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手仕事の日本 <柳宗悦>

■手仕事の日本<柳宗悦>岩波文庫 20101231
 戦時下の日本を歩いて「手仕事」を取材し、戦争末期である昭和18年に原稿を完成させた。だが検閲で、「日本は朝鮮のような半島ではなく島国である」という記述は「朝鮮のような」を抹殺され、岐阜提灯について「強さの美はないが、平和を愛する心の現れがある」と書いたら「平和」の2字は用いるな、と指摘された。結局戦時中には出版できず、戦後になって世に出た。あんな時代に各地の民俗文化を掘り起こすという「平和ぼけ」の作業をつづる意志力、それを本にしてしまう、という精神力がすさまじい。
 でも、書いていることは淡々と、日本各地の手仕事のよさと、時代の流れのなかでどう悪くなっているかを記している。淡々としているが故に、たとえば沖縄の数々の伝統的な手仕事の記述などは、この後の展開を知っている私たちの目から見るととても悲しい。
 こうした時代背景を除いても、日本がいかに豊かな手仕事の文化があったかがよくわかる。残っているものもあるが、たぶん多くは、高度経済成長のなかで失われてしまったろう。失ったものの大きさがよくわかる。
 彼の「美」の基準はどこにあるのかは260ページに記されている。
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▽29 私たちは現在の日本が伝統に基づいてどんな仕事を続けているか。またかかるものにどんな価値を見出し得るかを、まずただしておかねばなりません。それによってはじめて未来の方針を正しく樹てることが出来るでありましょう。(伝統から断絶されてしまった高度経済成長以降の日本の弱さ〓)
▽34 手技は、いち早く外来の文化を取り入れた都市やその付近には少なく、地方に多い。消費者の多い都会は、機械による商品の集まるところですが、生産する田舎は自ら作って暮らす風習が残ります。しかも自家使いのものや、特別注文による品は念入りに作られます。手仕事の方には悪い品を作っては恥だという気風がまだ衰えてはおりません。(〓今は? 阿蘇を見れば残る部分はあるが……)
 特色ある品物が一番多いのが農村で、山村がこれにつぎ、漁村は少ない。……商売人になりすました人が作る作品よりも、半分は百姓をして暮らす人の作ったものの方に、ずっと正直な品が多い。大地で働く生活にはどこか正直な健康なものがあるからでありましょう。半農半工のよさ。
▽44 煙管筒のような品は、東京出来を誇っていた。
▽47 箱根の寄せ木細工。小田原から宮下にかけて。
▽50 桐生は、全町これ機屋といいたいほど仕事が盛ん。これに続くのが足利。
 結城紬はよい品を少量つくる。
▽53 秩父の織物。川口は鋳物、釣り竿も日本一。
▽68 会津若松は絵蝋燭。以前は手描きだったが今は印刷で見劣り。
▽70 檜枝岐 雪沓やかんじきなど。曲げ物の手桶。簑。
 山形。置賜と村山と……手仕事が豊富。
▽74 紅花 化学染料に追いやられ、衰退したが宮中の御用が今もあって……(今では?〓) 山形市の銅町 往来を挟んで両側はほとんど全て銅器の店。火鉢、湯窯、仏器。
▽82 庄内の観音寺 十町もつづく市が正月に立つ。……庄内や最上には、刺子着の美しいのが見られる。
▽88 鳴子温泉の「こけし」
▽90 秋田の「樺細工」=桜皮の細工。角館に集まる。
▽96 南部鉄瓶 いたずらに凝って作るため、美しさを殺してしまっている。逆に無名の野鍛冶などでしばしば美しい伝統の品に会います。
▽98 陸中の漆器 衣川の奥の増沢という村落。塗りが正直で手堅い。村の人は「隠念仏」の信者で、この信心こそ仕事を真面目なものにさせている大きな力。今まで商人と取引したことがなく、いずれも在家から直接注文を受けて仕事をする。珍しい。こういう事情が見られるのは、この国で漆器を食器として何より多く用いる習慣が残るためだとも考えられる。何十人前と注文することが今も珍しくない。
▽102 遠野とか岩泉とか軽米といった町は、今も昔の生活を濃く思わせる。簑、雪沓、背中当といった民具。荒物屋でそれらをうかがえる。
▽104 「裂織」古衣を裂いて織り込む厚い布。炬燵掛に使われる。陸中で盛んだが、日本各地にあり、欧米にもある。
▽108 弘前 駄菓子屋がたくさんある通りがある。全国でも珍しい。
▽115 飛騨の白河郷 合掌造りの家々。ほかの地域とまったく類を異にする木工具。朝鮮のものに近い。山国の生活が純朴で自然で、気持ちに似通った点があるからだと思われる。
▽120 瀬戸の焼き物。織部 志野
▽129 信濃 製糸業が盛んで、全国生産の半ばを占め、かつての綿畑を桑畑に変えてしまった。
▽131 木曽の藪原や奈良井は櫛の産地。
▽142 富山 売薬 薬売りが背負っている柳行李は豊岡で作られ、富山で仕上げる。薬を包む和紙は、楮に紅殻を入れている。婦負郡の八尾地方で作られる。
▽151 新潟・佐渡島の小木港の近くの宿根木という漁村。二階建てが狭い石畳の道を挟んで寄り添う。千石船時代の面影が残っている(〓美保と同じ?)
▽153 京都 西陣 模様と色合いとは、もはや昔の気高い格を持ちませぬ。いたずらに細かい技に落ちて、活き活きした生命を忘れた恨みがあります。清水焼きも同様。……京都の焼き物がもう一度実用に即して、健全を旨として作られるなら、見違えるほどの力を取りもどすでありましょう。「御所人形」「嵯峨人形」昔からの技を守るものは出来が上等であります。鹿の子絞り……
▽181 紺絣 老若男女みな身につけた着物だった。絣こそは日本の織物であり、西洋には発達の跡がない。
▽185 石見と出雲の気風のちがい。石見の方は荒々しく強く、力を感じる。出雲は穏やかで温かで細かいところがある。不昧公……こういう平和な気風が出雲人に及ぼした影響……松江をはじめこの国の町々は茶事が盛んで、車夫までが待ちあう間に一服立てるという気風が見られます。
▽188 石州半紙 日本の抄紙の歴史を見ると、石見が発祥の地と考えられる。柿本人麻呂を紙祖と崇めるが、この人は石見の人だった。おそらく紙漉の技は朝鮮から教わったらろうと思われ……
出雲・八束郡の岩坂の紙は、新しい和紙運動の魁に。雁皮紙(楮や三椏よりも良質とされる)「出雲名刺」「出雲巻紙」
▽190 鉛からとる黄釉の焼き物 古いのは布志名。出西村の窯がよい品に努力しつつある。
「日出団扇」 塩冶村浄音寺でつくられる。
亀嵩村は「出雲算盤」。「広瀬絣」
▽192 八雲塗 色漆で模様を内に沈め、これを研ぎ出す。
 瑪瑙細工。「ぼてぼて茶」という「桶茶」=沖縄の「ぶくぶく茶」と似ている。起源が古いのでは? 抹茶と何か関係がある?
▽199 丸亀の塩屋の団扇。携わる工人は3000人。日本の団扇の8割までがこの町でできる。骨を組んでそのまま出荷する。
▽203 阿波の藍。日本全土にいきわたる。紺屋という紺屋が多かれ少なかれここの藍を用いた。江戸中期から日本中の販路をほとんど阿波で引き受けていた。河岸には藍を入れた土蔵が列をなしてならんでいる。
▽212 松山市。伊予絣。砥部の釜は、品物の格がいたく落ちたことを残念に思う。
▽216 秀吉が朝鮮に攻め入ったとき、俘虜のなかから陶工をつれて帰れと命令した。彼らは九州の大名たちの保護を受けて、陶土のある各地に釜を築いた。有田の磁器もかくしておこった。……「伊万里焼」と呼ばれたのは、ここから有田その他の焼き物が船に載せられたから。
▽224 日田の皿山の小鹿田の窯ほど、無傷で昔の面影を止めているところはないでありましょう。
▽237 沖縄の言葉は、ごく古い和語であって、今も候文がそのままいきた会話がある。鎌倉時代から足利時代にかけての習俗がそのまま今に伝えられている。
▽241 沖縄では、島によって違うものを織らせるようにした。八重山では白絣、宮古は紺絣、久米島は紬。……近頃は、「手結」の法を捨てて、新しく「絵図」と呼ぶ法にかえたため、柄の過ちが急に目立ってきた。無理に細かい柄を追ったために……
▽257 工人たちの品物。どれも実用を旨として作られている。実用的な工芸品と、感傷的な美術品とは、性質が大変違う。
▽260 用途に適うということは、必然の要求に応じるということ。材料の性質に制約せられるとは、自然の贈物に任せきるということ。人間からすると不自由ともいえましょうが、自然からすると一番当然の道を歩くことを意味します。不自由さこそ、かえって確実さを受け取る所以になる。これにひきかえ人間の自由は我が儘で、かえってこれがために自由が縛られることがしばしば起こります。それ故、人間の自由に任せるものは、とかく過ちを犯しがちであります。これに反して、自然の法則は世界でありますから誤りに落ちることはありません。実用的な品物に美しさが見られるのは、背後にかかる法則が働いているためであります。これを他力の美しさと呼んでもよいでありましょう。
▽276 解説 「ただひとつここで注意したいのは、吾々が固有のものを尊ぶということは、他の国のものを謗るとか侮るとかいう意味が伴ってはなりません」「真に国民的な郷土的な性質をもつものは、お互いに形こそ違え、その内側には一つにふれあうもののあるのを感じます。世界は一つに結ばれているものだということを、かえって固有のものから学びます」 真に固有のものこそ普遍性を持つという柳の主張は、国粋主義の吹きすさぶ昭和18年という時点に置いて考えると、清新で、いささか過激な主張であったろう。
▽280 柳田邦男との対談(昭和15年)。事実を正確に報告するのが民俗学であるという柳田の説明に対し、柳は、「かく在るあるいはかく在ったということを論じるのではなくて、かくあらねばならぬという世界に触れて行く使命」が民芸運動である、と主張した。

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