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サンジャックへの道

 200704

 巡礼をしなければ遺産を相続させない、という遺言を母から残された男2人と女1人の初老の兄弟が、フランスからスペインにいたる巡礼ツアーにいやいやながら参加する。
 兄は会社長で心臓病に持病を抱えている。真ん中の姉はいつも苛立っている高校の先生。下の弟はアル中で妻に捨てられた。
 兄弟喧嘩をくりかえし、仕事の電話をひきずり、バーに入り浸り……兄弟は、9人の一行の足をひっぱりつづける。
 一行のなかには、アラブ出身の高校生2人もいる。うち1人は読み書きできず、メッカへの巡礼と信じこみ、巡礼をすれば文字を読めるようになると思っている。
 雄大なピレネーの高原をこえ、石畳と白壁の中世風の街をとおりすぎ……川や湖、森……1場面1場面が美しい。フランス映画らしい風刺と皮肉もおもしろい。皮肉の対象は、一般人だけではなく神父や修道女にもおよぶ。
 いやいやながら歩きつづけるうちに、長兄の会社長の持病はなおり、次姉の高校教師はアラブ出身の高校生に読み書きを教えることで柔和な表情になっていく。ずっと見捨てて放っておいたアル中の末弟を手助けし、酒をのまないようにはじめてたしなめる。
 パウロ・コエーリョの「星の巡礼」のような神秘体験があるわけではない。宗教色はほとんどなく、トレッキング気分で歩いているところにむしろ共感できる。
 巡礼したからといって悟りを開けるわけではないことは、自分が四国を歩いているからわかる。悟りを開けるわけではないけど、大地と空のあいだをとぼとぼと歩くことで、えもいわれぬ解放感と「どーでもいいわ」という楽な気持ちにはなれる。
 たぶん巡礼は、ふだんと異なる次元の世界から「現実」を見つめ直すということに意味があるのだろう。

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