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小泉教授が選ぶ食の世界遺産 日本編<小泉武夫>

■小泉教授が選ぶ食の世界遺産 日本編<小泉武夫>講談社文庫 20161221

食べ物を巡る、ユニークで珍しい話、常識を打ち破るような話がふんだんに紹介されている。
昔たくあんは、日干しして味を濃くしてからぬか漬けにしたが、今は、干さずに漬けたり、調味液に漬けるものが主流になった。
甘酒は、ブドウ糖や必須アミノ酸、ビタミン類が豊富で、江戸時代は、暑い夏の栄養ドリンクだったから、夏の季語だった。
なれずしは、琵琶湖周辺では、ドジョウ、イサゴ、コイ、モロコ、ナマズ、オイカワでもつくり、ドジョウのなれずしを神前に供える神社もある。
木灰を水に溶かしてこした灰汁に糯米を浸し、竹や笹の皮に包んで灰汁で煮た灰汁巻きは、米は餅のように飴色に仕上がり、微生物が生育しにくく、薩摩は兵糧食にしていた。
沖縄のいらぶー汁は、燻製にしたウミヘビを、昆布や豚足などと煮る。1滴が手についただけでもベタベタ粘着するほどの「地球一濃厚なこく味」。
トチの実などの堅果や茎根からアクを抜き、でんぷんをとりだして食べる方法は、南米やパプアニューギニア、アフリカにもある。日本ではあく抜きしたものをさらに発酵させるという手法も生み出されている。
大昔から日本人は、野菊やタンポポ、スミレ、ツバキ、ボタンといった花を食べてきた。ミネラル類やビタミン類が豊富で、薬効があるとも言われてきた。
柿渋は、繊維質に塗ると防水性をもたせることができ、傘や団扇、板塀などに塗られた。漁網や漆器、やけどや虫刺され、脳卒中などの薬にも使われた。今日でも全国に柿渋製造業が残っている。
魚骨料理も、食べ残りの骨に熱湯を注ぐ「骨湯」や、「鯒の骨飯」などさまざまなものが伝えられている。
山椒は日本特産で、小魚や昆虫を殺す作用があるから、小魚を川面に浮かせる漁や虫下しにもした。
鰹節は身を煮たあと、いぶして乾燥させ、カビを発生させては日干しすることを繰り返す。カビに鰹節の内部に残った水分を完全に吸い取らせてしまうから、世界1硬い食品になる。
新島のくさやは、塩の取り立てが厳しかったから、桶に海水を入れて、それに魚を浸してから天日に干した。浸しては干すことを繰り返すうちに桶の漬け汁が発酵したのが、くさやのはじまりだった。くさやの漬け汁は、切り傷や腫れ物、痩などにつける薬としても使われた。実は抗生物質も含まれていた。
泡盛の古酒づくりは、毎年1本ずつ埋め、6年たったときに、最初の酒だけ掘り出して商品化する。減ったぶん2番手の古酒を加えていつも甕が満杯にしておく。スペインのシェリー酒の「ソレラ・システム」も同じ方法だった。

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□発酵
▽フグ卵巣の毒抜き
▽大根漬け 日干しして身を引き締め、味を濃くしてからぬか漬け。…今日の多くのたくあんが「塩押し法」といって干さずにつくるものや、調味液を使う「液漬け沢庵」などというのが主流になったが。
▽ぬか漬け 外国では、酢漬けやワイン漬けのような液体漬けであるのに対し、我が国の漬物は、ぬか漬け、こうじ漬け、酒粕漬け、味噌漬け、もろみ漬け、べったら漬けなど固体の漬け床である。
ぬかの手入れの方法…。
▽甘酒 暑い夏に甘酒を飲んだ。甘酒の季語は夏の飲み物。…夏は死亡者が多い。質素な食生活で、かも多く…暑さに勝てず老人や病弱者がなくなっていったのだろう。…甘酒はブドウ糖や必須アミノ酸、ビタミン類も豊富。江戸時代のブドウ糖溶液であり、総合ビタミンドリンク剤であり、必須アミノ酸強化飲料
▽種こうじ 木灰を利用。アルカリ性に保ち、空気中などのアルカリを嫌う有害微生物群の侵入をおさえる。(ほとんどの微生物はアルカリ性環境を嫌うが、コウジカビはこの環境に抵抗性が強い)
▽なれずし 東南アジアや東アジア特産。日本では近江のフナずし、紀州のサンマなれずしが有名。琵琶湖周辺では、アユ、ドジョウ、イサゴ、コイ、モロコ、ナマズ、オイカワ、ウグイでも。栗東市の菌神社〓の祭礼にはドジョウのなれずしを神前に供える神事があるなど、滋賀県内でなれずしを神饌や直会膳に供する神社は25社に及ぶ。
朽木地区。脂のない安いさばで夏になれずしをつくる。なれずしは脂肪が乗ると発酵が進まないばかりか、できあがったすしには強烈な臭気がして食べられないのだ。
▽アケビのなれずし 弘前市。熟したアケビとヤマブドウと糯米で。すべて植物性材料でなれずし。
▽日本粥と日本雑炊 コメの調理法。焼いたものを「焼米」、蒸したものを「強飯」「飯」、煮たものを「粥」といったが、大半の食法は大昔から煮熟法、すなわち粥である。
▽日本湯葉と日本麩 大豆蛋白質の滋養食品が「湯葉」ならば、小麦のそれは「麩」。小麦粉から分離した蛋白質のグルテンに糯米の粉を加えて混練し、火で焼いたものが焼麩。…京都の製造業者の集住地域は「麩屋町通り」の名が残っている。
▽焼いて食べる漬物 べん漬けとへしこ
▽早ずし 富山の「マスずし」、京都や福井の「サバずし」
この押しずしよりさらに早く食べられるすしが「五目ずし」「巻きずし」「いなりずし」。すしはどんどん早ずし化の方向に簡便化。江戸の文政や天保にいたって、江戸前のにぎりずしが普及する。
▽にぎりめし 手のひらに塩水をつけて握るのがふつうで、京都大阪では俵形につくって黒ごまをまぶし、江戸では球形ないし三角につくった。
▽灰汁巻き ちまきの一種。糯米をを水だけに漬けるのではなく、草木を燃やした跡に出る木灰を水に溶かし、それをこして不溶物をすくった灰汁に浸す。すると糯米はアルカリ性になる。その米を竹や笹の皮に包んで、灰汁で煮る。中の米はついた餅のようになり、半透明の飴色に仕上がる。…日持ちがよい。薩摩軍が兵糧食として開発した。…糯米に灰汁が入ると、アルカリ性と加熱によって、アミロースやアミロペクチンの変化、繊維成分の崩壊などがおこって餅状に。アルカリ環境下の加熱によって、でんぷんが加水分解されてブドウ糖が増えて糖分が増える。…灰汁効果でペーハーが高く、微生物が生育しにくい。
▽干し椎茸 鎌倉初期には、中国に輸出していた。
▽いらぶー汁 キングコブラより強い猛毒「海のコブラ」 燻製状にして、昆布や豚足といったうまみとゼラチンをたっぷり含んだ食材と共に煮る。 …スープの1滴が手についただけでもベタベタ粘着してしまう。ウミヘビと豚足から煮出されたゼラチンやコラーゲン。地球一濃厚な味とこく味。
▽ドングリ味噌 岐阜県や長野県 うまみや酸味に個性が強い。多量のアク成分が多く、食べられるものではないドングリを、草木灰を利用したり、発酵させたりして、味噌という副食をつくってしまう。
▽梅干し 梅酢のことを「塩梅」といい、それが「あんばい」と呼ばれて味かげんを意味するようになった。梅酢は当時、よほど重要な調味料だったのだろう。(今では産廃〓)
▽ネドチ トチの実の発酵食。野生の堅果や茎根からアクを抜きでんぷんをとりだして食べる方法は、南米やパプアニューギニア、アフリカの一部で行われている。我が国では蘇鉄味噌、ドングリ味噌、ネドチなどにみられる。他国とはあく抜きの方法が異なり、あく抜きしたものを発酵させて食べるという手法は独特の方法。
▽トンブリ 「畑の数の子」「畑のキャビア」 ホウキグサの実を加工。
▽花料理 大昔から日本人は花を食べた。野菊やタンポポ、スミレ、ツバキ、ボタンも。花粉や蜜にはリンや鉄、マグネシウム、カルシウム、カリウムのようなミネラル類や、ビタミンB群、C,Kなどが豊富。
…桃の花やつぼみは利尿、菊は心の安らぎ、こぶしは鼻の病や泌尿器系に、蕗の薹は健胃や鎮咳に…という薬効。
▽碁石茶 青海省では、10年前のものというカッチンコッチンの真っ黒い茶も。これらの茶は、雲南から四川に入り、内モンゴル、チベット、ウイグルに至る地域でのまれる。長期保存がきく茶。碁石茶は、現存する我が国唯一(最近は他に2カ所で発酵茶の再現が始まった)の微生物発酵茶。(石鎚黒茶は?)
需要は昔、地元よりも塩飽諸島の茶粥用の茶として有名になった。島の水は塩分を含んでいるため、塩辛さと碁石茶の酸味と渋い味、発酵茶特有のにおいがピッタリ合ったからだといわれt。(石鎚黒茶も外でのまれた〓)
▽柿渋 シブオールというタンニンの一種で、繊維質に塗布すると収斂がおこり防水性をもたせることができるうえ、防腐制も与えるから、傘、団扇、板塀などに塗られた。日本酒の清澄剤にも。漁網や漆器、医薬用(やけど、虫刺され、中風、脳卒中、高血圧の薬)
8月中旬ごろの柿の実「玉渋」をくだき、少量の水を入れて発酵させる。人が踏むことで圧縮し、空気なるべく遮断。袋に入れて、渋搾り。3~6カ月おいて発酵がはじまり、熟成されたら出荷する。
今日でも全国には柿渋製造業が残っており、昔ながらの発酵を守り続けている〓。
▽唐墨 長崎市野母崎地区樺島 …卵巣を保存食にしたものは、台湾やポルトガル、ギリシャ、イタリアにもある。だが日本の唐墨ほどすばらしい卵巣漬けはない。
▽宝漬け サバの卵巣の珍味漬け。石川県能登地方の名物。つくるところは数軒しかない。
▽魚骨料理 食べ残りの骨を椀に入れ、熱湯を注いで軽くしょうゆか塩で味付けした「骨湯」をのめば体によいといわれてきた。鯛やヒラメの骨を火であぶり、少し焦がし目にしたのに熱燗を注ぐ「骨酒」。
骨料理の代表格は、鮭の頭の中に納まっている氷頭という軟骨の料理。
コチという魚の骨を使った「鯒の骨飯」は中国地方の冬季料理。鱗と内臓の汚物だけのぞいて、生のまま骨もろとも細かにたたき、鍋に少量のごま油を落としたところで十分に炒め、湯をくわえて箸でほぐし、再び火にかけてから、酒塩しょうゆで味をととのえて煮立てる。これを炊きたてごはんにかける。キス、フナ、ハゼなどの小魚にも応用できる。
…ウナギの骨じゃ空揚げ。
…エイ 味噌汁にするときは、骨身は必ず水から煮出してしばらく煮込み、途中でささがきゴボウを入れ、最後にネギを入れ、椀に盛ってから粉山椒を振り込む。
父は魚を食い終わると必ずご飯茶碗に骨を入れ、これに熱湯を注いですすっていた。
▽メフン 中心の骨に沿って長く伸びている茶褐色のヒモのようなものが腎臓。鮭の腎臓でつくる塩からが「メフン」
▽このわた ナマコの腸の塩漬け。…ナマコから抜き取った直後の腸を生のまますするのが最高であるとか。…「延喜式」に、能登から貢納されたと記されている。
…湯飲みにこのわたを入れ、燗酒を注いでかきまぜるだけで絶妙…。
…中華料理のナマコは、昔、日本から乾燥ナマコを持って行ってできた料理。
▽イカの塩辛 イカの腸には2種類あって、いわゆる「腸」は肝臓。もうひとつは「墨袋」
▽海鞘(ほや) 胎水に強精の効能があると信じられていたから「保夜」と当て字した。▽海鼠子(くちこ)最高級超高値の超珍味。世界一高価な珍味。チョウザメのキャビアでさえも足元にも及ばない。
▽河豚料理 河豚の肉は弾力性に富み、ふつうの平造りではゴムをかむような感じでとても硬い。
▽黒焼き 江戸時代から続いてきた「黒焼き屋」がまだ現存している。…亜鉛、銅、アルミニウム、ニッケル、コバルト、鉄、カリウム、カルシウム、マンガン、マグネシウムなどの微量元素が、濃縮した状態で存在しており、様々な病傷に効いたのだろう。
▽七味唐辛子
▽山葵 純然たる日本原産。安永年間(1772~81)に伊豆で栽培が行われたのを最初として、今では静岡県、長野県、山口県、島根県、奈良県、広島県などでも生産されている。
▽山椒 日本特産。…サンショオールという成分は、小魚や昆虫などを殺す作用があるから、小魚を川面に浮かせる漁のほか、回虫なども下すから少量を煎じて虫下しにもした。食べ物の保存にも使った。
▽鰹節 世界で一番硬い食べ物。…下ろした身を煮たあと、いぶして乾燥させたのが「荒節」。4,5日乾かしてから、カビを発生させては刷毛で払い落として日干しし、またカビつけ…を繰り返し、最後に十分乾燥して完成。…カビに鰹節の内部に残った水分を完全に吸い取らせてしまう。
▽ウスターソース イギリスのウースターという町で作られたタイプのソース。タマネギ、ニンジン、トマト、セロリなどの煮熟液にタイム、セージ、シナモン、コショウ、肉桂などの香辛料や酢、砂糖、塩、カラメルなどを加えて6~12カ月熟成させる。
…アミノ酸液や昆布のだし汁、にぼしの煮汁、酢などを加えてジャパニーズウスターソースに。
▽火入れ パスツール(1822~95)が、ワインを煮沸せず、低温で殺菌する方法を編み出した。パスツライゼーション。だが日本ではその300年前の中世から同じことをして日本酒に火入れしていた。
▽灰による種馬鈴薯の殺菌。切断面に木灰をつける。土壌微生物は急激な水素イオン指数の変化には耐えられないから、強いアルカリ性に対しては生存できない。この方法は日本だけ。
▽灰干しわかめ 保存効果だけでなく、緑色を鮮やかに保つ発色の効果もあった。
▽くさや 新島 塩の取り立てが厳しく、干物用の塩が確保できなかったから、半桶に海水を入れて、それにクサヤムロやトビウオを浸してから天日に干して、浸しては干すことを繰り返して干物をつくった。その海水(漬け汁)が発酵しはじめ、美味な液体になった。くさやのはじまり。
…くさやの漬け汁を薬代わりにした。魚から溶け出したり、発酵菌が生産したりしたビタミン類や必須アミノ酸類が豊富。外科の治療薬にもなった。切り傷や腫れ物、痩などに汁をつけると治癒した。抗生物質が含まれていた。
▽村上の「塩引き鮭」と北海道の「山漬け」 今の塩鮭は、熟成期間がないから味が単調。昔の塩引き鮭は、じっくり熟成させた。
▽茶道 史書に書かれた最初の茶は、桓武天皇の時代に、最澄が唐から茶をもってきて、近江国坂本に植え、翌年空海も肥前長崎に植えた。その後、使われなくなった。復興させたのが1191年、中国から帰国した栄西禅師。栄西がもたらしたのは粉末にした抹茶方式だった。
▽泡盛の「仕次ぎ」 古酒づくり。毎年1本ずつ埋めていき、6年たったときに、最初の酒だけ掘り出して商品化する。減ったぶん2番手の古酒を加えていつも甕が満杯になった状態にしておく。
スペインのシェリー酒の「ソレラ・システム」も同じ方法。
▽灰持酒(あくもち) 島根・出雲地方の「地伝酒」、熊本県の「赤酒」、鹿児島県の「地酒(じしゅ)」。「地伝酒」は、赤褐色でトロリとした甘い酒。みりんのような酒。昭和初期に消えたが1994年に復活した。

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