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ウツボはわらう<西潟正人>

■ウツボはわらう<西潟正人>世界文化社 20131102
 能登半島の「輪島・海美味工房」の女性たちに筆者が助言していると知って購入した。
 グロテスクなウツボをはじめ、とても食えそうもないような魚、外道として二束三文だった魚も仕入れて、逗子の地魚料理店「魚屋」で提供してきた。魚の生態と食べ方、味を軽妙な筆致でつづる。「魚屋」が20年間で閉店してしまったのは残念だ。
 全国の魚食文化の比較もおもしろい。たとえばベラは「あんな魚は食えん!」と私は聞いていたが、珍重する地域もある。概して関東より関西のほうがいろいろな魚を食べる文化が発展しているという。
 スズキはセイゴ・フッコ・スズキと名前がかわる出世魚だとか、沿岸のメバルは、料理屋が刺身のおいしさに気づいて高級魚になったとか、ブリやヒラマサは平アジと呼ばれるとか、昔は捨てられていたアンコウが、茨城のアンコウ料理が全国に広まって高級魚になったとか……知っていそうで知らないことが満載だった。
 うちの近所の漁港でとれるアオリイカが「イカの王様」と呼ばれているというのはちょっとうれしいかった。
 外道といわれた魚がバブルのグルメブームによって高級魚になるなど、魚の世界の下克上の話もおもしろい。
 吉田類さんの絵があるから「ああこの魚のことか」と理解することができる。
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▽5 32歳で「魚屋」を開店。
▽24 新潟の出雲崎では、メバルのような魚ならハチメと呼んでいた。沖メバルはまだしも、沿岸のメバルは高級魚になった。刺身のおいしさに気づいた料理屋が扱うようになってきたからだ。(輪島のハチメはどっち?)
▽31 ウツボ 長い胴体を筒切りにした甘露煮は評判がよかった。財布に加工するという皮も、箸で切れるほど柔らかくなり、ゼラチン質がたまらない。
▽37 カタクチイワシ 鰹漁の生き餌。塩にまぶし、水がでると塩を洗わずに一升瓶の口から落としていく。船倉に転がせて2、3週間すると、いいあんばいにこなれて・・・。
▽45 マダコは本州の三陸以南にしか生息しない。北国ではマダコよりも大型のミズダコやヤナギダコがいて、食紅に染まった「酢だこ」になる。
・・・明石などの産地のマダコは高級品の「地ダコ」で、スーパーにならぶタコのほとんどは「輸入ダコ」だ。地ダコの5倍も多く市場に流通している。
▽49 マハタ 仲間のクエと混同されることがあり、釣り人はモロコやアラとも呼ぶから市場はさらに混乱している。
▽52 沖縄の石川漁港 「石川市漁協婦人部直売所・トミとウメ」の「墨汁定食」
▽74 キュウセン 瀬戸内海でベラとはキュウセンのこと。磯場を好むササノハベラなどは磯ベラと呼ぶ。キュウセンは雌から雄へ性転換する。雌は乳白色に赤っぽい縦縞が並ぶことから赤ベラ、成長した雄は鮮やかな緑色になるから青ベラとも呼ばれる。(ベラはまずい、という先入観があったが)
▽79 ゴンズイ 強烈な毒棘。
▽86 マコガレイ 晩秋のころから腹がでかくなり、たっぷりとした卵巣(真子)が食べられることで人気がでた。
 だが、マコガレイが超高級魚になるのは(卵を抱えていない)真夏。初夏になると身は厚みを増し、刺身にしてすこぶるうまい。白身魚が不足する夏期は料理屋からの引き合いもあり、高騰する。
▽94 ハマダイ
▽107 シロカジキ くちばしは、漁具のロープを解いたり絞めたりするスパイキという道具になる。金属製のものでは滑ってしまう。
・・・「カジキマグロ」などと、さもマグロの仲間であるかのような呼び名がまかり通っている。
▽110 スズキ 関東ではセイゴーフッコースズキとかわる。フッコのところだけ、関西ではハネ、中京ではマダカと呼ぶ。……冷やすと死後硬直を早めるので、水氷に浸すのは厳禁。締めたらぬらした新聞紙に包むだけで持ち帰る。真夏でも1、2時間は大丈夫。(オトミ〓)
 ……スズキやボラなど、人間の生活圏まで進入してくる魚は排水やヘドロの臭いを身につけやすい。
▽115 ソウダガツオ ヒラとマル ヒラソウダは薄い皮の下に脂の層があり、皮をつけたまま柔らかい身をかみしめるからこそ、甘い脂が口にじわりと広がっていく。とれたその日に刺身で食うに限る。
▽122 千葉の街道筋は「アナゴ丼」などののぼり旗がにぎやか。高知あたりでは幼魚はノレソレと呼ばれる。
▽128 シイラ シイラは評価が低い。ハワイではマヒマヒ料理が人気なのに、日本でも特に関東ではダメ。長崎の五島列島あたりでは、ぶつ切りにしたシイラを海水で煮て、生干しにしてから焼いて食べる。地元では「おきび」と言い、鰹の「なまり節」のようで、かみしめるほど味がにじみ出る。
▽132 アイゴのほかブダイやベラの仲間など、関西文化圏のほうが分け隔てなく食べているように思う。
▽135 アオリイカ 食用イカのなかではもっとも美味とされ、「イカの王様」と言われてきた。芭蕉イカや水イカなどの呼び名も。
▽142 マサバ 仲間のゴマサバは長い間、外道扱いだった。近年は輸入魚のニシマサバ(大西洋サバ)もスーパーで売られることが多い。
 マサバは、秋から冬に脂がのってうまくなり、40センチ以上、800グラム以上はほしい。20センチ以下は小サバと呼ばれ、漁港では相手にされない。
 サバ漁は「棒受け漁」や「タモすくい漁」が主だが、近年一本釣りで、「関サバ」「松輪サバ」などブランド化も。
▽145 平アジとは、ブリやヒラマサなど丸型アジに対しての呼び名で高級魚が多い。(ブリとアジが同じ種類とは知らなかった〓)
▽152 カワハギ 砂地が広がるなかに、ぽつんと独立した根(岩場)があり、そんな周囲に群れている。ウマヅラハギとの混同を嫌って「本カワハギ」と呼ばれる。肝が充実する冬場が旬。
▽156 キツネダイ ベラの仲間なのに。1時間足らずなら魚は冷やさない。死後硬直が早まって食べごろを逸してしまう。マグロやブリなどの大魚は、硬直から解けて、さらに寝かせたころを食べごろとするが、小魚は硬直前に食べたほうが旨い。
▽180 ボラ スバシリーイナッコーイナーボラートドと出世する。トドは「とどのつまり」の語源で、これ以上大きくならない1メートルを超す大ボラを指す。
 相模湾にそそぐ大きな川のほとりには、ボラ納屋(夏の風物詩)とよばれる料理屋があったと聞く。昭和30年代までは続いていたようだ。・・・関東ではとくにボラを食べる習慣はほとんどなくなった。「ボラ=臭い」の図式が定着して。旨いボラに当たったときの刺身は、マダイの比ではない。
 成熟した卵巣はからすみとなる。
▽185 タカサゴ 沖縄ではグルクン。アオブタイ(イラブチィ)、ハタ(ミーバイ)
▽192 ブダイ 三浦半島では下魚扱い。伊豆半島では大喜び。西へ行くほど当たり前になる魚だが、どうも東京周辺だけが嫌っている。
 沖縄のアオブダイの刺身をわさび醤油で食べたがうまくない。ところが、コーレグースゥに醤油をたらしたのにつけたら、隠れていた甘みが口に広がった。
▽204 ホウボウ 仲間で知られるのはカナガシラとカナド。ホウボウほど大きくならず、小さければ下魚扱い。ホウボウが高級魚なのにかわいそう。30センチを超えるころから超高級魚に仲間入り。(シシッポはカナガシラ?)
▽220 アンコウは昔は捨てられていたが、いまは高い。本場茨城のアンコウ料理が、全国に広まってきたからだ。北茨城の平潟仕込みの「どぶ汁」 たたいた肝を鍋に入れて、どろどろになるまで炒め、湯通しした具材を入れる。全体に肝が絡んだころ、熱湯を足し、味噌をときいれてできあがり。野菜はイチョウ型に切った大根だけ。
▽224 コブダイ ベラ科で雌から雄に性転換。雄になって成熟すると、額がおおきなこぶになって盛り上がる。
・・・大きな魚の刺身は、ぶ厚く切るほうがうまい。刺身がわずかに醤油に触れると、脂の膜がさっと広がるのがわかる。
▽226 シロアマダイ アマダイは京都ではグジと呼ぶ。アカとキとシロの3種類があり、数は圧倒的にアカアマダイが多く、キアマダイも同じ魚として扱われる。シロアマダイだけは別格で京都では白グジと呼んで珍重する。
▽234 マトウダイ 相模湾では下魚扱いだったが、海岸線に増えたフレンチやイタリアンのレストランで扱うようになって高値がつきはじめた。……たたいた肝を刺身にあえると、味は一変する。・・・「飽食」「グルメ」で、みなが珍しい食べ物に興味をもっていた。あの時代に市民権を得た魚は数多い。
▽238 スルメイカ 塩からづくりは肝の善し悪しがすべてを決める。大きく太っていても水っぽかったり、赤黒く萎縮していることがある。塩からに使う肝は、少し日焼けしたような小麦色をして、たっぷりとして張りがあること。
 〓宇出津漁港の裏手で、先祖代々スルメイカでイシリをつくっている北畠正秀さん。木の大樽に残った「かす」は、大根などをつけ込む。野菜の漬け物は「べんこうこ」と呼ばれ、炭火で焼いて食べる。
▽242 サワラ 関西では70センチぐらいまでをヤナギ、30~40センチをサガシと呼ぶ。西京漬けが浸透して、関東でも人気がでてきた。刺身のうまさが認められてきた影響が大きい。
 ……卵巣は、塩と酒に3日ほどつけ込む。塩焼きも珍味だが、カラスミの代用にすることもできる。
▽247 ブリは、成長具合で味わいや価値に差がありすぎて、同じ呼び名では市場が混乱してしまう。だから呼び名がかわる。モジャコーワカシーイナダーワラサーブリ。関西ではワラサをハマチと呼ぶ。北陸ではイナダのサイズをフクラギと呼ぶ。1メートルになって重さ10キロをこえるとブリだったが、最近ではワラサのサイズでもブリでまかり通っている。
▽259 ウマヅラハギ カワハギの肝臓は熱に溶けず、ウマヅラハギのは溶けてしまう。味もカワハギが濃厚なバターなら、ウマヅラはふわふわして頼りない。カワハギは生の肝をたたいて刺身にあえるが、ウマヅラは煮たり焼いたりがいい。熱に溶けるほうがうまみも全体に溶けて広がる。
ミノカサゴ アカヤガラ

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