朝日新書 20080130
あまったリンゴやらご飯やら野菜やらを干して保存食にする……といった筆者の知恵はすごい。独身で自炊しているころに知っていたら、もっと食生活は安く豊かになったことだろう。
「食」をめぐる観察も興味深い。
たとえば、かつて塩っ辛い塩鮭にしていた鮭が北海道の川にもってきたが、脂ののりがいまひとつだから、カナダやらで養殖した脂肪たっぷりの鮭におわれ、北海道の鮭は中国に輸出されてすり身にされ、欧州へ輸出されているという。
北海道根釧パイロットファームの1977年の食事は、夕食は、羊肉とモヤシだけのジンギスカン。昼食は缶詰。朝も缶詰とインスタントみそ汁と漬物。ジンギスカン鍋は一度も洗わず、連日使い終わってもそのまま……規模拡大でトラクターやコンバインの借金を返すため休みなしに働いている。大規模農家を育てつつ借金で縛り、大規模化が進むことで小規模農家が競争力を失い、農業をやめてゆくようにし向ける農業政策の残酷さが、食卓にもあらわれている。
「沖縄の長寿」の原因のひとつが昆布を食べることだと言われてきたが、現場を歩くとそれも怪しいという。琉球のサトウキビを強引に得る対価に薩摩藩が安くて出汁のでない昆布をもちこんだのが、クーブイリチーになったが、100歳老人に聞いてまわると、「明治時代には昆布はない。海藻とは海で採るものであって買う物ではなかった」と証言したという。世間で言われる「食文化」「伝統食」が特定の身分の人たちだけの位置的な「食」だったことがすけて見えたという。
バイオエタノールなどの「エコ燃料」ブームも、「食」という視点から切ると、おかしさが簡単に浮き彫りになってくる。----------覚え書き-----------
▽うちの冷蔵庫に入っているのは、煮干し、干しエビ、そば粉、茶葉、氷、スパイスあたり。冷凍カボチャをストックするより煮干しを冷凍にすべきでしょうね。
▽野菜の保存 鍋に水張って、根っこをひたしておくほうが、冷蔵庫より鮮度を保てる葉物は多いのです。
▽輪切りリンゴの干物 大豆をトンカチで軽く打って天日で干して保存。みそ汁にも煮物にもいい。魚は内臓をぬいて2枚に開き、塩水にひたしたあと干すだけ。48時間以上干せば1週間以上日持ちする。野菜の干物は1年後もみそ汁に使えるし、残りご飯の干物は3年もつ。牛肉塩もみを干す。野菜は薄くスライスして干す。キノコや食パンも。大根葉はゆでて干す。残りご飯は洗って干す。
▽食の下克上
「すし」 70-80年代に高級食としてピーク。90年代になると回転寿司で大衆食に。
鯨 戦後の食糧難。GHQが捕鯨出漁の許可を出した。これが日本人の栄養状態を救う一助に。鯨の地位は高かった。「鯨のベーコンは最高だ」と。ところが、沿岸漁業が可能になり魚がとれるようになると尾の身以外は中の下に。捕鯨中止で高級品に。ところが調査捕鯨でとるミンク鯨はナガス鯨とは別物で味は悪いためまた地位が下がってきた。05年にはだぶつきだした。
魚肉ソーセージ 「ツナ・ソーセージ」の名で1952年発売。水爆実験でマグロが売れ残ったが、赤身だから蒲鉾にはならない。これが魚肉ソーセージに追い風に。給食を通じた米国風食文化の上陸も追い風だった。昭和40年代に頂点に。その後下降したが、21世紀に入ると、国際的に上昇する。BSEと鳥インフルで魚肉が注目された。
ホルモン 高級品に。
▽118 築地 引き込み線があったが、トラック輸送に。市場に出向いて、今日は何が入っているか確かめて仕入れをしていた。現物を入手するには築地に出向かねばならなかった。ところが今、どんな魚がどこでどの程度とれたか、ネット上でアップされるようになった。こうなると公設市場も巨大なスペースはいらなくなる。現物にふれないと判断できない鮮魚はよいが、スーパーで大量に売る魚はネット上のデータで十分に。築地のとりひきが衰退するのは当然。
▽163 沖縄の100歳老人の食事を調べると、主食サツマイモ、畑でとれた根菜や果物、小魚と海藻、豆腐。ほぼこれだけ。「豚肉をよく食べるが、コトコトよく煮て油を上手に取り除いて食べている」とか「昆布をたっぷりとる食文化」とか、世間に言われている沖縄の長寿食なるものがあやしげに思えてきた。
▽173 入院中の食事は、まるで正月のようにワクワクするイベント。……上向きに寝たままでごはんを食べることがどれほど大変か。食べさせるんじゃなくて、いっしょに食べること、弱者の側のスピードにあわせることが重要なんですね。サラダや果物がよく冷えているだけでも喜ぶし、寝間着をアイロンかけるだけで気持ちよくすごせる。
▽178 配食ボランティアをうけてるおばあさん「本当はいっしょに食べてほしい。おしゃべりしながら、お茶をのみながら、30分でもいいから」
▽183 90年ごろのホームレスのおっちゃん。拾った食材に手を加えて食べていた。00年ごろのブルーテントの住民は自炊派はいたって少数。アルミ缶をひろってかせいだ500円で、弁当を買う。自炊する人がホームレス社会でも減ってきている。なけなしの稼ぎを、たかが焼きそば1パックに替えていいものだろか……〓
▽195 鶴橋の市場の「いか焼き牧野」 食育道場
▽220 豪州では水不足で生産減。水不足で米国でも農業は減。巨大スプリンクラーで地下水をまいていたが、地下水位が毎年下がる。コロラド川も下流はほとんど干上がっている。………そんな状況で「バイオエタノール」で、食料分を燃料にしてしまう……
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