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コーヒーと南北問題 「キリマンジャロ」のフードシステム <辻村英之>

 日本経済評論社 20061210

4200円という値段的ボリュームがあり、しかも横書きの論文集といえば、ふつうなら読もうと思わないのだが、最初の数ページの理論部分を乗り越えたらあとはスイスイと読めた。
論文集なのに、対象のタンザニアの村人への共感とあたたかみが随所にみえるのもよい。現地の家庭に住みこむことによる文化人類学的な参与観察も、人々の暮らしを生き生きと描き、コーヒー価格の暴落によって生活が危機に瀕する有様を生々しく提示するのに役だっている。
生産する農民から競売所を経て輸出され、商社から焙煎業者へ、さらには喫茶店、消費者へと流れるさまを丹念に追う。
大産地であるブラジルの作況に左右されるニューヨークの先物市場で値段が決められ、タンザニアの農民や政府がどんなにがんばっても価格を高める余地がないという現実がわかる。
大ざっぱな流通経路は私も知っていたし、先物市場で価格が決定されるという大枠はわかっていた。だが、どんな人や企業がどんな形で農家から豆を仕入れ、タンザニア国内の値段をどうやって決めるのか。豆をどうやって格付けしているのか。NY市場にはどんな人が参加し、どういう形で競りをするのか……といった細かな具体的な部分は想像が及ばなかった。小さな事実の積み重ねの大切さがよくわかる。
さらに、厳しい状況に対抗する手段としてフェアトレードをとりあげ、実践し、その限界と課題をも示唆している。

------抜粋など-------
▽チャガ人の主食であるバナナを日陰樹とし、コーヒーの下には芋類、豆類を混作する「家庭畑」(〓ミルパのよう)
▽植民地時代に農村協同組合を結成。ウジャマー社会主義政策ですべての村に組合を設立。しかし自由後の構造調整政策下で機能しているのは植民地時代にも活躍していた組合に限られる。その他の地域では、多くの村民は組合、とりわけ組合連合会を「農民から金をだまし取るために政府が押しつけた機関」ととらえている。(〓日本の農協との比較、ニカラグアの協同農場との比較)
▽外国の民間コーヒー流通業者と、単協との買いつけ競争。95年に民営化された銀行は、市場原理で組合への貸し付けをしぶるようになり、インフレ抑制の高金利政策も重なって、組合は、買い付けに必要な借入金を得られなくなる。
▽p74 (80年代前半)流通統制の強化がすすむにつれ、流通公社の非効率さが流通コストを大きく引き上げ、生産者価格に悪影響が生じるようになる(〓ニカラグアの事例)。……94年のコーヒー豆流通の自由化(とりわけ民間業者による農村買付への参入)によって、小農民は初めて、最低限の生産者価格を支持する仕組みをもたない制度下に放り出された。
▽民間業者参入(買付競争)による農産物価格の上昇を狙ったが、それは機能しなかった。それどころか、農薬の流通自由化(先進国援助を受けた政府による補助価格での提供の廃止)が、コーヒーの生産費をひきあげる。その結果、生産意欲は減退し、牛乳やヒマワリ、トウモロコシ、都市への出稼ぎに力を入れる小農民が増えている。
▽民間生産者価格も組合生産者価格も、NY先物価格に頭打ちされている。それが上限である限り、構造調整政策で買付競争を促し、民間業者間の競争が実現したとしても、大きな価格上昇には至らない。小農民は「生産者価格が低いのは国際価格が低いからであって、自分たちにはどうすることもできない」というあきらめの言葉を吐かざるを得ない。 ▽構造調整、特に政府予算の制約と民間業者の参入は、品質管理の緩慢化に貢献しているのみである。
▽先物価格といっても、どの時点の先物価格を基準にするかで2つの設定方法がある。1つめは契約成立時点の先物価格を基準にする方法。もう1つは、契約時に決めた締め切り日までに、自らにとって望ましいと判断した日の価格で固定する方法。後者は当期利益を追求する手法で、西欧の大企業ほど選択したがる。日本企業はは投機リスクをさけるため前者をとりたがる。
▽商社は多くても輸入価格に2,3%上乗せして販売できる程度。中小焙煎業者向けに物流単位小口化の機能を果たす生豆問屋であっても、商社からの購入価格に7%程度上乗せするのが精いっぱいという。
▽98年。民間の買付は1キロ1500Tshs、2.34$。競売にて輸出業者に販売される競売価格は最高品質で5.55$、北部産アラビカで4.86$。日本へのアラビカの平均輸出価格は4.38$。タンザニアからの平均輸入価格は5$。この時点で生産者価格の2.14倍。ここから日本における加工により、世界最高水準まで一気に価格がはねあがる。キリマンジャロの小売価格は1キロ29$。喫茶店で一杯10グラムで換算すると、1キロ305$になる。
▽〓機械で収穫するブラジルでは48セント/ポンド前後、手摘みで収穫する中米では68セント前後の価格が実現しないと再生産が困難になる。(〓90セントという数字も聞いたことがあるが……)
▽トウモロコシやジャガイモは、自家消費の余剰分を青空市場で販売。コーヒーの史上最安値は、コーヒーの生産者価格を、本来は自給向けの食料作物の生産者価格水準まで引き下げた。
▽タンザニアのコーヒー小農民は、自分の努力で生活水準を大きく引き上げることができない。彼等の生活は、NYで決まる価格、ブラジルの天候、投機家の動向に強く従属している
▽ルカニ村では、98年に「青空セミナー」が開催され、有機栽培の技術が紹介された。魚取り用の毒として利用されてきた薬草を煙草の葉とともにすりつぶし、それに牛や山羊の尿を混ぜて、コーヒーの木に噴霧する。
▽FT基準に沿った最低輸出価格で、本当に生産者の「生産コストと一定の利益」が保障されるのか。その真の保障のためには川下からの「援助」的な価格形成のみでなく、川上(生産者)からの「自律」的な価格形成が必要である(〓からり、の取り組み)
▽NY市場は消費価値評価機能が問題。
▽生産者価格が上昇しない要因 ①価格の上限となるNY先物価格の低迷 ②農村における民間業者のカルテル ③モシ競売所におけるカルテル それに対抗すべき④協同組合の機能不全
▽コーヒー年度(10月から9月)

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