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世界像革命-家族人類学の挑戦  <エマニュエル=トッド>

  藤原書店 20061221

フランスをはじめとする「平等主義核家族」、イギリスなどの「絶対核家族」、東欧からアジアへと広く分布する「共同体家族」、ドイツや日本などの「直系家族」。
親子関係と兄弟間の相続のありかたによって分類し、それぞれの家族形態に合致した政治体制を導きだす。
共産主義国家はほぼ例外なく「共同体家族」の地域で起こっており、イタリア共産党の基盤だったトスカーナ地方もあの地域では珍しく「共同体」型だったという。共同体家族の、親子関係が権威主義的で相続は平等主義という価値観が共産主義に合致したためだという。
ちなみに直系家族は、親子関係が権威主義で、兄弟関係(相続)は不平等であり、、ここから自民族中心主義やナチズムが生まれる。フランス革命は「自由・平等」の平等主義核家族だから生まれ、「自由・不平等」である絶対核家族型の英米からは経済の自由主義が生まれたと説明する。
また、一般には「核家族」という形がもっとも進化した家族の形式と言われているが、むしろ古い形式であり、真に革新的だったのは共同体型だという。だから、ユーラシア大陸の中心の大半を共同体型が占め、それに追われるようにして周縁部にその他の家族型がみられるという。
なるほど、と思う。世界中の家族を調べあげ、経験主義的・統計的な手法で、以上のような結論を導きだしている。
だが本当にそうなのか? とも思う。家族形式だけで本当に政治やイデオロギーの問題まで説明できるのだろうか。都合のよい事実だけを抜き出しているのではないだろうか。
たとえばキューバは共産主義をいまだ機軸としているが、共同体家族なのだろうか。ベネズエラやニカラグアはどうだろうか。70年代に選挙による社会主義を実現したチリは?……。
疑問は尽きない。でも、おもしろかった。

------抜粋など--------

▽外婚制共同体家族 内婚制共同体家族 非対称共同体家族
権威主義的家族(直系家族)
平等主義核家族 絶対核家族 アノミー的家族:遺産相続が平等か否か
アフリカ・システム
の計8種類

▽絶対核家族 子どもは独立世帯に。遺産相続は遺言による。平等はあまり顧慮されない。:親子関係は自由主義的・兄弟関係は平等に対する無関心 :概ねアングロサクソン的:自由は内面化するが、平等にはあまり関心を払わない。

▽外婚制共同体家族 兄弟同士が父親のもとに同居する巨大家族。遺産は兄弟間で平等に分配。親子関係は権威主義、兄弟関係は平等主義。ユーラシア大陸の大部分がこの形式で、共産圏の分布とほぼ一致する。イタリア共産党の金城湯池がトスカーナ。

▽内婚制共同体家族は、アラブ・イスラム圏 非対称共同体家族はインド南部 アノミー的家族は東南アジア諸民族(個人主義と共同体主義の間を揺れ動く:インドネシア共産党壊滅やクメール・ルージュのジェノサイド)

▽教育潜在力 権威主義的(直系)家族であるドイツや日本できわめて強い

▽ イデオロギーは、直系家族では「権威と不平等-自民族中心的権威主義-社会民主主義」になり、北フランスなどの平等主義的核家族では「自由と平等-自由軍国主義-無政府社会主義」に、イングランドなどの絶対核家族では「自由主義的個人主義-自由孤立主義-労働党社会主義」に、外婚制共同体家族では「権威と平等-ファシズム-共産主義」に……。

▽近代化の主たる要因 識字化・脱キリスト教化・工業化・副次的に受胎調節 識字の先進地域はドイツ語圏、脱キリスト教化は北フランスや北部を除くスペインと南イタリア。受胎調節は識字化と脱キリスト教の合成であり、北フランスでのみ条件が整う。近代イデオロギーが生まれるためには、民衆が天上の神の国をあきらめて、この地上に理想の国を築こうと志向するのでなければならない。だから、ヨーロッパで最初に受胎調節がはじまった北フランスで、近代イデオロギーも発生する。

▽言語学「周辺地域に古いものが残る」 大陸中央部に切れ目なく広がる共同体家族は、革新的家族形態である。たとえば中国では、直系家族のイデオロギーである儒教が、秦の峻厳な法家思想によって徹底的に弾圧された。後に儒教が復活したとき、家族に関わる内容の不平等主義的様相は抜き取られ、国家官僚制度の公式イデオロギーとなった。

父系共同体家族の平等主義であると同時に権威主義的なこの家族組織モデルが、軍事的優位を与えたのだろう。
……近代性を形成する主力となった核家族は、最も古い原始的な家族型であるということになる。

▽ルワンダのフツ族とツチ族の家族構造は、ドイツ人とユダヤ人がそうであるように、直系家族で不平等主義。社会的効率性を可能にする特質を持っていると同時に、人種差別的になりかねない差異に対する強迫観念をももっている。(日本も)

▽北フランスの平等主義核家族は、スペイン中南部、イタリア北部と南部に分布しており、ローマ帝国の遺産と考えられる。……直系家族はヨーロッパには頻繁で、アジアでは日本と韓国・朝鮮に見られるが、世界では希。共同体家族の価値は権威と平等であり、共産主義の価値に他ならない。近代性によってこの家族が解体しはじめた時、人々が家族的拘束からの自由に耐えられなくなり、同じように個人を統合してくれる構築物を再建しようとした。=中央集権的な党・経済・警察。

▽移民受け入れのフランスとイングランドとドイツの違い。混淆婚の率はフランスは25%、ドイツは2%、イングランドはさらに低い。フランス人は、フランス語を話すようになると結婚相手として認める。これはローマ帝国以来のラテン的特徴。ドイツやイングランドは言葉だけでは不十分。両国は兄弟間でも差異主義的(ドイツは不平等、イングランドは単にたがいに異なる)であり、人間は異なるもの不平等なものであり、普遍的人間は存在しないと教え込む。
普遍主義的な国際世論に強制されてドイツが移民に対して本性に反することをせざるをえなくなり、より暴力的な反動を産み出すことになる恐れも。ビスマルクのドイツはユダヤ人を解放したが、やがて暴力的な反撃を引き起こしたという歴史上の例がある。(〓同じ直系家族の日本は?)

▽識字化はドイツなどの直系家族地帯でプロテスタント地域で進む。産業革命が起きたイングランドは、識字化はドイツやスウェーデンの後塵を拝していたが、絶対核家族は子どもの早期の旅立ちという要素をもともと持っていて、農民を根こそぎにしてしまうという点で有利だった(:アングロサクソン的粗暴な資本主義革命:絶対自由主義)。?

▽ウルトラ・リベラリズムは、英米では政治的レベルではさほど問題にならなかった。が、フランスでは、国民戦線が台頭した。直系家族型のオーストリアでは、極右勢力が既に政権に参加している(〓日本の事例)

▽ナチズムも日本の軍国主義もロシアの共産主義も、リベラリズム的近代に対する権威主義的イデオロギーの反作用として理解できる。人々が産業化を受け入れる際、リベラリズム的な近代が個人の安全を脅かすものとなり、その結果、人々が統合的な政治を求めていくことになる(〓格差社会でも同様)。イスラム原理主義の現象もほぼこれと同様の現象。

□速水と対談
▽ 明治19年の1世帯あたりの夫婦組数 東北日本が1.2以上。中央日本が0.8以下だった。
▽ 近代化・工業化で、社会移動が非常に活発になる。それが次第に減速し、人口増加が止まるこtで、ソーシャル・モビリティも終わってしまう。それぞれの家族が財産・職業をも含めた財産を死守するという傾向が生まれる。イギリスでは貴族が残っている。そこでは、エリート階級の再生産や職業の世襲化はべつに異常なことではない。だがフランスでは、職業の世襲化はフランス社会が機能不全に陥った兆候ではないかとネガティブな評価を与える。

▽縄文人→渡来人→第3の移民(舟を使って)
東北では早く結婚するが子どもは少ない。 中央は比較的遅い結婚で子どもは多い。南西部は遅く結婚するが、結婚以外の子どもを産むことは平気で私生児が多い。舟で往き来するから、外国へ行くことをなんとも思わない。……南米などへの移民も、西南日本からが圧倒的に多い。末子相続は中央から西南日本。

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