あわれ、おやぢ会

土曜日にうっかり金沢行きのサンダーバードに乗ると必ず後悔する。
芦原・加賀・和倉など温泉街に停車するので、グループ客がうるさいからだ。
「大阪発」だから、とりわけうるさいし暑苦しい。(自分もそうだけど)
けっこう混んでいたので、仕方なくおやぢ4人組の通路を隔てた反対側に座った。
おやぢ達は車内販売がくるや、
「おい、おねえちゃん!」とガラ悪く呼び止める。
すると意外や、
「おれ、コーヒー」
「ワシも」
と、ビールを頼まない。晩ご飯まで我慢しておいしく飲もうという魂胆ミエミエだ。
集中して本を読もう!
ゴルフのスコアの話をしようが人事の話をしようが、ムシ・無視!!だ。
だけど、あまりにうるさいのでイヤでも耳に入ってくる。
子どもの方がよっぽどおとなしくておりこうさんだ。
「オレの吉永小百合が…」
と、どうやら会社のお気に入りの女性のことらしい。
「あれが吉永小百合なら、総務のヨーコちゃんは松坂慶子や!」
マシンガンがあったらぶっ放していただろう。
「経理に音羽信子おるで」
「あ〜、山田サンか」
「音羽信子いうたら、『裸の島』やな」
「あれは名画や!」
ミョーなところでオチが着く。
無視、無視。集中、集中。すると今度はヒソヒソ声に変わる。
「でもな、定年になって定期券なくなったやろ? そしたら600円の交通費払ってまで、飲みに出んようになってな。
前は会社帰りにちょっと寄っては、おねえちゃんの胸か腹かわからんけど、ささやかに触って…な。ほんまささやかなもんやで」
ささやか、っちゅーか、交通費ぐらいでセコい!と思ったのはワタシだけ?
オヤヂ達一同、深く頷いている。早よ敬老パスもろうときっ!!
そして、一番おとなしそうなオヤヂがきゅうに何を言い出すかと思いきや、
「人間ドック受けるなら、絶対胃カメラやで!!バリウムはグルグルカラダ回されてしんどいだけや!!胃カメラなら若い看護婦さんが『大丈夫ですか〜』って、優しく背中さすってくれるやろ?あのトントンがえーねん!」
「若いかどうかわからんで」というツッコミにも、
「どーせ顔なんか見えへん!」とキッパリ。
ムカつくオヤヂ達ではあったが、なにやら急に哀れに思えてきたのだった。

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