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遍路⑪室戸岬へ 尾崎〜金剛頂寺 20200207

 6時すぎ、真っ暗ななかを出発する。星が見えないから高曇りらしい。暗いうちはいろいろなことが頭のなかを駆けめぐる。

 50分ほどで椎名の集落に入る。ここには、和歌山県すさみ町の「エビとカニの水族館」のような「廃校水族館」がある。2001年に閉校した椎名小学校跡地で18年に開館した。「日本ウミガメ協議会」のメンバーが運営し、人気を博しているという。
 米軍の潜水艦に撃沈された滋賀丸の遭難慰霊碑は、地元の歴史家たちが事実を調べて昭和49年に建立した。歴史を掘り起こす力が当時はどこの地域にもみなぎっていたのだ。トイレがあるジオパークセンターで朝食休憩。

 三津という集落には丸いポストがある。後から気づいたが、高知には丸ポストがよく残っている。
 アニマル柄の服を着た夫婦が声をかけてきた。大阪から来たと僕が言うと「私らは阿倍野やねん」。定年後に釣りをしたくて引っ越してきた。「いい空気とおいしい魚以外はなーんもあらへん」といってガハハと笑った。

 9時半、真っ白い青年大師像の目の前がホテル明星(あけのほし)。かつてここに泊まった。だいぶ古びている。

 御厨人窟(みくろど)と神明窟という2つの洞窟は、前者に弘法大師が生活し、後者で修行した。この洞窟から見た、空と海だけの景色に感銘を受け「空海」と名乗ったという。
 御厨人窟のなかから見ると、たしかに空と海だけが箱庭のように区切られる。神明窟からも、目の前の道路さえなければそう見えたろう。当時は今よりも海面に近かったらしい。

 寺への登山道の急な石段は荷物の重さが足にくる。20分ほどで登り詰めると目の前が最御崎寺の山門だった。標高160メートルほど。
 納経所のおじさんによるとこの冬一番の寒さで今日は焼山寺で雪が積もったという。「冬と夏は人が少ない。今は混むのは土日だけだね」

 本堂の向かって右にある里芋のような植物は「くわずいも」。地元の人が「これは食えない芋だ」と言って空海に芋をごちそうしなかったら、それ以来本当に食べられなくなってしまった、とされる。今は、胃腸の妙薬とされているらしい。いつから「有用植物」として復活したのだろう。
 境内にある「鐘石」は、小石でたたくと金属のような音がする。斑れい岩という種類の岩だ。
 参道には、観音や大師像とともに、ガンジー、マンデラ、マザーテレサ、キング牧師らの絵を描いたオブジェがならんでいる。

 山門から100メートルほど下ると灯台に出る。地球が丸く見える。遠くの海面に反射する光は羽衣のよう。

 下りは車道を歩き、集落をひたすら歩く。室戸岬の東側は断崖だらけでほとんど人が住んでいないが、西側は平地だから家がとぎれない。人のいない海辺を歩いてきたから、だらだら続く集落は気疲れする。
 12時5分、室戸岬郵便局前の王子宮という神社で休憩する。鳥居に「津呂遠洋漁船船主組合」と刻まれている。遠洋漁業の基地で景気がよかったから、多くの家が建て替えられ、古い家が残っていないのかもしれない。

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 室戸岬港(津呂港)は紀貫之が風待ちで10日ほど滞在した。港の脇に「昭和9年海嘯襲来地点」という碑がある。南海地震ではない。室戸台風による高潮だ。津波なみの被害だったのだ。同様の碑がほかにも2カ所にあった。

 13時すぎ、室津港のわきの路地を入ると25番の津照寺の山門に着いた。

 石段をさらに124段のぼった本堂わきからは、室津港を見下ろせる。海難除けの楫取地蔵として今も信仰されているという。
 シャッターをおろした商店が点在するまちなみを抜け、国道に出ると「忠霊塔」がある。高知はとくに忠霊塔が多い印象がある。国防婦人会などの活動が盛んだったのだろうか。
 津波避難のタワーがあちこちにあるが、入口を板張りして、緊急時だけ板を破って入るという運用にしているところと、タワーの上に倉庫を設けて平時から利用できるところがある。ふだん使わないと疎遠になり、荒れてしまうと思うのだが。

 延々と続くように見えた集落もしだいにまばらになり、畑や田が増えてくる。目の前の山の稜線上に26番はある。

 登山道を登り、さらに「厄坂」の石段を登りきると、大草鞋をつるした金剛頂寺の山門が現れた。境内にはずんぐりした弘法大師像。標高150メートルほどという。

 大師堂のわきに「がん封じの椿」がある。腫瘍のような異形の椿の幹だ。14年前は知人の快癒を祈ったが、知人も、祈った本人もがんで死んだ。

 宿坊にチェックインする。きょうは僕だけ。部屋はきれいで広々している。食事も、マグロの刺身や鮎の塩焼き、テンプラなど食べきれないほど。ここの宿坊の食事はとくに評判がよいらしい。(つづく

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