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胡同の理髪師 <ハスチョロー監督>

20080417

北京のどまんなか、故宮のすぐ脇にある路地の街・胡同の、93歳の老理髪師の日々を描く。近代的なビルや高速道路にかこまれて、そこだけ時代から取り残されたかのような胡同が、切なく懐かしく切りとられている。
1日に5分遅れるゼンマイ式古時計のカチカチという音が、チンさんという理髪師の心臓の鼓動のように思える。古時計がとまったとき、おじいさんの命も終わってしまうのではないか……と、冒頭から微妙な気持ちにさせられる。
革のベルトでカミソリをとぎ、石けんの泡を顔にぬり、ジョリリジョリリと髭をそる。ひとつひとつの動作に風格がある。職人の技である。客もまた老人たちだ。「チンさんが一番だ」「チンさんに来てもらうと元気がでる」という。
ボロ屋がつらなる胡同には立ち退きが迫っている。チンさんの家にも立ち退きを示す文字がペンキで大書きされた。北京のどまんなかという地の利だから、補償料も多額になる。それをめぐって、近所の人同士、親戚同士が疑心暗鬼になる。でも、老人たちはそんなことを知らぬかのように、午前中は働き、午後は麻雀をして、人生の黄昏の日々を送っている。
老人たちの日常には絶えず死の影がのぞく。「きれいに死にたい」「息子には迷惑かけたくないな」と語り合う。
チンさんの客も1人2人と亡くなる。住み慣れた家から引き離され、息子の住む高級マンションにひきとられた老人は、孤独な最期をむかえる。
なんだか胸が苦しくなる。チンさんたちの寂しさは、たぶん自分の親が感じている寂しさなのだ。20年か30年後に自分自身が感じる寂しさでもある。人生への焦りと切なさをひしひしと感じさせられる。
だからこそ、道徳的な意味をこえて、老人を大切にしないといけない、老人たちがもつ豊かさを受けつがなければならない、と思わせられるのだ。

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