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夏の隠岐自転車紀行3 舟小屋群と苦行の海岸

「聖地」には30分ほど滞在して引き返し、旧都万村の中心部に向かう。

海沿いには舟小屋がずらりと並んでいる。丹後半島の伊根にはもっと大きな舟小屋つきの住宅があり、佐多岬半島にも石積みの壁に囲まれた舟小屋があったが、ここは材木やトタンでできたちゃちなつくりだ。だがそれがこれだけ並ぶと壮観だ。

もちろん小屋には漁船や漁具、農作物や道具などが保管してありすべて現役だ。いったいどんな歴史的経緯でこういう建物ができ、維持されてきたのか。

これだけの集合住宅的な小屋を残すコミュニティってどんな特徴があるのだろう……と考えをめぐらせる。

舟小屋群のわきの神社は天満宮と金比羅宮を兼ねている。

9時。都万の中心部は平地が開けていて気持ちよい。
「五箇まで21キロ」の看板。レイザルはここまでで引き返すつもりだった。「どないする? あと20キロやったら、2時間もあれば着くやろ。12時までには五箇村に着くんちゃうか?」と言うと、「ま、行くか」。

2,3分は平地を走るが、すぐに急坂にとりつく。入道雲がどんどん大きくなり、太陽はじりじりと照りつける。33,4度あるのではなかろうか。隠岐ではこんな暑いことはめったにないそうだ。
峠の道は途中で「崩落のため迂回」となっている。道路工事のおっさんが言う。
「隠岐は上り下りが多いでしょ。競輪選手の練習にはぴったりですよ。わたしゃ競輪が好きだから、なんとか誘致できないかって思うんですよ。ここで毎日走ればオリンピックだって出られますよ」
「ぜんぜん励ましになってへん。私はふつうに走れればええのに」
水鳥公園方面に向かう迂回路はさらに急坂になる。「もう引き返そ」とレイザルは言うが、だましだまし先へ進むとすぐ本来の道にもどった。とはいってもさらに登りはつづく。トンネル工事の現場が見える。これが完成すればちょっとは楽になるだろう。峠を越えて一気に下りきると那久(なぐ)だ。ここの簡易郵便局にも丸ポストがある(9時35分)。小さな集落だが診療所もある。狭い谷に水田が広がる。島だからこそ、すべてを自給しなければならないのだ。稲を干すハデギが立派。稲刈りの頃は壮観だろう。

集落内の川を渡ってすぐに登り返す。一部自転車を押しながら急坂をのぼり、9時55分、峠の横尾トンネルを抜けた。

また下り。湿性草原「油井ノ池」をへて、しばらく下ると油井(ゆい)の集落だ(10時15分)。海でサザエ取りをしている。小さな漁港のわきに松の木に囲まれた三穂神社がある。美保神社の系統なのだろう。水筒の水が足りないから神社の水道から補給する。季節には水仙の群落ができるようだ。

また登る。大嶺トンネルまでは8%の急坂だ。10時45分にトンネル抜けて一気に下ると長尾田だ。予約制の「手打ちうどん」の店があるらしい。こんな小さな集落にどんな人が食べに来るのだろう。……。

道の右側の斜面にある神社で最後の柑橘を食べる。甘くて水分があって最高だ。

【つづく】

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