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遍路㊵結願 志度寺〜大窪寺20200315

 7時発。志度のまちは古い建物が多くて早朝はとくに風情がある。

 こちらを凝視しているネコ、写真を撮っても逃げない。
 志度寺の手前を右に曲がり、車道をまっすぐ歩く。

 自販機のある店の横にマンガ週刊誌を並べた休憩所がある。屋外に古いマンガを並べてだれが読むのだろうか。

 萩地蔵休憩所。休憩小屋のなかに地蔵をまつっている。飯田農園という直売所の敷地内だ。
 ミニストップで山歩き用のあんパンとお茶を買う。県道から川沿いの小道にそれ、橋を渡って田んぼ道を歩くと住宅地に入る。8時46分、87番長尾寺に着いた。

 山門の前は商家や旅館などがある。山門前に陰茎のような石柱が左右に1本ずつ立っている。1本は2メートル近い。弘安年間につくられた「経幢」(経文を刻んだ石柱)という。

 小学校の校庭のような境内に団体の遍路が経を唱えている。
 納経所のおじさん2人は「88番への道は、車道をたどるものと、女体山という山越えがある。山道の方が近道だけど、時間はあまり変わらないよ」と親切に教えてくれた。

 9時10分発。しばらく歩いた、「高地蔵」(灌頂会を催している)の近くの県道と平行する遍路道沿いに地蔵がたくさん並べられ、「出土品保存庫」がある。道路工事で出土したものだろうか。

 10時11分、前山ダム。遍路標識は、女体山越えと車道経由の双方を案内している。「車道直進並足歩行 所要2時間50分。女体山越えは所要約1時間余分にかかる。登坂峻険約500メートル 絶景感動のコース也」と書いてある。車道を歩けば13時半のバスに間に合うが、山越えだと難しそう。でもせっかくだから山越えを選ぶ。ちょっと先の「おへんろ交流サロン」に立ち寄れないのは残念だけど。
 ダムを渡った対岸の静かな道沿いには地蔵が数十メートルごとに立っている。ダムは昭和50年に建設され宿場町の雰囲気を残す集落が水没したという。

 小さな集落から谷川沿いにさかのぼる。石積みの棚田跡があるが、すでに崩れかけて山にかえろうとしている。

 来栖渓谷を経てさらにのぼると、10時50分、譲波公民館という古びた建物が谷川沿いに立っていた。15年前も撮影しているはずだ。無人の山に公民館があるのは異様だが、かつては林業かなにかで生計を立てるムラがあったのだ。獣除けの金属柵の残骸が残る段畑は、この10年以内に放棄されたのだろう。そういえば遍路道沿にいくつもあった小さな畳店も今回はひとつも見なかった。

 立派な別荘風の家を過ぎて登山道に入り、何度か車道と交差しながら登っていく。足下に大きな葉がたくさん落ちている。ホオ葉だ。どこかで食べた朴葉ミソが懐かしい。ホオの木は和包丁の柄に今でも使われているという。
 11時38分、標高490メートルほどのピーク。目の前にそびえる山が女体山だろう。2つの峰が乳房のようだからその名がついたのだろうか。
 車道まで下ったところが太郎兵衛館。山猿を退治した豪の者の伝説が伝わる。今こそ猿を退治すべきなのだが。
 白衣を着た白人のカップルとすれちがう。

 再び登山道に入り、広葉樹の葉が落ちた明るい尾根をのぼる。頂上近くは岩場をよじのぼるようになる。遍路道では例がない登山道らしい登山道だ。12時24分、標高770メートル女体山の山頂に着いた。さすがに寒い。雪もぱらついている。
 山頂からは讃岐平野や瀬戸内海を見渡せる。遍路で最後の山越えだと思うとちょっとさみしい。
 大窪寺方面からはハイカーが登ってきている。下りは木の階段が整えられている。 前回は雨が降っていて、この木の上で滑って、脳までツーンと痛かった。
 下りは1キロちょっと。13時、寺の裏山から境内に入った。標高480メートル。

 本堂の借景は女体山の岩峰だ。山の寺は風景が楽しい。

 本堂の雰囲気も周囲の山とマッチしている。

 杖をおさめるガラス張りの建物の前では原爆の火が燃えている。
 本堂と大師堂の双方で般若心経を唱えた。
 納経所には、結願の証明書2000円と書いてあるが、賞状をもらってもしかたない。
 「幸せだよ」というメッセージを彼岸から受け取ることだけが願いだったけど、かなうわけがない。遍路を終えたからといって心はなにも変わらない。
 でもありがたい出会いはいくつかあった。心と関係なく「体」が生きたがっている、というのはよくわかった。体重は、毎日3杯飯を食べているのに学生時代と同じ64キロに減った。
 とりあえず生きるしかしゃあない、という、ある種のあきらめは感じた。

 山門を出る時、自然に頭が下がった。

 13時半発のバスに乗り、志度で高速バスに乗り換え、コロナ騒動でふだんより静かな大阪の日常に戻ってきた。

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