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暮らしの論理 生活創造への道<山本松代>

■暮らしの論理 生活創造への道<山本松代>ドメス出版 20170416
 筆者は、戦後直後の生活改善改善運動の、農水省の最初の担当者だった。「生産」一辺倒の主流派に対抗して、農村女性たちの「生活」の改善に取り組んだ。
 生活改善運動はアメリカに生まれた。インスタント食品や最新の台所などによる家事からの解放が目標とされ、台所用品などを売る民間企業の戦略と合致するようになっていった。
 戦後に導入された日本ではそれと異なる形で農村に根づいた。
 家でも集落でも孤立して虐げられることが多かった農家の嫁を組織し、腰を痛めない改良かまど、栄養価の高い献立、衛生対策などが進められ、封建的な嫁姑関係の改善もとりくんだ。
 筆者は、この本を1975年に執筆している。住宅が充実し家庭が家事の役割を担って協力しあって暮らす欧米と比較することで、モノばかり増えたのに、なぜか文化的に貧しい日本の状況を浮き彫りにする。カネだけではない豊かさとは何か、幸せな生活にはどんな条件が必要なのか、と突き詰めていく。
 戦後、日本の家庭は洋風と和風の家具と道具がごっちゃになり、狭いスペースにモノばかりが増えて、文化を営む余裕は、時間だけでなく空間的にもなかった。
 主流の農村開発政策では、収入が増えて生計が増えれば幸せになれると考えるが、生活改善では生活と生計を区別したうえで、カネがなくてもできることを検討していく。
 暮らしのすべてを診断・分析し、課題を具体的にして、それを克服するための計画をつくりあげる。カネがなくてもよりよい生活に結びつけることを模索する。生活の目標をしっかり定めることで、「先立つものはカネ」という迷信から抜け出すことができるのだという。
 こうした取り組みは、個別の家庭がばらばらに取り組むものではなく、人とつながることが不可欠であり、他人とつながることじたいのなかに幸せがあるのだということも指摘している。
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▽3 人間の暮らしとは、食べて寝ることくらいのことと考え、その中で人間という最も大切なものが生産され、人希求が形成されるという重大なことがおこなわれていることを見落としてきた。…蔬菜の生産に対してさえ、土壌成分や施肥やかん水などおおくのことが研究されているのに、人間の生産と成長の場などに対しては,蔬菜ほどにも配慮されずにきてしまっている。
▽21 ドイツの農家の「住みこみ見習い」。農業や家事を習得するために2年か3年の契約で若い人たちが他の家に住み込む。(〓東北にもあると内山の本に書いてあった)
▽46 利己的に狭く孤立した「個」ではなく、社会に根をおろした「個」であるとき、個人も家庭も土台強固な独立したものとなるであろう。…経済優先に対する反動みたいなマイホームでなく、他の人々の幸せを願いつつ、そのことのために、いつでも手をさしのべることのできるような、豊かな広がりを持ちつつ独自なマイホームを築くことが、一つの生活哲学であったら、と思う。
▽48 われわれは、金力万能主義と訣別して、改めて「○○○をするために」という根本の目的に帰らなければならない。…金は先立つといっても、この第一義的目的に対しては、第二義的目的である。
 〓第一義的目的を確認することが、まず最初になすべき重大なことである。
▽57 真によい豊かな暮らしは、決して一夜で、無思想、無哲学ではえられない。…真に豊かな暮らしは、金ができるのを待ってから、というものでもないことを知っている。
▽62 貧しさを感じる場合 ・自分のことしか考えないで、たとえ他人の協力で何かができても、1人でやったように得意になっている場合。…・新しいことを新しい目で見ようとしない場合。いつも一つの固定した概念(枠内)で見てしまうこと。そして自分のものを見る目は常に正しいと思っている。・金持ちなのに、決して人のために金を出そうとしないこと…
▽75 日本人観光客 ホテルのロビーなどを我がもの顔に占領して、大きな声を出してさわいだり、ソファーに寝そべったリマでしている。日本人観光客用の特別な土産物店に乗り付け…(今の中国人観光客以上にすさまじかった)
▽92 生活の質を見るということは、暮らしを組み立てている物資を見るのではなく、
暮らしがどう機能しているかを主に見るということ。
▽105 戦中を知っておられるかたがたは、終戦後まもなく、ラジオから軍歌ばかりであったのにかわって、美しいさまざまなメロディーが流れるようになったとき、それがどんな美しく楽しく、座れるような思いであったことを思い出されるであろう。
▽115 生活実践目標 …価値ある必需のことの実現のために生活実践目標を練り直して、暮らしの中に、一本の目標として組みこむこと。
▽121 自分で自分の健康管理が、成人になってもできないでいる、などというのは一種の欠陥大人である。人間生きるための基本は、成人するまでには、男女ともに身につけていることを、生活尊重の第一歩としたいものである。
▽128 夏冬にかかわらず「肌着は毎日洗濯する」ことが、保健上の原則である。
…家庭でも、各人が2枚ずつシーツを上下に使って寝ることが保健上必要であると…
…栄養素を組み合わせて調理したいと考えると、台所は、それができる広さと設備を十分に備えているかどうかが問題になる。
▽141 余暇、コーヒーブレーク…こういう認識と生活技術的処理を欠いて、たんに欧米にならって、週休2日の制度をとりいれ、そのためにはレジャー産業を増やさなければ、と考えるような今日の行き方には、疑問と危惧を感じる。
▽151 子どもは子どもなりに、できる範囲の仕事をし、…母親は家族生活のマネジャーであって、マネジャー兼助手兼小使い兼家政婦であってはならない。
▽163 暮らしの入れものである住まいが貧しいと、ここで時間をかけて食事を楽しむというようなことも不可能であろう。日本人の食事をそそくさとすることと、この窮屈な住まいとは、ニワトリと卵の悪循環の関係にあると思う。さらにそのような習慣は、自分の食事ばかりでなく、他人の食事時間を無視して、人の家を食事時に訪問したり、…という非文化的不作法にも通じている。
…まず住まいの問題解決。この問題を解決しないでは、他の問題も解決しないのではないか。
▽164 戦後ただちに住民の住宅復興を第一として着手した西ドイツには、今もって新幹線のような汽車はないし…金の額よりは金の使い方に問題がありそうに思えてくる。
▽171 「文化人」とは「一つの知識や技術に優れているだけでなく、さらに他の広い知識を持ち、それが生活のなかに生かされて、暮らしのなかの生活文化の堆肥となり、華となっている」と解釈したい。
▽181 中国人や欧米人の家の台所をみると、食器棚のスペースが意外に狭いことと、食器類が整然とおさまっていることに驚く。…一種類の生活行為に二重にも三重にもお金をかけているために、一つのよりよい物品を得る金が不足することになっている。
 二重生活から来るさまざまなマイナスをなくして、新しい日本のものを,衣食住すべての面で育てるには、おのおのの暮らしのなかで、責任を持たなければならないと思う。
▽186 わが暮らしはいかにあるべきか、考える。意識する。
 長い年月に育まれたものを受け継ぎ、生かしながら、わが生活を成長発展させ、時代が受け継ぎたくなるようなものをつくりだしてゆくことが、真にわが暮らしを創作してゆくことである。…暮らしのすべての面を、創作してゆくところに、真の暮らしの楽しみや喜びがある。そこに、日本独自の新しい生活文化の芽が生まれ育つ。
▽202 ボディ・ビルで強健な身体づくりをし、モラル・ビルで精神面を広く健全に育て、さらにもう一つ大事なのが、ものを論理的に考える習慣、筋を通して計画的に考える習慣というようなものである。科学性・計画性。
▽208 昔の舅や姑の指導は、一種の徒弟制度のようなものでもあった。いまは、そうした指導がなにもなく、無免許で車を運転するような無謀な親があるようになってしまった。
▽213 ドイツの友人。社長夫人は、60人のお客のしたくを、ほとんど1人でやってのけた。…そのマネジャーぶりのあざやかさ。
▽219 日本で民主的にことを運べるリーダーが大変少ないのは,家庭でチームワークのできる人間が育っていないことに原因していると思う。
▽223 暮らしの問題は、個人・家庭・社会のありようのすべてにからみあったものであることを確認したい。
▽234 社会と個人・家庭の生活が結びつき、お互いがお互いを分身として感じることができるようになったとき、ボランティア活動もその1コマとして、自然にその中に溶け込むようになったとき,われわれははじめて連帯の意識を身をもって知ることができる。(主体の形成〓)
▽237 わが暮らしのすべてを診断する。そのことは新しい暮らしの創造、即ち生活革新にスタートすることになろう。(地区診断という発想も〓)
▽239 とかく部分的に、あるいは抽象的にしか見られていなかった暮らしそのものを、各部分を有機的につなげて、全体的に、しかも具体的に診断してみることはときに必要なことではないか。
 そうすることで…生活に不備な点があれば補い、不足するものを新しく取り入れ、ということになれば、おのずと今までとはちがった、生活革新の道が開かれ、よりよい生活の創造がはじまるのではないか。
▽240 経済成長のみの行き過ぎが課題の原因になっているのだから、目的のようになってしまっている経済成長を手段であるというその本来の地位に引き戻し、第一目的であるはずのにんげんの生活をその本来の「目的である」 という地位に据え直して、その目的である生活とはどういうものであるかを具体的にすることである。…人間生活の必需を、すべての要素をことごとく並べだし、それぞれの要素の基底をどこに置くかを決定することである。
…一人ひとりにとって「何をどのくらい、どうやって食べるか」という知識・技術を持つことが、重要な必需のこととなり…
…家族がそろう時間を持つ工夫をすることや、「くつろぎの時や空間」も必需のこととなってくる。
▽247 新しい生活創造の実践者となって、諸国の隣人を迎え、他の国々に出て行くことになれば、われわれ日本人は、きらわれるどころか、頼りにされることもでき、世界中の人びとにとって、よき隣人になることができる。
 たとえば〓家には1人最低3畳の寝るスペースが必要である。

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