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フラガール

 李相日監督 200610

 久しぶりに涙がぼろぼろこぼれる映画だった。
 舞台は昭和40年の福島県の炭鉱の町。
各地で炭鉱が閉鎖され、ここでも大合理化がはじまる。
炭鉱のかわりに、観光客を呼べる施設をと考えたのが「ハワイアンセンター」という企画だった。
ダンサーはプロは呼ばず、すべて炭鉱の女たちに教えることにした。
 江戸時代から、一生で穴をほって暮らすのが当たり前だったから、ほとんどの人が反発する。
「天皇陛下も来た山だからつぶれるわけがねえ」と。
 中卒で幼い兄弟を養う女の子が1人、「ダンサー募集」のポスターを見て「ここから抜けだしてえ」と、親友を誘って申し込む。
 先生は、SKDにいたというダンサーだ。モダンな服装でのんだくれた「都会の女」だが、実は身内の借金で追われる身だった。
 踊りを熱心にまなぼうとする2人に刺激され、次第にもりあがり、生徒も増え……。
 だけど、言い出しっぺの女の子は、父がクビになって北海道の夕張に行くことに。
ダンサー仲間の父親は落盤事故で死亡する……。
 そんな重い状況のなかで、涙をみせるな、いつも笑え、という強がりが痛いほど哀しい。
そういう背景があるからコミカルな展開がひきたつ。
 あのとき、あの時代、炭鉱の町では確かな実感をもって人々が生きていた。
組合があって、心のよりどころになって、仲間の死をみんなで耐え、崩れ去ろうとするヤマで必死になってあがく人びとがいて……。
 かつて訪ねた夕張炭鉱で出会った、貧しくて野卑だけど、やさしくて涙もろい下請け炭鉱夫の人たちの姿を思い出す。
 いま私たちは、そんな「生きる実感」をどれだけ感じているだろう。

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