがたちこめている。
 警察官は知的障害のある息子を性的に暴行し、気にいらない主人公をなぐりたおす。酔っぱらった主人公が、元親友の音楽家にからんだ翌日、人差し指が玄関先にとどけられる……

 平和なはずのムラに蔓延する暴力と死の空気。
 既視感がある。
 中米グアテマラのマヤ民族のムラだ。
 1996年まで36年間つづいた内戦で20万人以上が犠牲になった。戦闘そのものよりも、村々に組織された準軍事組織(自警団)による虐殺が猖獗をきわめた。
 主食のトウモロコシと野菜を混植するミルパとよばれる畑がひろがり、色とりどりの民族衣装を着た女性があるくムラは、世界から観光客がおとずれるが、2000年4月、「悪魔教」「人身売買」といった噂がながれ、観光バスからおりた日本人観光客が住民による集団リンチで殺された。
 この映画のムラも精霊(死神)にたたられ、同様に悲惨な運命がおそう。  ウクライナのみならず、「敵基地攻撃」をとなえる日本もまた「暴力」に巻きこまれようとしている。暴力の文化をぎりぎりでふせいでいるのが平和憲法ではないか……と映画を見ながら思った。
「暴力」が空気になるおそろしさをえがくこの映画はぜひ多くの人に見てほしい。

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