夢中居のアキオさん1

アキオ1

 バー「夢中居」のマスター、アキオさんがなくなって一ヶ月が過ぎようとしている。
 梅雨明け間近の朝、「愚仏庵が土砂で全壊」の記事を読んでいるとき、タケ子からの電話で知らされた。
 通夜に向かう電車の中で、混乱した心を整理するため、アキオさんに手紙を書くことにした。

 親子ほど年の差のあるアキオさんのことを、私は「夢中居のアキオ」とよびつけにして親しんでいた。
 私は松山へ帰るたび、お客のいない(失礼!)アキオさんの店に足を運んだ。
「相変わらずお客がいないなぇ」と言うと
「非営利じゃ!」とふてくされる。
 
 アキオさんは
「ご主人は元気か?」「ご主人によろしくな」と、数回しか会ったことのないゴローのこともいつも気にかけてくれていた。
 私がつい「忙しそうで元気ちゃうわ」と言うと、
アキオさんは一瞬困った表情で、
「がんばりながらがんばるな!」。
「いや、がんばってもらわんとあかん!」食い下がる私。すると
「がんばらんようがんばれって言うとけ!」と
仕舞いにはやけっぱちのように突き放す。
 
 メガネをずらし上目づかいにのぞき込み、
中島みゆきや、浅川マキなんかのCDをかけてくれたり、
 「これ知っとるか?」と本を薦めてくれたり。
おみやげに薄墨羊羹を持たせてくれたり。
 そんな「仕草」ばかりが思い出される。 (つづく)

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