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民話に魅せられて ある田舎教師の歩み <酒井菫美>

■民話に魅せられて ある田舎教師の歩み <酒井菫美> 立花書院 20110323

 わらべ歌や民話などの口承文芸の研究を続けた元教師が半生をまとめた本。
 筆者は島根大卒業後に中学校に就職し、地域の素材を授業に生かすため、わらべ歌や昔話の収集を思い立った。1960年から週末ごとに録音器材を担いで地域の古老を訪ねつづけた。
 柿木村の柿木中学校在職中にかよいつめた老夫婦とは、民謡風の即興歌をやりとりした。「訪ね来るたび、菓子出されては やはり気兼ねで食べにくい」と遠慮すると、「遠慮なさりゃ わたしも遠慮、ざっくばらんに食べしゃんせ」と老妻が即座に応じる。その瞬間の思いを即興で歌にしてしまう、「土」に根ざした「本物の教養」に驚かされたという。
 1966年にストライキに参加すると、昇給や昇進で差別を受けた。処分不当を訴えて県教育委員会と5年後の和解まで争ったのは、スト参加者400人のうち約20人だけだった。
 隠岐島前高校では「郷土部」をつくり、生徒とともに民話を採録した。その後、島根大などで教え、各地の「民話の会」の活動にもかかわってきた……

 「民話」というと古くさいイメージがあるのだが、筆者は教育現場という現実とたたかうツールとして民話を選び、実際に勤評問題などで、自ら望んだわけではなかったが妥協せずに教委とたたかった。北朝鮮に渡る子どもの見送りを許さなかった教員を徹底的に批判した。教育現場の現実と真正面から対峙してきた。カビの生えた民俗学の「論」ではなく、筆者の体温や血のぬくもりがわかる本になっている。
 民俗学はいつから辛気くさい分類学になってしまったのだろうか。そうならないようにするには何が必要なのか。そんなことを考えさせられる。

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▽39 溝上泰子 封建制打破を叫んで、女性の自立を促す講演を各地で開き、聴きに来た人に住所を書いてもらい、そこに葉書を出し、そこから得た人脈を活用して行く斬新な研究手法をとった。昭和38年に「日本の底辺 山陰農村婦人の生活」を出し、国内に底辺ブームを呼び起こした。〓
▽67 原本の誤字や仮名遣いの間違いをそのまま写さなければならない鉄則を知らず……
▽76 北朝鮮に渡る子の見送りを許さなかった高校教師との論争。その教師は県教委で指導主事に。
▽118 隠岐島前高校郷土部 昔話はほとんど未発掘な状態であり、収録したものを整理すれば、その価値を評価してもらえる。高校生の活動が中央の学者の研究と直結できる数少ない活動分野。

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