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百年の孤独

■百年の孤独<G・ガルシア=マルケス、鼓直訳> 新潮社 20110829
マコンドという密林のムラが市に発展し、蜃気楼のように記憶からも消えてしまうまでの100年間を、ムラを拓いたブエンディア一族を通してたどる物語。
マコンドは、ホセ・アルカディオ=ブエンディアと妻のウルスラらが密林のなかに創設した。メルキアデスというジプシーの知恵者が頻繁に訪れて、錬金術などの文明や秘宝、魔法で人々を驚かせる。
新しいムラは「人が死んだことがない村」だったが、予言者であり知恵者であるメルキアデスが死ぬことで、マコンドにはじめて「死」が訪れる。
孤立した理想郷のようなマコンドも次第に外界との往来が増え、国を二分する保守党と自由党の争いに巻き込まれる。大人しかったアルレリャノは自由党派のゲリラの英雄となるが、自由党上層部が保守党と妥協してしまい、彼自身も裸の王様と化し、かつての仲間をも手をかけることに。一生を費やした闘争から離れ、若いころ覚えた金細工だけをつづける老後を送る。
鉄道が敷設されると、アメリカ人が姿を現し、バナナのプランテーションを拓く。農園の搾取に腹をたてた労働者が大規模なストをすると、軍隊が派遣され、数千人が殺され、遺体は列車で運ばれ捨てられる。虐殺の歴史そのものがなかったこととされてしまう。
栄華と残虐さを誇ったバナナプランテーションもつぶれる。
ウルスラら第一世代から子へ孫へ曾孫へ……似たような名前の子どもが次々に生まれ、育ち、孤独のなかに死ぬ。「同じことを繰り返しているみたい」と、一族の歴史を100歳を超えるまで見届けるウルスラは言う。
ウルスラは狂言まわしであり、孤独のなかに生きて死ぬ一族の男女のなかで唯一、生きる力と良心を代表している。そのウルスラが死ぬと、一族はブレーキを失った車のように坂道を一気に転げ落ち、マコンドそのものが消え去り、ブエンディア一族も死に絶える。
物語の展開をこうやってたどると、歴史小説のようだが、錬金術やら空中浮遊術やらといった魔術的記述と現実の歴史をモデルとした記述が渾然一体となっている。これら現実と幻想のすべてが「自分が見聞きしたこと」と著者は言う。現実と幻想を混同している祖母の語りをもとにつくった物語だという。ウルスラは著者の祖母をモデルとしており、著者の一族もまた、祖母の死とともに四散している。
古いものと新しいもの、合理的なことと非合理的なことが混沌と共存する小説は、ラテンアメリカの世界や自然を象徴しているかのうようだ。
物語の最後には、著者自身とその妻の名前が、ブエンディア一家の最後の男の友人として登場する。そんな部分もまた、小説と現実との間の壁をとかしてしまう効果をもたらしている。
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▽96 メルキアデスの死とともに、マコンドにも死が訪れる。密林の孤立したムラに「国」が入って来る。
▽104 保守党と自由党の対立に巻き込まれていく。保守党によるいんちき選挙。兵隊が存在感を増す。アウレリャノ やさしい青年が戦争に巻き込まれ、英雄に……
▽178 宿敵であり友でもあり、最後は死刑を執行した男の妻の家を、部下が焼き払う。それを喜ぶ。戦争が人を変える。……孤独におびえ、気に食わない部下や仲間を銃殺する。
▽181 政権につくために次々に保守党に妥協する自由党。
▽184 和平をいやがる自軍の将校を、敵の力を借りて平定する。
▽239 活動写真がはじめて導入され、本当のことだと思って騒動が起きる。蓄音機、電話……驚き騒ぎ……
▽241 米国人の食事にバナナを出したところ、一気に侵出してくることに。警察官は殺し屋風の男になり……
▽316 バナナ農園に対してストをする3千人の労働者の虐殺。組合の指導者は完全に抹殺される。すべて隠蔽されなかったことにされる。(1984年のよう)
▽351
▽389
▽404 アウレリャノ・ブエンディア大佐のことさえも「自由党の人間を殺す口実として政府がでっちあげた」でたらめの話、ということにされてしまう。虐殺事件はもちろん、バナナ会社さえ存在しなかったことにされる。
▽ おばアマランタとおいが結ばれ、出産のときにアマランタは死に、豚のしっぽのある子が生まれる。
▽431 メルキアデスの予言が記された羊皮紙の解読を終えた瞬間に、蜃気楼の町はなぎ倒され、人間の記憶から消える……
▽434

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