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もうレシピ本はいらない<稲垣えみ子>

■マガジンハウス 20190818
 昔は美食の限りを尽くしていた元新聞記者が、50歳で会社をやめて1年後に書いた本。冷蔵庫も電子レンジもない。コンロは一口だけ、という集合住宅で、干した野菜と糠漬けを駆使して1食200円で暮らしている。作り置きもせず10分間で食事の準備をしてしまうという。そのノウハウを開陳している。
 この本はずいぶん前から本棚にあった。「おもしろい本やけど、あんたにはまだ無理や。理解するには最低限の料理の経験が必要や」とRに言われていた。
 そろそろ最低限の経験はできたかなと思って開いた。
 ミニマムで日々の食事を楽しむという食の哲学を感じる。たとえて言えば福岡正信さんの自然農法のようなものか。そして乾燥野菜や糠漬けなどの説明は大いに参考になる。
 2年前の僕では「塩を適当に」「適量のみそを溶かす」と書かれても、「適量」がわからず、小匙1杯の塩をかけて口がひん曲がる料理をつくっていたろう。ちなみに「酢飯にする」と書かれても、今でも酢の加減がわからない。
 1年間「基本のき」を教えてもらってきたから、今はこの本が役に立つのだ。
 塩・みそ・しょうゆ・酢があればよい。野菜で十分甘みを出せるから砂糖はいらない。油はオリーブオイルとごま油だけ。ただし、油と酢(ポン酢は手作り)はよいものを使った方がよい……。どれも納得しながら読んだ。でも冷たいビールがほしいから冷蔵庫は手放せないなぁ。

 退職するとき、彼女ほど能力のある人でも「想像するだけでも恐ろし」かったという。でも最後は「エイヤッ」と勢いで辞めてしまった。でもその後、「まったくどうってことなかったのである」と自由な生活をおう歌しているしているらしい。そんな自由を楽しめるのも「料理」があったからだと結んでいる。
 僕には自由を担保するほどの料理の腕はない。でも料理によって、無理矢理にでも生かされているとは感じる。料理を教えてもらっていなければ、今ごろ退職どころか入院していたかもしれない。

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▽32 時代劇のごはん ご飯とぬか漬け、みそ汁、干物をつけても10分。
▽41 料理好きの母、認知症になって、レシピ通りに料理ができなくなった。
 料理って、生きるために必要なこと。誰でもそれなりにこなせるものだったはず。それが、健康で体力も才能もある元気な人だけができることになってしまったのだとしたら…老いてできなくなったときに残るのはみじめな敗北感。
▽59 米を炊くのは通常は3日に1度、真夏は1,2日に1度。「おひつ」で保存するから夏は短くなる。水に浸けて発芽させておいた玄米を鍋に移し、少量の塩を入れて、コンロの火を付けて、沸騰したらふたを開けて水を飛ばし、水位が米の表面ぎりぎりになったら火を弱めてふたを閉じる。20分ほどそのまま弱火で加熱。最後に3秒だけおまじないのように火を強くする。
 炊きたてのごはんが主役。おかずはどんどん単純に。厚揚げかがんもどきがあれば十分。ジューッと焼いている間に大根かショウガをすりおろす。「干し(しなびた)大根おろし」がおいしい。大根はベランダのざるの上に放置しておく。〓〓
▽90 「1分みそ汁」
 ベランダの干し野菜、干しエノキ〓、干しタマネギ、干しキャベツ。出しを入れなくても十分おいしい。…干し野菜は「半調理済み」。うまみも濃い。
 野菜は「ラップに包んで冷蔵庫」ではなく、日の当たるところにおいておくだけ。
 干し大根、干しタマネギ、干し長ネギ、干しキャベツ、干し白菜 みそ汁に入れるサイズにカットしてから干す。
 ワカメと麩 鰹節
▽ごちそうみそ汁
 昆布。サトイモ、サツマイモ、カボチャ、ニンジン、大根、ゴボウ。油揚げを忘れないように。
▽夏の旬のぬか漬け
 キュウリ・ピーマン・ナス
 ぬか漬け。ミニトマトでも。上等なオリーブオイルを1滴たらす。黒コショウやチーズを載せても。発酵食品同士は何を組み合わせても合う。
 ぬか漬けの炒め物。厚揚げとぬか漬けの炒め物。
 サラダ サラダ野菜をちぎって、千切りにしたぬか漬けを投入し、オイルとポン酢をかけるだけ。
 細かく切って納豆と混ぜる。
 焼きそばやチャーハンの具にも。
▽ナスとトマトはみそ汁に
 ナスとピーマン、厚揚げを入れて味噌炒め トマトとナスと厚揚げの味噌炒めも
▽ピーマン 丸ごとフライパンでじっくり焼き、しょうゆかポン酢をかける。種は取らない。
▽ナス 縦半分に切って、切れ目にみそをぬって、フライパンに並べてふたをして焼く。
 ナスそうめん めんつゆ味の汁で煮て、そうめんにかけて食べる。
▽キュウリ 塩でもみ、水気を絞り、酢とラー油や辛い味噌やらを混ぜて、しばらく置く。
 味噌、あるいは酢じょうゆ、塩コショウなどで炒めても。油揚げと合わせるとよい。
▽冬の大根・ネギ・白菜
大根の葉はみそ汁の具にも。豆腐や厚揚げと炒めてしょうゆ味で。塩もみするだけでも。
大根本体 下半分を千切りにして切り干し大根に。戻して酢をかければサラダのように食べられる。油揚げや高野豆腐としょうゆ味で煮付ける。
上半分はそのまま外に置いておく。「干し大根」に。これを大きく切って煮付けたら大根煮。ぶりのアラやベーコンといっしょでも。
(〓しょうゆなどの分量がわからん。俺には役立たない。)
干し大根おろしも。
ごま油をお玉に入れて、煙が出るくらい加熱して、ポン酢をかけた大根おろしの上からジュー。それを玄米ごはんの上に。
▽白菜 キャベツのように千切りに。ポン酢やすりごまをかけて食べる。塩昆布があれば、混ぜて軽くもみ、オリーブオイルをかけて食べる。
白菜漬け。半分か1/4に手で割って外に数日放置した後、ざくざく切って塩でもみ、赤トウガラシ2本放り込み、漬物容器に入れて重しを載せ、その上から酢と水を半分ずつまぜたもの1カップほど投入して2日。水が白菜の表面まで上がり、白い幕のような物が張ったら完成。この白菜漬けと豚バラを炒めてもおいしい。
▽ネギ 小口切りにして、少量の粉(小麦粉か米粉かそば粉か…)をまぶして水をちょっと足して全体がくっつく感じになったら、フライパンで焼く。
 大きくぶつ切りにしてごま油でじっくり焼くだけでもおいしい。塩でもしょうゆでもポン酢でも、味噌でも。バルサミコ酢とショウガのすり下ろしだとおしゃれに。
▽ニンジン ぬか漬け。千切りにしてオリーブオイルをかけたら「キャロットラペ」。
 千切りニンジンをかさが半分になるくらいまで弱火で炒め、最後に味噌を入れてからめる〓
▽タマネギ
 薄く切ってオリーブ油でじっくり炒めて水を足せばオニオンスープ。甘いみそを入れるとグラタンスープっぽく。
 タマネギをごま油でしんなりするまで炒めて味噌で味付け。青じそをちぎって入れる。
▽138 野草
 ヨモギてんぷら、タンポポは佃煮かサラダ、カラスノエンドウはおひたしにしてゴマをかける。
▽野菜の皮
 ゴボウも人参もレンコンも大根も皮はむかない。
 サトイモの皮。素揚げにして塩をかけて。
 ソラマメの皮。こんがり焼くとジャンボピーマンのように甘くてずるり。
 カキやリンゴの皮。皮だけを低温のオーブンでじっくり焼いてチップスに。
 柑橘の皮。細かく切って天日で乾かし、干しぶどうなどとおやつに。
 ゴーヤはワタと種といっしょにテンプラに。
 カボチャの種のなかはおいしいナッツ。
■メニュー
▽おじや 干し野菜と油揚げを入れて糊状になるまで煮る
▽葉つき人参のテンプラ。衣にそば粉を使えばテンプラはサクサク。
▽厚揚げとトマトとニラのミソ炒め。厚揚げはスパイスを入れるとエキゾチックな味に。
▽サラダ飲み 残り野菜やぬか漬けを切って、上からオイルとポン酢をかけて混ぜるだけ。焼いた油揚げやゆで肉を入れればボリュームアップ。
▽冷や汁 みそを水で溶かすだけ。ここに生の野菜と豆腐を入れれば完成。青ジソが定番だが、バジルとミニトマトとオリーブ油を入れればイタリア風。
▽厚揚げ焼き ダッチオーブンでミニトマトといっしょに焼いている間に、大根をおろし、ぬか漬けを切る。(どの程度焼けばよいかわからない)
▽筑前煮 野菜(根栽)を事前に干しておけば楽。油で軽く炒め、しょうゆやらみそやら酒やらを入れて蓋をしてしばらく煮れば完成。
▽キャベツオイル蒸し 野菜を刻んで、ごま油かオリーブ油と塩を加え、ふたをしてしばし加熱するだけ。朝に仕込んで蓋をしたままおいておけば、夕方には食べ頃に。

■ぬか漬け
▽151 豆腐もぬか床に入れれば冷蔵庫不要。ごま油とはさみで切ったネギをのせれば…
▽163 ぬか床は冷蔵庫に入れない方がよい。
 何日も放置すると、病んだ香りに。毎日混ぜて、機嫌を取るため昆布の切れ端やタカノツメ、ミカンや柿の皮を乾燥させたものなどをあげると元気になってきます。
▽170 コンニャク糠漬け。オリーブオイルやごま油も合う。
 厚揚げの糠漬け。こびりついた糠ごと、ごま油を引いたフライパンで焼く。大根おろしを添えて。
 オクラ、アスパラ、枝豆はさっとゆでてから。
 ジャガイモはかためにゆでてから。チーズの味に。スライスしてお好み焼きの具にしても。
 ゴボウ、サトイモ、ビーツ 固めにゆでてから。
▽178 厚揚げと炒める。お好み焼きや焼きそばの具。
■調味料
▽塩・しょうゆ・味噌・酢 「まず塩味。困ったら酢」
 炒め物でも煮物でも、味が決まらないと思ったら、酢を入れてみる。
「ポン酢」はよいものを。
 空き瓶に柑橘の果汁を半分入れて、同量のしょうゆを足し、出汁昆布の破片を入れておくだけ。
▽甘い素材
 タマネギ・長ネギ じっくり炒めると驚くほど甘くなる。じっくり炒めてしょうゆで味付けすると十分「あまじょっぱく」なる。タマネギをじっくり炒めてしょうゆで味付けした煮汁でがんもを煮る。
 切り干し大根。甘塩っぱい煮物を作りたいときは水でもどした切り干し大根としょうゆで味付けすればバッチリ。もどした水はそのまま使うこと。
▽「油」でぜいたく オリーブ油とごま油だけ。
▽カツオ節・塩昆布・すりゴマ=お助け三兄弟
 塩昆布 サラダや塩もみなど、生野菜の料理をするとき、いっしょにもみ込んだり、かけたりするとまちがいなくおいしくなる。
 すりごま どんな料理でも「けっこうおいしい」に。
■調理道具
▽1個しかない火元 江戸時代の台所そのもの。
▽キッチンばさみ まな板不要。ネギの小口切り、糠漬けを切る、油揚げをみそ汁に切って入れる、筑前煮のゴボウやニンジンも…
■料理の意味
▽自分の食べ物を自分で作る。それは自由への扉だ。その自由を手放してはいけない。
 料理さえできたら…わずかなお金さえあれば自分を「食わせていく」ことができて…
 親や連れ合いに捨てられようと、先立たれようと、天涯孤独の身になろうと、「まあなんとかなるさ」と前を向いて生きていけるのではないだろうか。あなたはその力を手放してはいけないのだ。(前には向けないが、否応なく生かされる〓)
▽超時短クッキング 使用する野菜を、カットして干しておくことがポイント。炒め物など瞬時に完成。厚揚げと干しキャベツと味噌と酒を入れて混ぜるだけ。
 カボチャ、長いもなどをスライスして干しておく。それをフライパンで焼いて、塩やしょうゆやミソで味付けする
 煮物派、鍋に水と材料を入れて沸騰させたあと、タオルや布団で包んでおく。
▽266 私が会社を辞めて自由の身になることができたのは、料理ができたからだ。…食べることは人生の土台だ。ここがしっかりしていたら、どんなつらいことがあっても、ひとりぽっちになっても、だいたいは大丈夫なのである。
 料理は自由への扉だ。自分で自分の人生を歩きたければ、誰もが料理をするべきなのである。(自由、というより、生きる力)

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