映画「春との旅」

春との旅

もう上映が終わったので書くぞ!
仲代達也が主演、大滝秀次、菅井きん、淡路千景、美保純、榎本明、
田中裕子、香川照之、戸田菜穂ら、そうそうたるメンバー。
北海道増毛の貧しい漁師が、老いて病を得、孫娘「春」と、居候先を探しに兄弟を訪ね旅に出る、という話。
公式ホームページでも仲代自ら、「これまでの脚本のなかで5本の指に入る」と絶賛。
出演者といい、これは見ておかねば!とわざわざ隣町まで出かけた。

漁師役の仲代が、トタン小屋から足を引きずって登場。
あれれ!?「貧しい漁師」のワリに、素敵なウールのロングコートの出で立ち。
コートの下はお仕立て上がりのようなジャストサイズのツイードのスーツ。
びっこを引いて手足が不自由ってコトはわかるけど、背筋はピンと伸びてかくしゃくとしている。
おまけに孫娘が手渡す杖も放り投げてしまう始末。
仲代さん、どう見ても「漁師」っちゅーか、「リア王」っす。

しかも移動の電車で孫娘が読んでいるのは「岩波文庫」。
そんなハタチ、イマドキいないんでねーの?(北海道弁で)
どさん子女子なら「NANA」っしょー?(古い?)
杖無しのまま、駅から徒歩で何時間もかけて山道や階段を上ったり降りたり。
体が悪いのに、無駄な努力しすぎ!段取り悪すぎ!!
「この足じゃ一人で生きられねぇ。施設は100人待ちだっていうし、ホームはカネがかかるしよぉ」
…なんてありふれた理由で、兄弟を訪ね歩く仲代さんだけど、役場には相談したのっ!?
だいいちそれだけ歩けたら「要介護」どころか、きょうび「要支援」も出ませんて。
てか、十分「自立」!!
身体も口もあれだけお達者なら、兄弟だって引き取る気にはなるまい。
前宣伝に、「映画だからできるファンタジー」みたいなことが書いてたけど、
「ファンタジー」も「リアリティ」のツメがあってこそ。
会場を占めていた多くの団塊世代の人たち(おそらく介護が目の前の問題になっていて、期待して映画を見に来た)は一様にポカンとしていた。

廃校で給食センターを解雇された孫娘、春。
脳梗塞をわずらった祖父に食後、薬を飲ませる様子もなく、食事はコンビニ弁当やうどんやそばなどの塩分の高い麺類で済ます。
食に携わる仕事をしていたと思えない配慮のなさ。

どの兄弟にも冷たく追い返された後、娘婿(香川照之)の後妻(戸田菜穂)に
「初めてあった気がしません。お父さんって呼ばせてください。私、母子家庭で育ったんで、父親を知らないんです。よかったら一緒に暮らしてください」。
仲代さん、じゃない、じいさんは
「いや、お気持ちだけで十分です」

ベタなセリフはこのシーンに限らず。
これが仲代いわく「5本の指」に入る脚本とは!

で、結局、家族と暮らす最後の可能性も自分から捨てた。

終いに孫娘は、じいさんとの旅を通して、なにを血迷ったのか、
「私、東京へ行くのやめる。おじいさんと一緒に住む! いつか好きな人ができても、おじいさんと暮らしてくれる人でなきゃイヤ」

気はきかないわ、やたらガニ股歩きだわ、しかも失業中の身の小娘から、結婚願望を聞かされても、唐突すぎてこちらは戸惑うばかり。
彼氏の前に、まずその歩き方をやめなさい、って!いやその前に再就職先だ。
 じーさんはじーさんで、金銭管理からホテルの予約まで、なにからなにまで孫任せ。
 終始、杖代わりの道具同然に扱われ、言い争いばかりで心の交流やお互いの進歩もたいしてないのに、なんでこのじいさんと再び暮らしたいとは思うようになったのか。

 こんなふうに、自己肯定の低い者同士が自覚のないまま惰性で生活を共にする場合、最初は安定しても、そのうち上下関係ができ、力による支配や暴力が生じてしまうんじゃないか…なんて余計なことも心配になってくる。

 しかも訪ねた兄姉弟、誰も「介護保険制度」を口にしなかった。
 突然前触れもなく「居候させろ!」とやってくるKY爺&孫娘こそ、地域や家族という最低限のセーフティネットを大切にし、さらに公的な支援とつながっていなくてはいけないのでは…。

 土地や家族と切り離され、というか、自ら絶っていき、祖父と孫の濃密な関係をファンタジーとして描いているけど、監督の意図とは別に、それがいかに危ういことかを示している点が、皮肉にもこの映画の唯一の意義だろう。

 そもそも介護役を女に求めるところ、自らは努力もせず「一緒に住もう」と言ってもらえるストーリーが、男(監督)の願望が現れのように思え、腹立たしく情けない。
「おばあさんと無職の男」だったら、まったく違う深みのある話が生まれたかもしれない。

 簡単に離れたり戻ったり、土地や家族との絶ちがたいしがらみを描けていないのも、監督はきっと都会の人なんだろう。
そういえば登場人物達の訛りもまったく一貫性がなかった。

 結局2人寄り添って増毛に帰る電車で眠るように死んじゃうじいさん。
 さんざん歩き回って走り回って好きなもん食って…。
 もしかして監督は「ピンピンコロリ」推進論者か!?

 名優の無駄遣い。確かに、「5本の指にはいる」映画でした。

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