岡山県奈義町の陸上自衛隊日本原演習場。かつて2つの村があったが、日露戦争後に陸軍の演習場になり、戦後は連合軍をへて自衛隊が使用している。
広大な敷地には、住民の入会地があり、山すそまで田畑がひろがり、住民がでいりして耕作をつづけていた。
戦後、代替地をあたえられて耕作する人がへり、現在では主人公の内藤秀之さん一家だけになっている。
秀之さんは医学生だったが、反戦運動で現地にかよううちに結婚して内藤家の養子になった。「自衛隊とたたかうために」牛飼いになる。
こうやって説明するとかたい印象なのだけど、牛の出産シーンや、ヨーグルトにしたらクリームチーズのようになる「山の牛乳」、演習場内の畑での芋掘り、アイガモ農法で米をつくり、鴨鍋をみんなでつつく様子など、のんびりした山村の四季をコミカルにえがいている。
奈義町は戦前は陸軍、戦後は自衛隊と「共存共栄」してきた。演習場でありながら、よほど危険な訓練の日以外は、農民たちは自由にでいりした。子どもたちも、カブト虫やクワガタをとっていた。
反戦運動による監視と、農村の活気がくみあわさることで「共存」がなりたってきたといえる。
輸入農産物におされて農業や酪農が衰退し、演習場内の農地は、秀之さんの畑以外は森にかえってしまった。
「農」の没落と反比例するように、米軍と自衛隊の一体化による「軍事」色がつよまってくる。
日本原でも「日米共同演習」が実施され、「危険」でもないのに、演習場内の畑へのでいりをはばまれる。2020年にはついに米軍単独の訓練も実施された。
農村の衰退は穏健な保守地盤をきりくずす。反戦運動などの高齢化は社会の軍事化をうながす。
日本原は穏健保守と平和運動のほろびの最先端にあり、その流れにひとり抵抗し、牛を飼っていきる秀之さんの姿は「平和と農」のために一生をささげるジャンヌダルクのようにおもえた。
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